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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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「他には? もう何もないの?」


 精霊が楽しそうに聞き、リリアは苦笑しながら以上ですよ、と首を振った。精霊は残念そうにため息をつき、


「それじゃあ行くよ。何かあればまた呼んでね」


 そう言って、精霊が動き出す。魔法陣から出ると、精霊の姿も見えなくなった。

 部屋は静まり返っていた。誰も、何も一言も発さない。リリアはそんな自分たちを一瞥して、足下の紙を折り畳んでいく。小さく折り畳んだところで、紙は突然燃え上がり、灰すら残さず消滅した。魔導師たちが残念そうにため息をつくが、それも当然だと言えるだろう。今まで見たこともない魔法陣、その上効果は、他の人間に精霊を見聞きできるようにさせるというもの。喉から手が出るほど欲しいと思ったことだろう。

 リリアはそんな魔導師たちを冷たい目で見据え、すぐにまた笑顔を貼り付けた。


「これが私の用意できる全てです。いかがでしょうか、陛下」

「あ? あ、ああ……。そうだな……」


 王も、想像すらしたことのなかった事態に頭の回転が追いつかなかった。とりあえず頷いてから、すぐに自分のすべきことへと頭を働かせる。王はゆっくりと頷き、フリジアへと言った。


「フリジア。前に出ろ」


 呼ばれたフリジアは、顔面蒼白で今にも倒れそうなほどだった。兵士に促され、部屋の中央まで歩いてくる。それに入れ替わるように、リリアは後ろに下がった。


「フリジア。何か、申し開きはあるか?」


 王の問いに、フリジアは何も答えない。いや、答えようと口を開いてはいるが、何も言えないでいるようだ。


「お前の罪は、重い。死罪などでは済まされないものだ」


 危うく、無実の者に、リリアに罪を言い渡すところだった。それを考えただけで、王の中に激しい怒りが生まれてくる。最早顔も見たくはない。手早く死罪を言い渡そうとしたところで、


「お待ち下さい」


 リリアから待ったの声がかかった。驚きに目を瞠る王へと、リリアが言う。


「死罪は賛成致しかねます」


 フリジアが顔を輝かせた。救いの神でも見るかのようなその視線を、けれどリリアは冷たく受け取った。


「だが、リリアーヌ。この者へ減刑などできるはずも……」

「減刑? それこそ論外です」


 王が眉をひそめる。リリアはゆっくりと前に出る。フリジアの目の前で立ち止まり、リリアは、微笑んだ。

 身の毛のよだつような笑顔だった。


「私の、リリアーヌ・アルディスの道に人の死など必要ありません。貴方も、死にたくはないでしょう」


 フリジアが必死に頷き、リリアは一転して優しげな笑顔を浮かべた。


「では、この魔法陣に触れてください」


 いつの間に用意したのか、リリアの手には魔法陣が描かれた小さな紙があった。フリジアがおずおずといった様子でその魔法陣に触れる。すると魔法陣が仄かに光り、


「え……?」


 フリジアの全身に、幾何学的な模様が刻み込まれた。呆然とするフリジアへと、リリアが言う。


「名付けるなら、精霊の監視にちなみ、精霊の束縛、でしょうか。今後、貴方は、王族もしくはアルディス家、ブレイハ家の言葉には絶対服従となります。違反をすれば精霊が貴方を罰するでしょう。王族やアルディス家、ブレイハ家にとって不利益となることも罰されます」


 リリアはそこで言葉を句切り、酷薄な笑みを浮かべた。

「この国のために貴方の人生を捧げなさい」

 それが、リリアがフリジアに与える罰らしい。死ぬことは許さず、けれど自由に生きることも許さない。王としてはその方が軽いとも思えるのだが、被害者の一人とも言えるリリアがそれで納得するのであれば、問題はないだろう。

 正直なところ、今のリリアにこれ以上関わり合いになりたくないだけだとも言えるのだが。


「陛下。いかがでしょうか? 死罪の方が適しているとお考えなら、私はこのまま彼女に、死ねと命じますが」


 王は疲れたようなため息をつくと、力無く首を振った。


「必要ない。フリジアの身柄は一先ずこちらで預かるが、構わないな?」

「もちろんです」


 王は頷くと、兵士たちにフリジアを連れて行くように命じる。その兵士たちに連れられて、フリジアは部屋の扉へと歩いて行く。


「ありがとうございます、リリアーヌ様」


 すれ違う際、フリジアがリリアへと言った。どうやらフリジアは、リリアが自分のことを助けてくれたのだと思っているらしい。実際のところはどうなのかは分からないが、そうと周囲の貴族にまで思われてしまうのは避けなければならない。

 王が口を開こうとして、しかし先にリリアが言った。


「何を勘違いしているのかは分かりませんが」


 凍てつくような、冷たい声音だった。


「私は貴方を許すつもりはありません。私は貴方を側に置くつもりもありません」


 リリアが微笑む。酷薄に。


「言い方を変えましょうか。貴方の一生をブレイハ家に捧げなさい。下級貴族であるブレイハ家に、ね」


 フリジアが目を見開き、見る間に顔を青ざめさせた。それきり、リリアはフリジアに興味を無くしたかのように視線を逸らしてしまう。それ以上は何も言わず、項垂れたフリジアは兵士たちに部屋の外へと連れて行かれた。


「勝手をして申し訳ありません、陛下」


 リリアの声に、王は首を振った。


「いや、問題ない。それよりも、疲れているだろう。部屋を用意させる。今日一日は休んでいくといい」

「恐れ入ります」


 王が兵士を一人呼び、外で控えている使用人に言伝を頼む。兵士がすぐに部屋を出て行き、そしてさほど時間をおかずにメイドが一人、入ってきた。リリアへと恭しく一礼して、外へと案内していく。

 リリアが退室して扉が閉まってから、王はゆっくりとため息をついた、


壁|w・)極刑は避けました。見方によれば余計にたちが悪い罰を与えられましたが。言い方変えれば奴隷の罰という……。


あと、大事なお知らせです。

書籍化! します! よー!

まだ諸々の調整中なので詳しいことはお話しできません。決まり次第、またご連絡いたします。

また、それに伴い、少しばかり作業が増えてしまいました。

毎日更新が厳しくなるので、偶数日の隔日更新に変更させていただきたく思います。

毎日読んでくれているという方には申し訳ないのですが、ご了承いただければと思います。

後ほど、活動報告にもこそこそ書かせていただきます。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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