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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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 リリアが頭を下げると、王子は心配そうな目でこちらを見ながら何かを言いたそうにしていたが、結局何も言わずにそのまま退室していった。それを見送ってから、リリアはいすに深く腰掛けた。


 ――さくらが蒔いていた種ってこのこと?


 リリアの問いに、さくらは少し考えるように間を置いてから、


 ――明日答える。


 リリアは首を傾げながらも頷いた。




 次の日に訪ねてきたのはティナとレイだ。ティナの嬉しそうな笑顔から、どうやらいい方向に話が向かっているようだと察しがついた。


「何かいいことでもあったの?」


 対面に座った二人に早速とばかりに聞いてみると、ティナはすぐに頷いて言った。


「リアナって子たちが壁新聞を作ってリリアのことを伝えているんだけどね」


 それは知っている。だが話の腰を折るようなことはせずに、ティナの声に耳を傾ける。


「その話が街の方にまで伝わっていて、たくさんの人、特に南側の人たちがリリアがそんなことするはずがないって呼びかけてくれてる。あまりにも人数が多いから、賛同者の名前を集めて意見書として出してくれたらしいよ。少人数だと聞いてもらえないことの方が多いけど、今回は人数が多いから考慮の対象になるはずだって」


 どうやら想像以上にリリアを擁護してくれる人は多いらしい。物好きな人もいるものだ。

 レイへと視線を向けると、レイも心配そうにしていたが、すぐに破顔した。


「元気そうで良かった」


 レイの言葉にリリアは肩をすくめた。こんな場所で体調を崩すわけがないだろう、と。リリアがそう思っていることを察したのか、レイは小さく笑った。


「証言をしてくれる人が見つかったよ」


 リリアが目を瞠り、それをおかしそうに見つめながらレイが続ける。


「ティナを見つける前に寮の外に出ていたよね。その時の、寮の窓に誰かいなかった?」


 言われて、そう言えばと思い出した。リリアからは光の加減で顔を見ることはできなかったが、確かに目が合った生徒がいた。どうやらその生徒からはリリアをしっかりと確認できていたらしい。


「その人が殿下を通じて陛下たちに連絡してくれたんだ。意見書も踏まえて、本当は誰がやったのかって話になりつつあるから安心していいよ」


 ティナとレイの笑顔を見て、リリアはそう、と小さく呟き、そっと息を漏らした。一時はどうなることかと思ったが、さくらの言うように無事に終わりそうだ。

 リリアに気を遣ったのかは分からないが、二人はその後すぐに退室していった。一人残されたリリアは張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、いすの背もたれに体を預け、とても長いため息をついた。


 ――良かったね、無事に終わる算段がついて。リリアが皆に愛されていて、私は嬉しいような寂しいような、そんな気持ち。

 ――無事に終わるみたいで良かったわ。愛されているかは分からないけれど。


 リリアが肩をすくめると、さくらが意外そうに、どうして? と首を傾げたのが分かった。


 ――以前のままのリリアだったら、間違いなく誰も協力なんてしてくれないよ。リアナたちは正しい情報を広めようともしなかっただろうし、南側の人たちもリリアを擁護しようとはしなかったと思う。変わろうと努力して、皆がそれを知っていて今のリリアを認めてくれているから、皆がリリアのためにがんばってくれたんだよ。

 ――そういうものなの?

 ――そういうものなの。


 リリアにとってはいまいち実感の湧かないことだ。多くの人が今のリリアを認めてくれているのなら、とても喜ばしいことなのだろうが。リリアは少しだけ考えるように天を仰ぎ、しかしすぐに諦めて首を振った。


 ――分からないし考えるのも面倒ね。

 ――あはは。リリアはそれでいいよ。


 さくらが楽しげに笑い、リリアも小さく微笑んだ。




 近いうちに部屋を出ることぐらいはできるだろう。そう思っていたのだが、翌日になっても部屋から出されることはなかった。それどころか誰も部屋を訪れず、さすがにリリアも違和感を覚えてしまった。


 ――さくら。どうなってるの?

 ――さあ……。ちょっと嫌な感じはするけど……。


 その答えは、さらに翌日に分かることになる。

 昼過ぎに部屋の扉が開かれ、王子と兵士が数人入ってきた。王子は不機嫌を隠すことなく表情を歪めており、周囲の兵士はその王子の怒りの矛先を受けないようにわずかに距離を取っている。だがそんな王子も、唖然としているリリアを見て慌てたように表情を隠した。


「リリアーヌ。共に来てほしいのだが、いいか?」

「あら、殿下。私に拒否権があるのですか?」

「ないな。それだけ軽口を叩けるなら大丈夫だ」


 王子はわずかに頬を緩め、しかしすぐに真剣な面持ちとなった。戸惑うリリアに、王子が続ける。


「事情は歩きながら説明する。とりあえず来てほしい」




 歩きながらの王子の話によれば、ティナを刺した犯人が捕まったそうだ。フリジア・レスターとのことだった。ただ、彼女の計画では、第一発見者はリリアではなく王子になる予定だったそうだが。その王子も兵士たちと一緒に来るとは思っていなかったらしい。


「夜中に一人で出歩くほど殿下も馬鹿ではないのは、考えれば分かるでしょうに」

「う……。グレンに止められるまでは一人で行くつもりだった……」

「…………。何も言いません」


 彼女の目的は単純なもので、リリアを元のリリアに戻すこと、だったそうだ。


「私ですか?」

「ああ、そうだ。どうやらフリジアは、以前のお前に憧れていたらしいな。フリジアの屋敷での振る舞いを人伝に聞いたが、リリアーヌに憧れて真似をしていたらしい。お前の影響だそうだ」


 そんなフリジアの憧れが、ある日を境に一変した。王子から婚約破棄を言い渡され、屋敷に引き籠もった後だ。原因は王子であり、そしてリリアを腑抜けさせたのは交友関係が増えたティナだと認識したようだ。その結果が今回の犯行らしい。二人がいなくなれば、元のリリアが戻ってくると考えたのだろう。


 ――もしかして私が外にいたら、殺されちゃってたのかな?

 ――そうね……。そうなるのでしょうね。

 ――あはは……。ぞっとしないね……。

「私が呼び出しを受けた理由は聞かせていただけますか?」


 王子が足を止め、リリアへと振り向いた。


「フリジアは、お前の指示を受けたと言っている」


 リリアが眉をひそめ、王子が続ける。


「無論、今までの調べた内容と食い違うために、信用できるものではない。だが……」


 王子はそこで一度言葉を区切ると、小さくため息をついた。そのまままた歩き出し、リリアもそれを追う。歩きながら、王子が口を開いた。


「フリジアが証拠として、お前からの手紙を提出している。筆跡は違うのだが、手紙にはアルディスの紋章が刻印されていた」


 刻印入りの手紙はその家の人間しか使わないものであり、その家の屋敷にしかないものだ。その刻印のある手紙は、関係のない者は見てはならないことになっている。爵位が下の者の手紙は上の者なら見てしまっても誰も咎められないが、上の者の手紙なら責を負うことを怖れ誰も開かない。アルディスの刻印入りなら、王族以外では誰も開けないはずだ。


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ではでは。

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