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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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 自室に戻ったリリアは、すぐにアリサとシンシアを呼んだ。リリアの目の前で並ぶ二人に、


「今月の月末、一度屋敷に帰るから。お父様やお母様に連絡をしてちょうだい」

「え……? 理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「桜を見に行くのよ。せっかくお父様が用意してくれたのに、見に行かないわけにはいかないでしょう」


 そう言うと、二人は納得したように頷いた。無論これは建前で、実際はさくらと共にその桜を見るためだ。あながち嘘とも言えないので、問題はないだろう。


「シンシア。お願いね」

「畏まりました」


 シンシアは頷くと、すぐに天井へと消えた。いつも思うのだがあの後はどこから出ているのだろうか。


「アリサには今すぐ頼みたいことはないけど……。一応、そのつもりでいてほしい、とだけ言っておくわ」

「はい」

「ああ、でも今すぐではないけれど、少し買ってきてほしいものがあるわね。当日までにまとめておくわね」

「畏まりました」


 アリサが丁寧に頭を下げ、リリアは満足そうに頷いた。




 数日後。月末の三十日。朝からさくらがとても元気で、少しばかりうるさいとまで思ってしまう。だが悪い気はしない。楽しみにしてくれているのなら、父にお願いした甲斐があったというものだ。

 馬車に乗る前にアリサに小さな紙を渡しておく。買ってきてほしいものを書き連ねた紙だ。それを見ただけでアリサはすぐに頷くと、南側へと走って行った。


 アリサを買い出しで使ったため、馬車に同乗するのはシンシアだ。どこか緊張した面持ちでリリアの向かい側に座っている。周囲の警戒はしているようだが、それ以上に挙動不審になっているのは気のせいではないだろう。


 ――リリアという肉食動物に睨まれた子ウサギなシンシア。

 ――へえ……?

 ――ごめんなさい冗談です。


 リリアは小さくため息をつくと、シンシアへと視線を向けた。


「シンシア。お父様やお母様は何か言っていたかしら」


 話題を振られたことに安堵したように、ほっとため息をついたシンシアがリリアを見て、言う。


「特に何も言われておりません。お二人ともリリア様の成績はご存知ですから。しっかりと休めるようにしておくと張り切っておられました」

「嫌な予感しかしないのだけど、気のせいよね?」


 シンシアは明言せずにそっと視線を逸らした。リリア自身、少し諦めかけていることではあるのでため息をつくだけで留めておく。

 やがて馬車がアルディスの屋敷の敷地に入った。屋敷から出てきたメイドに荷物を任せ、リリアは早速とばかりに周囲を見回す。そしてすぐに、それを見つけた。

 いくつか並ぶ木の中に桜の木はあった。さくらのいる暗い世界で見ているものと同じほどの大きさで、リリアの部屋からよく見えるだろう場所に植えられていた。二階にあるリリアの部屋から見れば、いつもと違った視点で見ることができるはずだ。


 ――さくら。どう?

 ――うん! いいね! 早く近くで見たい!


 どうやらさくらも気に入ってくれたらしい。リリアが相好を崩すのと、


「おかえり、リリア」


 父と母が出てきたのは同時だった。慌てて笑顔を隠すが、どうやらしっかりと見られてしまったようで二人は微笑ましそうに笑っていた。


「気に入ってもらえたようで何よりだ。とりあえずリリアの部屋からよく見えるようにと植えたが、問題ないな?」

「はい。ありがとうございます、お父様」


 今更隠しても仕方がないので、満面の笑顔で礼を言う。つられるように父も相好を崩した。


「ところでお父様、聞いておきたいのですが……。いかほど、かかりましたか?」


 父はどうしてそんなことを聞くのか、と不思議そうに首を傾げながらも、何かを思い出すように視線を上げて答えていく。


「桜の木そのものは、まあそれほどだが……。植物だからな。周囲の地面ごと運ばなければならないからまずは掘り出すための魔法陣を使い、引きずって運ぶわけにもいかないために浮かせるための魔法陣も使った。迅速に運ぶために運搬に関わる魔法陣を数十同時に使い、念のために保護も使い……」

「ケルビン。やめなさい」


 まだまだ続きそうな父の言葉を母が止めた。父がはっと我に返りリリアを見る。リリアは蒼白になりながら頬が引きつっていた。とりあえずざっと見積もっても金貨百枚は下らない。


 ――えっと……。具体的に。

 ――家が建つわね。

 ――うわあ……。


 予想以上の金額だ。その金額をリリアのために使ってくれた両親には頭が上がらない。リリアが、いつか返しますと小声で言えば、父は驚愕に目を見開き、勢いよく首を振った。


「そんなつもりで言ったわけではない! 私たちも見たかったものだし、その、なんだ……。アーシャ!」


 丸投げされた母は小さくため息をつくと、リリアへと言った。


「リリア。桜を見に来たのでしょう。私たちのことは気にしなくていいから、部屋で見てきなさい」


 母の言葉に、リリアは頷くと屋敷の中へと入る。真っ直ぐに自分の部屋に向かい、扉を開けてそれを見た。


 ――おー!


 さくらの興奮したような声。しかしリリアはそれに応えることができず、窓の外の景色に視線は釘付けになっていた。

 扉の真正面の大きな窓の正面に、桜の木はあった。手が届くほど近いというわけではないが、それでも綺麗な花が窓の向こうで咲き誇っていた。まるで窓の景色が絵画のようで、リリア自身、それをうっとりと眺めてしまう。だがすぐに、もっと近くでというさくらの声に促され、そっと窓へと歩み寄った。

 窓の側で桜の花を静かに見つめる。さくらも今だけは静かだ。二人で陶然とそれを眺めていると、扉が控えめにノックされた。


「リリア様。よろしいでしょうか?」


 アリサの声に、リリアは入室を許可する。アリサが静かに入ってきて、買ってきたものを部屋のテーブルに並べた。


「こちらでお間違いないでしょうか」


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