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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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 ティナはリリアが返してきた手紙を受け取ると、困ったように眉尻を下げた。


「ちょっと悩んでる。どうすればいいかな」


 好きにすればいい、と思ったところで、リリアはふと気になったことを口に出した。


「ティナ。殿下とクリスから話は聞いているの?」

「婚約のことかな。直接は聞いてないよ」


 やはり、とリリアは頷いた。二人の婚約が正式に発表されたのは年末の夜会だ。ティナが暮らすレスター伯爵領に情報が届くまでの時間を考えると、本来ならティナが知り得ない情報だ。ティナに直接説明するための茶会なのだろう。そう考えると行く必要はないのだろうが、王子自身が説明したいと思っているかもしれない。


「ティナ。私も一緒に行ってあげるから、参加しましょう」

「ん……。分かった。リリアがそう言うなら」


 不安そうにしつつもティナが頷く。何となく、今の自分がさくらの立場にいるような気がしてきた。


 ――私の苦労を思い知ればいいよ。

 ――楽しいわね、これ。

 ――えー。まあいいけど。それよりリリア。茶会の予定はいつ?


 改めて自分の手紙に視線を落とす。ここには、明日の放課後にリリアの部屋に寮のメイドが迎えに行くと書かれていた。ティナにも確認してもらえば同じのようだ。参加できない時はその時に伝えてほしい、とも書かれていた。


 ――ティナが参加できなければどうするつもりだったのかしら。

 ――リリアに相談するだろうと判断したんじゃないかな。事情を知るリリアが聞けば、参加を促してくれるだろうと思ったんじゃないかな。

 ――掌で踊らされた気分になるわね。やっぱり行かないように言うべきね。

 ――やめなさい。


 小さく肩をすくめ、ティナへと視線を戻す。ティナは不思議そうにこちらを見ていた。咳払いをして、言う。


「とにかく、明日は予定を空けておきなさい」

「うん。分かった」


 ティナが頷くのを見て、リリアも満足そうに頷いた。




 翌日。教室で簡単な挨拶を終えた後は、そのまま授業に入る。リリアはいつものように午前だけ受けて、午後は自室に戻った。さくらと雑談をしつつ待ち続け、授業が終わる時間を少し過ぎた頃、扉がノックされた。


「リリア様」


 アリサがリリアの名を呼ぶ。それだけで誰が来たのか理解して、リリアは立ち上がった。扉まで行くと、どこかで見覚えのある若いメイドが立っていた。


「殿下よりリリアーヌ様をご案内するよう申しつけられました」

「では早速だけど、案内をお願いできる?」

「畏まりました」


 メイドが恭しく一礼して、歩き始める。リリアもすぐにその後を追った。

 そうして連れられてきた場所は、人気のない教室だ。周囲に人の気配はないが、教室の中から微かに物音が聞こえてきている。メイドがノックすると、すぐに扉が開かれた。


「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


 促されて、教室に入る。ほぼ全ての机が部屋の隅に片付けられ、部屋の中央に四つだけ残されていた。奥側の席に王子とクリスが座っており、リリアの姿を認めた二人が立ち上がった。


「来てくれたか、リリアーヌ。呼び出してすまないな」

「いえ。お気になさらずに。例の話をするのですね?」


 リリアが聞くと、王子が真剣な表情で頷いた。


「私は同席はしますが、それ以上のことはしません。よろしいですね?」

「無論だ。誰かに任せるつもりはない。リリアーヌはそこに座っているだけで……」


 王子の言葉が終わるよりも先に、扉がノックされた。王子が言葉に詰まり、頬がわずかに引きつる。リリアとクリスが王子を見ると、小さく深呼吸してその表情を隠した。


「殿下。ティナ様です」

「ああ。通せ」


 王子とクリスが座り、リリアも王子に促されて座った。そして扉が開き、ティナが入ってくる。ティナは王子を見て少し不安そうに眉尻を下げたが、リリアの姿を認めて小さく安堵のため息をついた。


 ――すごく緊張しているみたいだね。

 ――王族の呼び出しなんて普通はないものね。


 メイドに案内されてテーブルの元まで歩いてくる。空いている席の側に立ち、口を開いた。


「…………。えっと……」


 緊張で頭が真っ白にでもなっているのだろう、ティナは何も言えずに、真っ青になっていた。それを察したのか、王子が言った。


「紅茶の用意を。その後は、私が呼ぶまで外で待て」


 メイドたちがすぐに紅茶と菓子をテーブルに並べると、一礼して部屋を出て行った。その流れるような動きから察するに、予め王子からこの指示があるかもしれないと聞いていたのだろう。部屋には四人だけが残された。


「ティナ」


 王子がティナへと呼びかける。ティナは小さな声で、はい、と返事をした。


「ここにいるのは私たちだけだ。緊張せずともよい。とりあえず座りなさい」

「はい……。恐れ入ります」


 ティナは小さく吐息を漏らし、リリアの隣に座った。リリアと目が合うと、薄く苦笑を漏らした。


「さて……。何から言うべきだろうか」


 王子が小さく呟いて、すぐにティナが姿勢を正した。リリアは苦笑しつつも、同じように背筋を伸ばす。王子は少しの間考え、やがて、よしと頷いた。


「まずは二人に謝罪を。これから話す内容を考えれば私が訪ねるべきなのかもしれないが、クリスに止められてしまったのだ」


 それを聞いて、リリアは呆れて内心でため息をついた。茶会の誘いでも驚いたものだったが、まさか部屋に直接来るつもりだったとは思わなかった。それを止めてくれたクリスに目を向けると、クリスは困ったように笑っていた。


「それなら茶会を、と提案したのだが、人の目に触れないようにということでこのような場所となった。許してほしい」


 どこでするつもりだったのかと思うが、口には出さない。クリスが見ていない所で苦労していたことだけ覚えておく。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。


※リリアとティナの会話に矛盾があったため修正しました。

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