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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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「ところで、殿下はどうしてあの場所にいらしたのですか? シンシアが呼んだわけでもないようですし」


 リリアが聞くと、王子はより一層難しい表情になった。


「私宛に、この時間にあのエントランスに来て欲しい、という手紙がきていたのだ。あまりにも怪しいが、それ故に何かあるだろうと考え、兵士と共に様子を見に行った」


 それであれほどの人数がいたのか、と妙なところで納得してしまった。もしかすると、ティナも同じように誰かに呼び出されたのかもしれない。


「ティナと一緒にいてあげなくてよろしいのですか?」


 ふと気になったことを聞いてみる。王子ならティナの側にいるだろう、と思ったのだが。


「私が共にいるよりも、お前を助ける方がティナも喜ぶだろう。自分のことはいいからリリアを、と言われる気がする」


 無論不本意ではあるが、と王子がそっぽを向き、グレンが思わずといった様子で噴き出した。王子がグレンを睨み、グレンはすぐに姿勢を正す。それでもまた体が小刻みに震えていた。


「だがあまり意味はなかったな。私が口添えできることもない。どうするべきか……」


 王子が唸っている間に、馬車がゆっくり止まった。グレンが先に降りて、続いて王子、そしてリリアが降りる。ブロソは最後だ。馬車が止まったのは王城の正面だった。門の前で兵士たちが待機しており、リリアたちを待っているようだった。

 兵士たちは王子の姿を見て目を丸くしていたが、すぐに我に返るとリリアの目の前まで歩いてきた。


「殿下。ここからは我々がご案内致します。リリアーヌ様、共に来ていただけますか?」


 リリアが緊張の面持ちで頷くと、兵士がすぐに先導を始める。その両隣、そして真後ろにも兵士が立った。囲まなくとも逃げはしないというのに。


「リリアーヌ。心配しなくともいい。私たちに任せていろ」


 ずいぶんと抽象的な言葉だ。それでもリリアは笑顔を浮かべ、王子へと頷いた。




 リリアが案内された部屋は、王城にある小さな部屋だった。牢屋というわけではなく、小さいながらも整った部屋だ。柔らかそうなベッドもある。ただし窓は小さく、光を取り入れるためのものしかない。唯一の扉の前には兵士が常に常駐しているらしく、時折話し声が聞こえてきた。


 ――罪を犯した貴族のための部屋、かな。


 さくらの声に、リリアは神妙な面持ちで頷いた。ベッドに腰掛け、ゆっくりとため息をついた。いつの間にか日はすっかり昇ってしまっているようで、小さな窓からは朝の光が差し込んでいる。たった数時間でこんなことになるとは思わなかった。


 ――さくら。この後はどうなると思う?


 リリアが聞いて、さくらが少し間を置いて答える。


 ――良くて精霊の監視。悪くて流罪。そんなところかな。

 ――そうよね……。


 精霊の監視だとしても、犯罪に関わった者として生きていくことになる。避けたいところではあるが、今となってはどうしようもない。


 ――ティナを助けたこと、後悔してる?


 さくらの声に、リリアは眉をひそめた。


 ――あの時、シンシアに従って真っ直ぐに部屋に戻っていれば、きっと今のような状況にはならなかったよ。

 ――その場合、ティナはどうなるの?

 ――十中八九、死ぬ。あの兵士さんたちの中にリリアに使ってもらった魔法陣を知っている人がいれば、別だけどね。さすがにあれを完璧に覚えてる人なんていないよ。

 ――それなら、後悔なんてないわ。友人を見捨てて後悔する方が嫌よ。


 リリアがそう言うと、さくらは、そうだよねと嬉しそうに笑った。何をそんなに嬉しそうにしているのかは分からないが、今はこれからどうするかを考えなければならない。


 ――大丈夫だよ。


 さくらの言葉に、リリアが首を傾げる。何が大丈夫なのか理解ができない。


 ――まず前提条件が変わったからね。それだけでも本当に良かった。

 ――前提?

 ――うん。私が知ってる歴史だと、リリアが王子を刺したんだよ。


 リリアが驚きのあまり絶句する。だが同時に理解もした。かつてさくらは、アルディスが没落し、リリアが処刑されると言っていた。確かに王子を刺したのなら、その可能性は十分にあるだろう。縁座で家族全員が処刑されてもおかしくはない。


 ――とりあえず命の心配はなし。良かったね。

 ――そうね。そう思うと、本当に良かったと思えるわ。

 ――あとは、まあ……。蒔いた種がどうなるか、だね。

 ――種?

 ――うん。まあこれも私は不安には思ってないから、気にしなくて大丈夫だよ。


 さくらは一人で納得してしまっているが、リリアにとっては意味の分からないことばかりだ。ただ、今のリリアにできることなど一つもないので、さくらの言葉を信じるしかない。


 ――それに、もう本当に最悪な展開になったとしても……。最終手段があるよ。ただ、これを使うと、リリアの将来が否応なく決まっちゃうから、使いたくはないね。とにかく、リリアは安心して今は休むといいよ。


 さくらには、この状況を打破する手段があるのかもしれない。内容を聞いても教えてもらえないことは分かりきっているので、リリアもそれ以上は何も言わなかった。




 その日の夕方に、リリアのいる部屋に王子が訪れた。今はリリアの対面に王子が座っている。その両隣にはグレンとブロソもいた。本来ならこうして直接話すことなどできないのだが、護衛がいるからと王子が押し通したらしい。


「先ほど、ティナが意識を取り戻した」


 それを聞いたリリアがほっと安堵のため息をついた。王子が続ける。


「ティナから少しだけ話を聞けたが、ティナも相手の顔は見ていないらしい。あとは、リリアの呼び出しで向かった、とのことだ」

「私が、ですか? そんなはずは……」

「ないだろう。ティナも半信半疑で向かったそうだ。昨夜、寮のメイドを通して手紙が届けられたらしい。ティナも不審に思ったそうだが、夜に三階に行くとリリアに迷惑がかかるかもしれないからと、直接確認する方を選んだそうだ」


 ティナは今更何を気にしているのだろうか。もしもリリアが男なら少しどころかかなり問題はあるが、そういったことでもないだろう。リリアの立場を気にしてくれたのかもしれないが、三階にいる者は見て見ぬ振りをしたはずだ。


 ――それでも気になるものだと思うよ。今回は完全に裏目に出たけど。


 そういうものだろうか。リリアは未だに、その辺りはよく分からないままだ。


「今はまだ話し合いの最中だが、あまり芳しくない」


 真剣な口調になった王子に、リリアは姿勢を正した。王子はかなり苦しそうに、表情を歪めている。グレンとブロソは表情を出さないようにと無表情になっていた。


「このままでは良くて流罪、悪くて死罪があり得る」

「は……? 何故?」

「状況的に、リリアーヌ・アルディス以外にあり得ない、だそうだ。リリアーヌの身内であるアルディス公爵には発言権がない。陛下だけでは抑えきれないかもしれない。陛下の意志だけで無罪とするには騒ぎが大きくなりすぎた」

「流罪は覚悟していましたが、死罪というのは?」

「お前が使った魔法陣は簡単に書けるものではない。予め用意だけしており、何かの理由があり助けたのでは、と。つまりは計画的であり悪意が強すぎる、とのことだ」


 意味が分からない。無理矢理すぎだろう。そう思ったのはリリアだけではないらしく、目の前の三人も不快そうにしていた。これだけはどうにかして避ける、とは言ってくれるが、今の王子にどこまでできるのだろうか。


壁|w・)リリアの知らない間にどんどん大きく。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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