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王と話をする時は、年末の夜会など、王自ら楽にしろと言う時だけだ。王はしばらく笑っていたが、すぐに真剣な表情になった。
「学園を卒業すれば、そういった機会の方が少なくなる。私に言いたいことがあれば、先に言っておくように」
「畏まりました」
リリアの返事に王は苦笑を漏らし、しかしすぐにまた真面目な表情で口を開こうとして、
「お待たせしました」
リリアの目の前にカレーライスが置かれた。
「あの……。陛下」
「気にするな。先に食べなさい。待っているから」
「申し訳ありません」
「ゆっくり食べなさい」
王の言葉に甘えリリアは早速食べ始める。すぐにさくらの機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえ始め、リリアも心の中だけで共に歌う。表情の柔らかくなったリリアを王は興味深そうに見つめていたが、リリアには何も言わずに、
「すまない。私ももう一杯」
お代わりを頼んでいた。
ゆっくりと味わって食べ終えたところで、ふと王を見ると、王は笑いを堪えるように肩を揺らしていた。リリアが首を傾げると、王は何でもないと手を振った。
「美味しそうに食べるからな。少し嬉しくなっただけだ」
さて、と王は従業員を呼び、食器を片付けさせる。何もなくなったテーブルに手をつき、王はリリアへと視線を向ける。いつになく真剣味を帯びた瞳に、リリアも姿勢を正した。
「リリアーヌ。いくつか話がある」
「はい」
「まず一つ目だが……。お前が使った魔法陣は今後どうするつもりだ?」
精霊を見えるようにする魔法陣のことだろう。リリアにはその時の記憶など全くないが、いつかは聞かれるだろうと思っていたため、さくらから詳細を聞いていた。それを聞いた時に、すでにどうするか決めている。
「あの魔法陣は、無実を証明するために使ったものです。今後は二度と使わないことを約束致します」
王にとって満足する答えだったのだろう、よろしい、と王は頷いた。少しだけ安堵の色も見える。
「では次だが……。精霊が見えるようになっている以上、王家が魔導師としてお前を雇うことになる。そのつもりでいてほしい」
「はい。承知しております」
「よろしい。後は、そうだな……。フリジアのことだが、レスター伯爵領のブレイハ家に送られた。下働きとして働き続けることになるだろう。ブレイハの者は困惑していたようだがな」
それはそうだろう。突然、上級貴族の娘が下働きとして王家より送られてきたのだ。それも、自分たちが暮らす領を治める貴族の娘だ。どのように扱っていいか戸惑うだろう。
「もっとも、娘を刺したことが分かると激怒していたらしいからな。王家より許可もある。相応の扱いになるだろう」
それで良かったか、と王がリリアへと視線を向けてくる。
――さくら。これで満足かしら?
――足りない。でも、リリアが怒ってないならいいよ。
どうやらさくらは納得していないようだが、リリアの感情を優先してくれるらしい。小さく苦笑を漏らし、王へと頷いた。
「はい。問題ありません」
「うむ。では私からの話は以上だ」
ありがとうございます、とリリアが頭を下げると、王は軽く手を振った。立ち上がり、向かい側に座っていた男が支払いのために席を離れていく。リリアも席を立つと、アリサとシンシアに目配せをした。すぐに察したようで、帰り支度を始めた。
「リリアーヌ」
リリアが顔を向けると、王は優しげに微笑んでいた。
「学園生活も残りわずかだ。しっかり楽しみなさい」
そう言ってリリアの頭を撫でると、店を出て行く。リリアはそれを見送り、小さくため息をついた。
――疲れた……。
――あはは……。帰りに何か買って行こうよ。
さくらの提案にリリアは頷き、アリサとシンシアへと視線を送る。その時の店内に残っている他の客がリリアのことを見ていることに気づき、すぐに店を後にした。
リリアの目の前には花壇があった。色とりどりの花が咲き誇る花壇だ。リリアの隣では、テオが自慢気に胸を張って、花を一つ一つ説明してくれている。逆側の隣では、アリサが唖然としつつも、どこか嬉しそうにしていた。
――すごいね。とっても綺麗。
さくらの言葉に、リリアは頷いて同意を示す。これがあの何もなかった花壇とは思えない。
「以上です。どうですか、お姉様」
満面の笑顔を向けてくる弟に、リリアも笑顔を見せてテオの頭に手を置いた。
「ええ。素晴らしいわ、テオ。褒めてあげる」
「ありがとうございます!」
嬉しそうなテオの笑顔を、リリアは眩しそうに目を細めて見つめてしまった。
自室でのんびりと過ごし、家族の誰かとお茶を飲み、夜はさくらと語り合う。久しぶりにゆっくりとした時間を過ごしている。特に変わったことをするわけでもなく、二週間ほどを屋敷で過ごし、学園に戻ることにした。
「寂しくなるな」
「忘れ物はないですね?」
「あまり周囲に迷惑をかけるなよ」
「お姉様、お気をつけて!」
悲しげな父に心配そうな母、少し憮然としつつも心配してくれているらしい兄と笑顔のテオ。リリアは家族の姿をしっかりと見る。これが、最後だ。
「それでは、お父様、お母様、お兄様、テオ。お元気で」
リリアは笑顔で言って馬車に乗り込む。父と母が怪訝そうに眉をひそめていたが、もしかすると違和感でも覚えたのかもしれない。
――リリア……。
――大丈夫よ。
馬車が走り始める。ゆっくりと、屋敷から離れていく。リリアはいすに深く腰掛けると、小さくため息をついて目を閉じた。
壁|w・)次は学園でまったり。
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ではでは。




