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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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「は? な、なんで……?」

「貴方には色々とお世話になったもの。恩返しをしようと思えば、これでも足りないぐらいでしょう」

「そ、そんなことないよ。実際にがんばったのはリリアだし……」

「それに、私は生まれ変われるのでしょう? 貴方も私の体を使えば、もしかしたら精霊たちが勘違いして生まれ変われるかもしれないじゃない」

「そ、それはさすがにないと思うけどなあ……」


 さくらが曖昧な笑顔を浮かべ、リリアはそれは残念ねと肩をすくめた。リリアが続ける。


「それに、私の意志はあまり関係ないのでしょう。嫌だと言いながら、何かを呪いながら渡すよりは、貴方にあげて残りを気分良く過ごした方がいいと思わない?」

「いや、でも……」


 さくらが言い淀み、やがてそっとリリアを上目遣いに見つめてきた。


「どうにか、するよ。奪わないように」


 それを聞いたリリアは。


「必要ないわよ。もう私の気持ちは変わらないから」

「で、でも……」

「さくら」


 さくらを真っ直ぐに見据えると、さくらはびくりと体を震わせながらも、おずおずとこちらを見返してくる。普段では見ることがない、本当に怯えたような表情だ。それを見るだけで、さくらがどれだけリリアに知られる日を怖れていたか分かってしまう。

 もう十分だろう。さくらは生を奪われ、さらには長い間、あの何もない闇にも耐え続けたのだから。対してリリアはこれまで好き勝手生きてきた。生まれ変わることができるなら、この親友に体を譲るぐらいはしてもいいと思える。

 本音を言えば、これからもさくらと共に生きていければと思うが、それは望んではいけないことだろう。


「約束の日に私の体をさくらにあげる。受け取ってくれるわね?」


 リリアがそう言って微笑むと、さくらはやはりと言うべきか、泣き始めた。本当に泣き虫だ。


「ごめ、なさい……」

「いい加減泣くのをやめなさい。まったく……」


 そう言いながら、さくらの頭を撫でてやる。さくらは何度も嗚咽を漏らしながら、


「ありがと……」

「どういたしまして」


 もらい泣きしそうになるのを堪えながら、リリアは笑顔で言い切った。




 リリアは薄暗い部屋で目を覚ました。今朝方までいた部屋とは違い、どう見ても値段の張る家具が並ぶ豪華な部屋だ。おそらくは王城の客室だろう。なぜこんな部屋にいるのかと疑問に思ったところで、すぐに思い出した。さくらはメイドに案内された部屋だと言っていたはずだ。まさかこのような部屋が用意されるとは思っていなかった。

 窓から見える景色を見てみれば、すでに太陽は沈んでいるようで暗くなっていた。一日を無駄にしてしまったような気がしてしまう。いや、よくよく思い出せば、一週間近くも無駄にしている。


 ――さくら。約束の日は具体的に分かるの?


 心の中でさくらへと問えば、すぐに返答があった。


 ――次の試験の翌々日、だよ。

 ――一ヶ月ないわね。


 残り一ヶ月足らずで、悔いなく終わらせなければならない。なかなかに厳しいものがある。そう思いながら早速頭の中で計画を立て始めたのだが、すぐに愕然とした表情になった。


 ――さくら……。

 ――な、なに?

 ――一週間あれば十分なのだけど。


 幸いと言うべきか、挨拶したいほぼ全員が学園内にいる。他はアルディスに所属する者たちだけなので、屋敷にいないとしても王都のどこかにはいるだろう。どれだけ長く見積もっても、一週間あれば挨拶は終わる。


 ――え? えっと……。他にやりたいことはないの? 食べておきたいものとか。

 ――食べたいものね……。そうね、もう一度、かれーらいすは食べておきたいわね。

 ――うん。行こうね。

 ――一日かからないわよ。

 ――えー……。


 リリアがどうしましょうかと悩み始め、さくらもまさかこんなことになるなんて、と頭を巡らせているようだ。さくらと共に食べ歩きをしよう、とそれも予定に入れるが、やはり半分以上空いたままになっている。


 ――うん。空けたままにしておこうよ。


 さくらの言葉に、リリアは首を傾げた。


 ――後で、これもしたいって思い出すかもしれないし。


 なるほど、とリリアは頷いた。確かに家族や友人と話をしている間に、何かやりたいことが増えるかもしれない。残りはそのために置いておくのも悪くはないだろう。もし埋まらなければ、残り数日ぐらいはさくらと二人でのんびりと過ごすのも悪くはない。


 ――明日から早速、準備を始めましょう。手伝ってくれるわね?

 ――あいあいさー。


 さくらの元気な返事に、リリアは小さく笑みを零した。




 翌日。リリアは城のメイドに、食堂へと案内された。広い食堂には長いテーブルがあり、そのテーブルの隅に王と王子が座っていた。それを見て、リリアは絶句してしまった。王族の二人がいたから、ではない。それはメイドに予め聞いていたことだ。リリアが驚いたのはその王の側に、小人のようなものが浮いていたためだ。


 ――さくら、あれってまさか……。

 ――うん。精霊だね。


 当然のように答えるさくらに、リリアは混乱してしまう。精霊など初めて見た。何がどうなっているのか、と思っていると、さくらに上を見るように促される。視線だけを上げてみれば、天井の側には大きさや姿は違えど、精霊だと思われるものが大勢浮いていた。


 ――ど、どうして……。

 ――うん。あとで説明してあげるから、とりあえず座ろうよ。王様たちが困ってるよ。


 言われて、リリアははっと我に返った。王を見てみれば、困惑したような表情を浮かべてこちらの様子を窺っている。リリアは小さく深呼吸すると、メイドに案内されて王子の向かい側の席に座った。

 王子を見てみれば、彼も怪訝そうに眉をひそめてこちらを見ていた。何でもありません、と小さく首を振りながら、リリアは王へと言った。


「お招きいただきありがとうございます、陛下」

「いや、良い。今回も礼儀など気にする必要はない。楽にするように」


 畏まりました、とリリアが頷いたのと同時に、朝食が運ばれてきた。


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ではでは。

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