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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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 それからしばらくして。セーラたちもリリアがすでに教室にいることに驚きつつ、話しかけてくる。いつもの、他愛ない話。ただの雑談だ。それが何故か、いつもより楽しく思えた。

 やがて教師が教室に入り、答案を返し始める。リリアへと渡す時、教師は短く、よくやった、と一言だけ添えた。


 ――さすがリリア。


 嬉しそうなさくらの声に、リリアも薄く微笑む。今回も一位だ。振り返って王子を見てみれば、難しい表情で自分の成績を睨み付けていた。

 リリアが見ていることに気が付いたのか、ようやく顔を上げた王子と目が合った。

 王子は賞賛するように薄く微笑み、すぐに不機嫌そうな表情でそれを隠した。


「次こそは、勝ってみせるぞ」


 王子の宣言に、リリアは頷いて答えた。


「お待ちしております、殿下」


 クリスへと視線を向ければ、クリスは微苦笑しつつも頷いた。リリアも頷きを返し、そのまま教室を後にした。




 ――さすがリリアだね! 一番だ! すごい!


 自室へと戻る途中、さくらが嬉しそうな声を出す。我が事のように喜ぶさくらにリリアも笑みを零してしまう。さくらは本当に手放しで、一番に喜んでくれる。それがとても嬉しい。


 ――ところでどこに行くの?


 さくらの問いにリリアは、自分の部屋と短く答えた。


 ――どこか出かけないの?

 ――今更必要ないわよ。それよりも部屋でゆっくりしましょう。思い出話とかもしたいわね。もちろん、さくらと。


 一瞬黙り込み、すぐにさくらが言った。


 ――うん! いっぱい話そう! たかが一年、されど一年、色々あったからね。

 ――ええ。本当にね。


 早速話を始めるさくらに付き合いつつ、リリアは歩いて行く。

 そうして自室にたどり着いたリリアは、アリサに紅茶を淹れてもらうと一息ついた。アリサとシンシアにも結果を報告すると、二人もとても喜んでくれた。

 紅茶を飲み、カップを置いてゆっくりと息を吐く。アリサはリリアの側に控え、シンシアは天井へと戻っている。リリアが何も言わないためか、アリサも口を開かず、静かな時間が流れている。


 ――さて、今日ぐらいは勉強も忘れて、のんびりと話をしましょう。


 リリアがさくらへと言うと、さくらは嬉しそうに頷いたようだった。




 時折カップに口をつけながら、さくらと会話を続ける。当然ながらアリサたちから見ればリリアはずっと無言のままに見えているだろう。しかしアリサは何も言わず、リリアの少し後ろで静かに控えてくれている。カップが空になると、すぐに新しい紅茶の用意までしてくれていた。

 そのまま時間が流れ、やがて窓から差し込む光が赤くなり始めた頃、部屋の扉がノックされた。さくらとの会話を中断して扉へと目を向ける。すぐにアリサが扉へと向かい、少し開けてからリリアへと振り返った。


「リリア様。ティナ様です」

「ティナ? 少し待ってもらって」

「畏まりました」


 アリサが部屋の外にいるのだろうティナへと何かを言う。リリアはそれを見ながら、さくらへと言った。


 ――ごめんなさい、さくら。続きは夜でもいいかしら。

 ――うん。もちろん。


 リリアは頷くと、アリサへと入ってもらうように言う。すぐにアリサは扉を開け、ティナを招き入れた。


「えっと……。邪魔しちゃった?」

「そんなことないわよ。座りなさい」


 リリアに促され、ティナが対面に座る。用件を聞いてみれば、話をしにきただけ、とのことだった。試験の結果を聞けば機嫌よく笑うので、どうやら良い結果だったらしい。


「今日は晩ご飯の予定は?」


 ティナが笑顔で聞いてくる。特に予定はないが、今日ばかりは食堂に行こうとは思っていない。そう伝えると、ティナは残念そうに眉尻を下げた。


「私はアイラたちと約束してるから……。それまで、お話、いいかな」

「別にいいけど……。どうしたのよ」

「うん。なんだか、妙な胸騒ぎがして……。話をしておかないと後悔しそうで。何でだろう?」


 ティナが不思議そうに首を傾げる。リリアは思わず頬を引きつらせた。本当に、勘が鋭い。もっと別の方面へとその才能を発揮してほしいものだ。だが具体的なことは分からないのか、しばらく談笑をすると満足したのか部屋を後にした。


「また明日、リリア」


 去り際のティナの言葉に、リリアは一瞬言葉を詰まらせた。しかしすぐに表情を取り繕い、


「ええ。またね、ティナ」


 そう笑顔で言って送り出した。

 その後はアリサとシンシアも一緒に座らせ、アリサが用意した夕食を食べる。部屋で用意できるものなので簡単な夕食になってしまうが、豪華な食事よりも二人と何かしら話をしながら食べたいと思っていたのでこれで十分だ。


「リリア様。何かありましたか?」


 アリサが聞いて、リリアは眉をひそめて首を傾げた。


「何が?」

「いえ……。王城でのあの一件以来、少し、その……。様子がおかしいと言いますか……」


 シンシアを見ると、こちらも心配そうな表情で頷いていた。どうやら自分は意外と分かりやすい性格をしているのかもしれない。そう思ってしまった。


「別に何もないわよ」


 そう答えたが、二人は疑わしげにこちらをじっと見つめてくる。リリアは肩をすくめ、それ以上は何も言わなかった。


「私はもう休むから。何かあれば起こして」

「え? あ、はい。畏まりました」


 二人は慌てて立ち上がるとリリアへと頭を下げる。リリアはその二人を目を細めて見つめ、すぐに寝室へと向かう。


「アリサ。シンシア。おやすみ」

「おやすみなさいませ」


 二人の声が後ろからしっかりと聞こえてきて、リリアは満足そうに頷いて寝室に入った。




 ベッドに横になってすぐに、リリアは暗い世界に降り立った。そのまま動かず、静かに待つ。すぐにさくらが飛びかかってくるはずだ。

 だが今日は、いくら待てどもさくらは来なかった。怪訝そうに眉をひそめながら桜の木を見る。その根元にさくらはいて、桜の花を眺めているようだった。


「さくら。どうしたの?」


 声をかけると、さくらが振り返る。悲しげに表情を歪めていた。


「さくら?」

「何でも無いよ」


 そう言って、笑顔を見せてくる。明らかに無理をしていると分かる笑顔だ。もっとも、それも無理はないと思う。ここでさくらと会うのも、おそらく最後だろう。


「明日で最後ね」


 リリアがそう言うと、さくらがさらに表情を歪めた。何かを言いたそうにしつつも、結局すぐに口を閉ざしている。さすがにリリアも苛立ちを覚え、厳しい声音で名前を呼んだ。


「さくら」


 さくらがびくりと体を震わせる。おずおずといった様子で顔を上げるさくらに、リリアはため息まじりに言った。


「今更隠し事はなしよ」

「うん……」


 さくらが頷き、リリアへと言う。


「入れ替わりの時間、なんだけどね。日付の変更の時になるよ」


壁|w・)最後の日なんてなかった。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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