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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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 それに、さくらが今後どうするかも分からない。確かに魔導師になることは強制だが、それはこの国にいる限りだ。別の国に嫁ぐなりすれば、また話は変わってくる。もっとも、今となってはそれも難しい可能性があるが、さくらならどうにかするだろう。


 ――何をしてもいいけれど、アリサとシンシアはお願いするわよ。

 ――ん……。


 気のない返事だが本当に分かっているのだろうか。とにかく、さくらの今後を考えれば、これ以上の安請け合いはしてはならない。

 リリアはセーラの方へと顔を向ける。期待に満ちた瞳を見ると申し訳ない気持ちも出てくるが、だからといって認めるわけにもいかない。極力申し訳なさそうに見えるように表情変えて、言う。


「ごめんなさい、セーラ。今はまだ予定はないわ」

「そうですか……。残念です」


 本当に残念そうな声と表情に胸が苦しくなる。どうにも、甘くなってしまったものだ。リリアは内心で苦笑しつつ、


「ごめんなさいね」


 そう謝罪を口にすると、セーラが驚いたように目を見開いた。すぐに勢いよく首を振る。


「いえ! お気になさらないでください。メイドの勉強はしておきますので、お声がかかる日を心待ちにしております」

「そう……。分かったわ。あまり期待されても困るけれど」

「その時は縁談に乗るだけですよ」


 だから気にしないでください、とセーラは笑い、リリアは曖昧な笑顔で頷いた。




 午前の授業が終わり、食堂でサンドイッチを作ってもらい図書室に向かう。


 ――セーラは私のメイドになることが第一志望なのね。

 ――それは……。どうなの?

 ――珍しくはあるけれど……。まあ、さくらが気にすることでもないわ。余裕があるなら雇ってあげてもいいと思うわよ。

 ――セーラが仕えたいのはリリアにだからね……。それを言っちゃうとアリサとシンシアもだけど。

 ――難しく考える必要はないわよ。


 そんな会話をしつつ、図書室のいつもの部屋の扉を開ける。


「じゃあ次の特集はリリアーヌ様についてで」

「異議なし!」


 閉じた。


 ――…………。助けて。

 ――無理。


 さくらの即答に、リリアはそっとため息をついた。レイならいるだろうと思っていたのだが、リアナたちまでいるとは思わなかった。一瞬だけ聞こえた言葉の内容から、次の壁新聞のことを話しているのだろう。その特集でリリアを取り扱う、とか。


 ――やってもらおうよ。リリアが新聞に載るよ。やったねリリア! 有名人だ!

 ――良かったわね、さくら。もうすぐ貴方よ。

 ――そうだった! 止めないと!

 ――調子いいわね……。


 やれやれと首を振りつつ、もう一度扉を開ける。全員が集中しているようで、リリアには気づかない。静かに中に入り、会話に聞き耳を立てる。


「南側のお菓子をまとめるならやっぱりリリアーヌ様は外せないね」

「リリアーヌ様のお気に入りの店をまとめるだけでも、きっとみんな見てくれるよ」

「それはいいけど、リリアーヌ様に会いに行かないと」


 どんどんと話がまとまりつつある。どうやらリリア個人の特集ではなく、南側のお菓子の特集らしい。その上でリリアのお気に入りの店をまとめたいようだ。


 ――やーい。自意識過剰。

 ――…………。久しぶりにピーマンが食べたいわね。

 ――ごめんなさい!


 ピーマンやだこわい、と小声で呟き続けるさくらに苦笑を漏らし、リリアは最も近くにいるレイの肩を叩いた。レイが驚いて跳び上がり、勢いよく振り返る。リリアの姿を認めると、気まずそうに目を逸らした。

 レイのその反応に、ようやくリアナたちもリリアに気が付いたらしく、全員が顔を青ざめさせていた。


「別に怒らないわよ」


 そう言うと、リアナたちはほっと安堵のため息をついた。テーブルにある紙をのぞき見ると、やはり菓子の特集をするらしく、様々な店の商品の特徴が書き連ねられていた。


「あの! リリアーヌ様!」


 リアナが叫ぶように声を上げる。リアナに視線だけで先を促すと、どこか緊張しているような様子で続けた。


「リリアーヌ様は南側ではどのお店に行っているのですか?」


 リアナの問いに、リリアはテーブルの紙に書かれている店名を指差した。


「ここと、ここと、ここ。これは必ず行くわね。あとはその時の気分次第よ」

「へえ……! ちなみにどのお菓子を……!」


 リリアに詰め寄ってくるリアナに頬を引きつらせつつ、リリアはリアナの質問に一つずつ答えていった。




 午後の授業の時間が迫り、リアナたちが挨拶をしつつ部屋を出て行く。リアナたちを送り出すと、部屋に残されたのはリリアとレイだけになった。リリアは疲れたようなため息をつきながらいすに座り、すっかり冷えてしまったサンドイッチを頬張った。


「ごめんね、リリア」


 向かい側に座ったレイが申し訳なさそうに頭を下げる。リリアは少し遅くなった昼食を食べ進みながら、適当に手を振った。


「あの子たちはやっぱり将来は新聞に関わる仕事をするのよね」


 リアナたちが出て行った扉を一瞥してリリアが言う。レイは、どうだろうね、と首を傾げた。リリアが怪訝そうに眉をひそめ、それを見たレイが少し考えるような素振りを見せつつ言う。


「リアナは間違いないと思うけど、他の三人は分からないよ。リアナと一緒に働くかもしれないし、別の仕事を探すかもしれないし……。まだ迷ってるみたいだね」

「ああ、そうなの……。四人ともとても楽しそうにしているから、てっきりこれからも四人で作っていくのかと思ったのだけどね」

「あはは。まあみんな、結構大きい商店の子供らしいからね。色々あると思うよ」


 なるほど、とリリアは頷いた。皆が皆、やりたいことができるというわけでもないらしい。


「リリアは魔導師になるの?」


 レイが聞いて、リリアは頷いた。


「そうね。多分、だけどね」

「あれ? その、絶対、だよね?」

「どうしても嫌になればどこか別の国に嫁ぐわよ」


 心の中で、さくらが、と付け足しておく。さくらが苦笑したのが分かった。

 それを聞いたレイは目を大きく見開き、身を乗り出してきた。


「あ、あの! もしそうなら! クラビレスに……!」

「お兄様に勝ってから言いなさい」

「う……。が、がんばる……」


 気落ちしたようにレイは項垂れてしまった。その様子を見て、リリアは思わず笑ってしまう。釣られるように、レイも小さく微笑んだ。


壁|w・)他国に嫁ごうとしたら王様が全力で止めてきそうですね。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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