表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/259

184


 寮の自室にたどり着いたのは昼過ぎだった。特にすることもないので、今日一日は部屋に引き籠もろうと思う。さくらも反対しなかったのでアリサにその旨を伝えると、すぐに紅茶と菓子の用意をしてくれた。


「せっかくだし、今日は三人でゆっくりしましょう。シンシア。下りてきなさい」


 天井へと声を掛けると、シンシアが下りてきた。アリサがすぐに追加の紅茶を用意する。


「失礼します」


 アリサとシンシアが言って、リリアの向かい側に座った。二人共大人しく座ってくれはしたが、やはり落ち着かないようではある。動きがどこかぎこちなく、表情も硬い。あまり気にしても仕方がないので、リリアはそれ以上は何も言わずに紅茶を飲む。


「あの、リリア様」


 シンシアが口を開き、リリアがシンシアを見る。緊張した面持ちのまま、シンシアが言った。


「リリア様は精霊が見えると聞いたのですが、本当なのですか?」


 聞かれて、そう言えば二人には言っていなかったと思い出した。誰かから聞いているだろうとは思うが、リリアが自分の口で伝えることはまだしていない。見ると、アリサもこちらをじっと見つめていた。彼女もやはり気になるらしい。

 リリアはシンシアの肩を見る。小さな鳥がその肩にとまっていた。一見しただけではただの鳥だと思ってしまいそうだが、他の二人がその鳥に気づいていないことから、これも精霊の一種だと分かる。だが念のため、聞いておくことにした。


「シンシア。貴方の肩に何か見える?」

「肩、ですか?」


 シンシアが首を傾げ、自分の両肩をそれぞれ見た。アリサもシンシアと自分の両肩を見る。二人そろって首を振ると、リリアは笑みを零した。


「精霊が乗っているわよ」


 シンシアがぎょっと目を剥き、再び肩を確認する。だが当然ながら見ることはできないようで、困惑したまま固まってしまった。もっとも、見えたところで精霊をはたき落とすわけにもいかず、やはり固まっていただろうが。

 部屋を見渡すと、他にも精霊が浮いていた。数は六。何をするでもなく、漂っているだけだ。


 ――精霊ってこんなにいるものなのね。


 屋敷でも自室では多くの精霊を見ることができた。気づかなかった自分に仕方がないと分かっていても呆れてしまう。


 ――本来ならこんなにいないよ。

 ――あら。そうなの?

 ――うん。どの子もリリアを見に来てるだけじゃないかな。


 え、と視線を上げてみる。浮いている精霊の一つと目が合った。小人の姿をしたその精霊は楽しげに微笑むと、何も見ていなかったかのように視線を逸らしてまた漂い始めた。


「やはり見えていらっしゃるのですね」


 アリサの声にリリアが視線を下げる。アリサは真剣な表情でリリアを見つめていた。


「リリア様は魔導師になるのですね」

「そうね……。そうなるでしょうね」


 王から直接言われていることでもある。避けることはできない。他にも選択肢があれば良かったのだが、こればかりはどうしようもない。


「私たちは……。このまま仕えていてもいいのでしょうか?」


 アリサの問いに、リリアは首を傾げた。何故そんなことを聞くのかと。アリサは言いにくそうに口ごもり、代わりにシンシアが口を開いた。


「魔導師となるなら、私たちよりも優秀な方を雇う機会もあるはずです。王城で働く方を雇うこともできますし」


 魔導師が使用人を雇う場合は、それらの費用は王家が負うことになっている。これは平民から魔導師となった者への救済措置とも言える。使用人を雇う場合は、王城で働く者を雇うこともできるため、最初から能力の高い者を雇うことも当然できる。そのため、貴族出身であっても改めて雇う者も多いそうだ。

 二人はリリアがそうするかもしれない、と危惧しているのだろう。リリアはため息をつくと、二人を睨んだ。


「アリサ。シンシア」


 名を呼ばれ、二人が怯えたように体を震わせる。それを見ながら、リリアが続ける。


「私は貴方たちを手放すつもりはないわよ。それとも、貴方たちが私の元を去りたいのかしら」

「そんなことはありません!」


 二人が同時に叫び、リリアは満足そうに微笑んだ。


「それならいいわ。今後ともよろしくね」


 二人へと笑顔を向けると、そろって安堵のため息をつき、笑顔になった。




 翌日。リリアが教室に顔を出すと、一斉に教室中から視線を感じた。静まり返る教室を見渡し、リリアは肩をすくめて自分の席へと歩いて行く。


「リリアーヌ様」


 途中でクリスが声をかけてきた。クリスの方へと視線を向けると、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。


「もう戻ってこないかと思いましたよ。お帰りなさいませ、リリアーヌ様」

「あら。貴方にとっては戻ってこない方が良かったでしょう? 私がいると愛する殿下が一番になれないものね」

「そんなこと思っていませんよ」


 二人で冷たい笑顔を交わし合う。誰もがリリアとクリスの二人から距離を取っていた。


 ――なんでまだ演技を続けるかな……。もういいんじゃない?

 ――今更やめられないわよ。


 クリスと笑顔を交わし、そのまま自分の席へと向かう。席に座ると、セーラたちが集まってきた。嬉しそうな笑顔のセーラたちに、リリアは思わず苦笑してしまった。


「元気そうね」


 短くそう言うと、セーラたちが瞳を潤ませて言う。


「リリアーヌ様も……。王城へと連れて行かれたと聞かされた時は、本当にどうなることかと思いました」

「大げさね」


 そこまで心配することかと思ってしまうが、それほど悪い気はしない。周囲へと視線を投げれば、何人かはこちらの視線に気づき、嬉しそうな笑顔を見せた。今までにないクラスメイトの反応に、リリアは目を丸くしてしまった。


「リリアーヌ様!」


 セーラの声にはっと我に返る。そんなリリアへと、セーラが言う。


「リリアーヌ様は魔導師となるのですよね」


 一体どこから情報を仕入れてきているのか。思わず頬を引きつらせながらも首肯すると、セーラが顔を輝かせた。


「では! 是非とも私をリリアーヌ様のメイドに! 卒業までにメイドの仕事を覚えますから!」

「残念だけれど、もう使用人は決めて……」

「人数の制限はありませんよね?」


 にっこりと笑うセーラの笑顔を見て、リリアは頭を抱えたくなった。確かに人数に制限はない。制限はないが、だからといってあまりリリアと近しい者を増やしたくはない。さくらが苦労することになる。


 ――ん? そう?

 ――私とさくらとだと、性格が違うでしょう。増えると誤魔化しづらくなるわよ。

 ――ああ、まあ確かに……。でもどう考えても誤魔化し続けるのは無理だからね……。

 ――それでも、可能性は少ない方がいいでしょう。

 ――ん……。そうだね。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ