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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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「これを機にアルディスを潰す材料が欲しいのだろうな。心配せずとも、お前が不安に思うようなことにはならない。私たちが防いでみせる」

「それは……。可能なのですか?」

「陛下の意志でもある」

「なるほど。それならば安心ですね」

「そうだろう。……ん? いや待て。まるで私では信用できないような言い方だな」


 王子が半眼でリリアを睨み、リリアはそっと視線を逸らした。王子はしばらくリリアを睨んでいたが、やがて力無く微笑んだ。


「軽口が言えるなら、お前は大丈夫だな。明日にはティナも面会に来るだろう。グレンをつけて入れるようにさせる」

「それはとても楽しみですね」


 リリアがそう言うと、王子は何かを言いたそうに口を開いたが、しかしすぐに閉じて小さくかぶりを振った。


「学園内で何かしらの証言がないか探してみよう。リリアーヌは誰かと会ったなどはないのか?」

「ありませんね。時間が時間ですし」


 そうだろうな、と王子は肩を落として、それではな、と退室していった。


 ――殿下がここまで協力してくれるとは思わなかったわ。


 王子が出て行った扉を見ながらリリアが内心で呟くと、さくらはおかしそうに笑いながら頷いたようだった。


 ――確かにね。王子もリリアの今までの行いを見て、協力してくれるつもりになったんじゃないかな。

 ――そうなのかしらね。


 しばらく扉を見つめていたが、やがてため息をついて首を振った。




 何もすることがなく、本当に暇だ。あまりにも暇すぎて、夜までさくらの講義を聞き続けてしまった。翌日も食事以外はすることがなく、さくらの講義を聞き続けている。ただ、やはり書くものがないと少し不便だ。

 昼過ぎになり、王子が言っていたようにティナが訪れた。グレンと共に部屋に入り、リリアの対面に座る。ティナは顔面蒼白になっており、今にも泣きそうにこちらを見ていた。


「リリア、ごめんなさい……」


 開口一番のティナの謝罪に、リリアは首を傾げた。何に対しての謝罪なのか分からない。


「私が、あんなところに行かなければ、こんなことにならなかったのに……」


 リリアは思わず呆れたようなため息をついてしまった。確かに真夜中に出歩くことは良い行いとは言い難いが、リリア自身夜の散歩をしていたのでその点については何も言えない。それに、やはり責められるべきは刺した者であってティナではない。


「体調はどうなの? もう出歩いて大丈夫なの?」


 ティナの謝罪を無視してそう聞くと、ティナはおずおずといった様子で答えてくれる。


「うん……。問題は、ないよ。最初の処置が良かったからもう完治してるって。お医者様も驚いてた。ただ、ここに来るのには無理を言っちゃったけど……」


 やはり医師からは外出に関しては良い顔をされなかったようだ。それも当然だろうと思う。昨日の今日で完治、という方がおかしいのだから。


「それでも、どうしても直接言いたかったから。リリアが助けてくれたんだよね。ありがとう」


 そう言ってティナが微笑むが、眉尻が下がったままだ。


「ねえ、リリア。リリアは大丈夫だよね?」


 ティナの問いに、リリアは肩をすくめて言う。


「どうでしょうね。何かしらの証言があれば変わってくるかもしれないけれど、上級貴族に進んで関わろうとする者なんて稀でしょう」

「そんな……。もしこのままだと、どうなるの?」

「悪くて死罪、ですって」


 他人事のように平然と答えてやると、ティナは目を見開き蒼白になり、口をあんぐりと開けていた。忙しいことだ。


「どうして、そんなに落ち着いてるの……?」


 ティナの小さな声に、リリアは少し考えて、言う。


「今更私にできることなど何もないでしょう。それなら慌てるだけ無駄よ。なるようにしかならないわ」


 もっとも、リリアもさくらが大丈夫だと言ってくれなければ、これほど落ち着いてはいられなかっただろうが。

 ティナは泣きそうな顔でリリアを見つめていたが、やがて意を決したような真剣な表情になって立ち上がった。その変わりようにリリアが目を白黒させるが、ティナは気にせずにリリアへと言った。


「証言があればいいんだよね」


 がんばるよ、とティナは拳を握り、部屋を出て行く。リリアだけでなくグレンも呆然とした様子でそれを見ており、リリアが声をかけると慌てたようにティナを追っていった。


 ――くく、あ、はは……。


 さくらの堪えるような笑い声を聞きながら、リリアは何もできずに口を半開きにして唖然としたままになっていた。




 翌日は家族が訪れた。母の話では、精霊たちの証言によりリリアが無実だということは分かっていることらしい。本来なら精霊たちの証言で済んでしまうのだが、問題は母が魔導師であることだ。精霊がどのように証言しても、それを伝える者が母か母と関わりのある者たちだけなので、ほぼ考慮されないことになる。

 通常の確認方法が使えない。そのために話し合いも長引いているそうだ。


「せめて、誰でも精霊を見ることができれば……」


 母が悔しそうに呻き、父と兄はいつになく怖い顔になっていた。


「やつらめ……。アルディスを敵に回したこと、後悔させてやる」


 どうやら兄は相当腹に据えかねているらしい。リリアですら少し引いてしまうほどだ。


「可能な限りこちらでも手を回す。リリアは何も心配する必要はないぞ」


 父は最後にそう言って退室していったが、その表情から状況がいかに厳しいか察することができた。本当に不安になってくるが、


 ――大丈夫だよ。


 さくらの声を信じて、リリアは心を落ち着かせた。




 様子が変わってきたのはその翌日からだ。

 部屋を訪れた王子は憔悴しきったように見えたが、その表情はどこか明るいものがあった。何があったのか聞くと、王子は力無く笑いながら言った。


「お前が疑いをかけられて捕らえられていると聞いたリアナたちが、この件で壁新聞を作った。いかにお前が素晴らしいかという内容で、お前の無罪を主張していた。賛同者も多くいたそうだぞ」


 リアナたちがそこまでしてくれるとは思っておらず、正直意外だった。その上、わざわざこのためだけに壁新聞を作るとも思わなかった。本来なら噂だけが広がってしまうものだが、これでそれなりに正確な情報が学園内では広まることだろう。


 ――さくら。これを見越してリアナたちの壁新聞に協力させたの?

 ――えっへん。と言いたいところだけど、ただの偶然です。

 ――ああ、そう。見直して損したわ。

 ――えー。


 王子が咳払いをして、リリアはすぐに姿勢を正した。


「リアナたちはお前のために動いている。諦めないようにな」

「はい。お伝えいただきありがとうございます、殿下」


 実際のところ、リアナたちがいくら動いてもそれは学園内のことだ。ここから何かしらに進展するかは分からないが、それでも自分のために頑張ってくれていると聞くと嬉しくなり、少しだけ頬が緩んでしまった。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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