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さくらの問いを、リリアは鼻で笑った。兄が怪訝そうにリリアを見て、リリアは慌てて笑顔で取り繕った。
――後悔なんてしていないわよ。
――ん……。そっか。なら良かった。
どうやらさくらはそのことを気にしていたらしい。今更何故気にしているのか、と思ってしまう。
――だって、最初の頃、王子とはやり直せないって言ったじゃない。今振り返れば、ちゃんと元の関係に戻れたかもしれないなと思って。
――ああ、それで気にしていたの? 確かにそうかもしれないけれど、今となっては私が殿下を選ぶことはないわよ。分かっているでしょう?
――うん……。でも、謝る。ごめんね。
――気にしなくていいと言っているのに……。それで貴方の気が済むなら、受け取っておきましょう。
リリアがそう言うと、さくらは、ありがと、とどこか寂しげな声で呟いた。
側のテーブルの料理を少しずつつまみながら、リリアは時間が流れるのを待つ。時折何人かの貴族やその子供と話をするが、彼らはすぐに大人たちの集まりへと向かっていった。
そうしていると、突然肩を叩かれた。わずかに驚きながら振り返ると、どこか面白そうに微笑む王がそこにいた。
「陛下!?」
リリアと兄が慌ててその場に跪き、頭を垂れる。王は苦笑しつつも、軽く手を振った。
「まだ時間はある。ゆっくりしなさい。ところでリリアーヌ、料理の味はいかがかな?」
「はい。とても……」
「カレーライス、と比べて」
リリアの頬が引きつった。何故知っているのか、と考えたところですぐに兄を睨み付ける。兄が勢いよく視線を逸らしたということは、兄か、もしくは父が言ったのだろう。王は楽しげに笑うと、
「そう責めてやるな。私も以前はあの酒場には通っていたからな。話を聞いていて、とても懐かしく思えたよ」
あそこの料理は美味いだろう? と聞いてくる王にリリアが頷くと、王は嬉しそうに頷いた。
「機会があればゆっくりと話してみたいものだな」
王はそう言うと、部屋の奥へと歩いて行く。周囲の人々がすぐに気づき、皆が跪いていた。
――王様って思った以上に気さくな人だよね。
――そうね。私も知らなかったわ。
王の姿を眺めながら、リリアは小さく呟いた。
さらに時間が経ち、やがてゆっくりと部屋に静寂が訪れる。部屋の奥を見ると、王が手を広げ、口を開いた。
「一年が終わろうとしている」
王はそこで言葉を句切り、両手を広げた。
「さあ、祈るとしよう。世界と精霊たちに」
その声で、部屋にいた全員が跪き、手を組む。王はさすがに跪くことはなかったが、そっと手を組み目を閉じた。
そのままゆっくりと静寂の時間が流れていく。ゆっくりと、ゆっくりと。
――暇。
――黙りなさい。
どれほど時間が流れただろうか。やがて王が顔を上げ、立ちなさい、と静かだがよく通る声で言った。
「皆、昨年はこの国のためによく尽くしてくれた。まずは礼を言おう。今年も引き続くよろしく頼む」
部屋にいる全員が深く頭を下げる。王は満足そうに頷くと、さて、と言葉を句切った。
「皆に報告することがある」
王の隣に、王子とクリスが立った。小さなざわめきが起こるが、王が片手を上げるとすぐに静かになった。そして王自らが、王子とクリスの婚約を発表していく。知らなかった者は誰もが驚きに目を見開き、そしてリリアへと視線を投げてきた。
同情。憐憫。嘲笑。多くの感情がこもった視線に、リリアはうんざりとしつつも微笑みかける。そのすぐ後に兄がリリアの目の前に立った。多くの視線からリリアを隠すように。
「お兄様。私は平気ですよ?」
リリアがそう言うが、兄はその言葉に一切耳を貸さなかった。ただただ静かにそこに立っている。決して気持ちの良い視線ではなかったために有り難いとは思うが、そこまで弱く見えるのだろうか。
――リリア。すごく顔色が悪いよ?
さくらに言われて、リリアは自分の顔に手で触れた。当然ながらそれで顔色など分かるはずもないのだが、さくらが言うのならばそうなのだろう。兄を見れば、心配そうにこちらを窺っていた。
「ごめんなさい、お兄様。少し外の空気を吸いに行ってもよろしいでしょうか」
兄はわずかに逡巡するが、すぐに頷いた。静かにな、という言葉に送られて、リリアはそっと部屋の扉へと向かう。扉を開ける前に王の方へと振り返れば、王子とクリスが心配そうにこちらを見ていた。
何を気にしているのか。リリアは二人に、先ほどと同じように微笑みかける。だが二人の表情は沈痛なものになってしまった。これ以上は逆効果にしかならないだろう。リリアはすぐに部屋を出た。
「こちらへどうぞ」
部屋を出てすぐに、メイドに声を掛けられた。怪訝そうにメイドを見ると、メイドが恭しく頭を下げる。
「陛下より、リリアーヌ様が部屋を出ることがあればテラスに案内するように申しつけられております」
何故、とは聞かなかった。王はリリアが抜け出すことを予想していたのだろう。本来なら貴族の子であるだけのリリアでは勝手に歩き回ることができない城内だが、今回は特例としてくれるらしい。王の優しさの理由が分からないが、素直に甘えておくことにする。
メイドに案内されて二階に上がり、テラスに出る。二階だというのに見晴らしは良く、雪に染まる町並みも見えた。多くの家から微かな明かりが漏れており、とても幻想的に見える。
――綺麗だね。
うっとりとしたようなさくらの声。リリアも同意するように頷いた。
「リリア」
名前を呼ばれ、振り返る。一つだけあるテーブルにレイがいた。
「もしかしたら来るかもしれない、と聞いていたから待ってたんだ。どうぞ」
レイに促されていすに座る。テーブルの周りは暖かい。おそらく母が屋敷で使っていた魔法陣と同じものが使われているのだろう。メイドが二人の前に湯気の立つカップを差し出した。
「あと、こんなものも用意してみました」
レイが一枚の魔法陣をテーブルに置き、それを軽く叩く。すると魔法陣が柔らかく光り始め、
「リリア!」
ティナの声が届いた。
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ではでは。




