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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後休暇

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「さあ、リリアーヌ様。王子を思い切り叩いてくださって構いませんよ」

「クリス!?」


 何を言うのだと言いたげに王子がクリスへと振り返る。クリスは笑顔で首を傾げた。


「あら。嫌なのですか? ご自分はリリアーヌ様にあれだけの仕打ちをしておいて?」

「いや、それは、そうだが……」


 王子が助けを求めるように周囲を見るが、誰もこちらの会話など聞いていないようで見向きもされていない。最後にリリアと目が合い、リリアはやれやれと首を振った。


「クリス。いい加減にしなさい」

「申し訳ありません」


 クリスが素直に頭を下げ、王子は安堵のため息をついた。


 ――この王子、尻に敷かれるね。

 ――間違いなく、ね。


 さすがに公の場ではクリスは大人しくなるだろうが、周囲の目がない時にクリスが王子を叱る姿を容易に想像できる。つい頬を緩めてしまうと、王子に半眼で睨まれた。


「リリアーヌ、何を考えた?」

「王子がクリスに叱られる姿を」

「ぐ……。そんなことは起こり得ない。証明してやろう」


 王子が胸を張って宣言する。リリアはクリスと顔を見合わせ、笑顔を交わした。


「期待しております」


 リリアが言うと、王子は満足そうに頷いた。




 ――ごはんが! 美味しい! さすがお金持ちだ!

 ――さくら。うるさいわよ。


 クリスと王子との会話を終えて、リリアはゆっくりと食事を取っていた。テーブルそれぞれに違う料理が並んでいるため、少しずつ取りながら各テーブルを巡っている。父や王に何かを言われているのか、リリアに声をかけてくる者はいなかった。誰もがどこか優しげな瞳でリリアを見ている。

 不愉快だ。


 ――なんで!?

 ――別に……。見下されているような気がするから、かしら。

 ――いやいや、大人としてリリアを見守ってくれてるんだよ。いい人たちだね。

 ――見下しているじゃない。

 ――だからどうしてそうなるの……。


 さくらはため息をつくと、あとで話し合おう、と言ってくる。リリアは肩をすくめながらも頷いておいた。

 不意に、周囲の喧噪が静かになっていく。何事かと部屋の奥を見てみれば、像の光が強くなっていた。光はさらに眩しくなっていく。突然のことにリリアが目を瞠り、そのリリアの隣に父が立った。


「リリア。よく見ていなさい」

「お父様?」

「あれが、大精霊様だ」


 大精霊、と聞いてリリアは絶句した。大精霊とは多くの精霊を束ねる精霊のことで、世界に十と存在しないとされている。だが当然ながら精霊なので、普通では見ることができないはずだ。それが何故。そんな思考をしていたために、


 ――うあ……どうしよう……。


 さくらの呆然としたその声に気づかなかった。


「像の中に魔法陣が仕込まれていると言っただろう? その効果がこれだ。年に一度だけ、大精霊様が姿を見せることができる魔法陣だ。もっとも、我らを一瞥しただけでまた消えてしまうことが多いのだがな」


 魔法陣から光が溢れ、溢れた光が形を作っていく。そうして浮かび上がってきたのは、この世のものとは思えない絶世の美女だった。青い衣服を着ているだけで、何も知らなければ人間としか思えない姿だ。

 大精霊はしばらく目を閉じていたが、やがて目を開け、ゆっくりと部屋に集まる者を見ている。誰もが口を閉じ、全員が跪き頭を垂れていた。


「リリア」


 父に促されて、リリアも慌てて跪く。見た目は人のそれだというのに、圧倒的な存在感に萎縮してしまう。絶対に逆らってはいけない。それだけは、本能的に察することができた。


 ――むう……。


 さくらが不愉快そうに唸る。さすがに大精霊に聞こえているとは思えないが、黙りなさい、と念のために釘を刺しておいた。


 ――ごめん。リリア。


 突然の謝罪に眉をひそめる。その直後に、目の前の気配が動いた。

 慌てて顔を上げて大精霊を見る。それは周囲の人も同じだったようで、父ですら驚愕に目を見開いていた。

 大精霊は部屋にいる者を一瞥すれば消える。そう聞いていたのに、大精霊はゆっくりと歩き始めた。ざわめきが大きくなり、大精霊の進行方向にいる者は慌てて道を空ける。そうして大精霊は、リリアの目の前に立った。


「え……?」


 大精霊がリリアを見下ろし、リリアも何をしていいのか分からず固まってしまう。父は不安げに大精霊とリリアを交互に見ていた。


 ――さくら。


 頭の中に声が響く。さくらと会話をする時と同じ感覚だ。リリアが大きく目を見開いていると、声が続いた。


 ――準備はできていますか?


 これが大精霊の声なのだろう、とても優しげな声だった。そして、


 ――うるさい。帰れ。邪魔するな。


 さくらの罵声のような言葉に、リリアの肝が冷える。だが大精霊は寂しげに微笑むと、踵を返した。像の前に戻り、もう一度リリアへと振り返ってくる。そして微笑み、消えていった。

 その後も、しばらくは静寂がその場を支配していた。誰も何も言えず、ただ視線だけはリリアを射貫いてくる。リリアは頬を引きつらせたまま、父に促されて立ち上がった。


「リリア。何か、体に異常はあるか?」


 父の問いに、リリアは少し考えて首を振った。


「ではリリア。私の隣に何か見えますか?」


 次に声をかけてきたのはこちらへと慌てたように走ってきた母だ。おそらく精霊がいるのだろうとは思うが、リリアには何も見えない。首を振ると、母は考え込むように首をひねった。


「大精霊様は一体何をしたかったのだ?」

「祝福か? それとも、罰か? わからぬ……」


 人々が憶測の言葉を交わすが、誰も答えなど分かるはずもなく、唸ってしまう。リリア自身、混乱しているのだから仕方がないだろう。


 ――さくら。大精霊と面識があるの?


 言葉を交わしたさくらに問うてみれば、さくらは、ないよ、と即答した。


 ――でも何を聞かれたかは分かる。また今度……。ちゃんと、言う。


 今は言えないことらしい。リリアは無理強いすることはせず、分かったわと頷いた。


「リリア。今日のところは部屋に戻り休みなさい」


 父に命じられて、リリアは頷いて地下室を後にした。




 ベッドに入り横になれば、案の定と言うべきか、気づけば暗い世界にいた。どこから飛びかかってくるのかと警戒するが、いくら待ってみても気配がしない。不思議に思いつつも桜の木へと目を向ければ、そこにさくらがいて俯いて何かを考えているようだった。


「調子が狂うわね……。どうしたのよ」


 リリアが問うと、さくらが上目遣いにリリアを見てくる。いつもの元気はなりを潜め、何かを怖れているかのような瞳だった。リリアはそんなさくらをしばらく見つめていたが、やがて小さくため息をついてさくらの頭に手を置いた。


「わ」


 そのまま思い切り撫でてみる。さくらは抵抗することなくされるがままになっていた。しばらく撫でた後、満足そうに頷いて手を離し、さくらの隣に座った。


「何か用があったのではないの?」

「ある……にはあるんだけど……」


 さくらもリリアの隣に座る。だが言葉は続かず、意味のない音を発し続けていた。しばらくそれを聞いていると、さくらが勢いよく顔を上げる。思わずリリアは仰け反ってしまった。


「リリアは、聞かないの?」

「何をよ」

「大精霊の言葉について」


 大精霊はさくらに対して、準備ができているかと問うていた。確かに何の準備なのか気になるところではあるが、しかしそれでもリリアは首を振る。どうして、と問うてくるさくらに、リリアは言った。


「さくらが話したくなった時で構わないと言ったはずだけど?」


 驚きに目を見開くさくらへと、リリアは笑顔で続ける。


「貴方は私の味方でいてくれるのでしょう? なら私も、貴方の味方でいるわよ。仮に大精霊が貴方を害そうとするとしても、私が守ってあげるわ」

「むう……。最近のリリアは男前だね。かっこいい」

「それは褒めているの? 貶しているの?」


 リリアの呆れたような声に、さくらは楽しげに笑った。いつもの笑い声を聞いて、リリアも安堵のため息をつく。正直、さくらに元気がないとリリアが対応に困る。


「もう大丈夫ね?」

「うん。ありがとう、リリア」

「どういたしまして。それじゃあ、寝るから」


 そう言って帰るために立ち去ろうとして、さくらに袖を掴まれた、怪訝そうに眉をひそめるリリアに、さくらが上目遣いに言ってくる。


「もう少し、一緒にいてほしい、とか言ってみたり?」


 リリアは大きくため息をつくと、もう一度さくらの隣に座った。




 結局その後、夜が明けるまでさくらの相手をしてしまい、目を覚ました時には、体調はいいのにどうにも気持ちが悪い不思議な感覚に陥ってしまっていた。


壁|w・)休暇終了。学園に戻ります。

ひっそり登場大精霊様。ふぁんたじーらしく。


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ではでは。

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