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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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14


 翌日。リリアはアリサに起こされて目を覚ました。おはようございます、と頭を下げるアリサにリリアも笑顔を貼り付ける。


「ええ。おはよう、アリサ。いい朝ね」

「はい。とてもいいお天気ですよ。朝食はこちらで取りますか?」


 アリサの問いに、リリアは少し考える。まだ目覚めきってないために頭がしっかりと回転しないが、とりあえずは食堂は避けておきたいと思ってしまった。


「ええ。お願いできる?」

「畏まりました」


 恭しく一礼して、寝室を出て行く。リリアはその背中を見送ってから、小さくため息をついた。


 ――おはよう、リリア。学校初日だね! 楽しみだね!

 ――おはよう。あまり言わないでほしいのだけど。


 正直、学校のことを考えると未だに憂鬱になる。だがこればかりは逃げるわけにもいかない。すでに一日逃げているのだからなおさらだ。リリアは小さくため息をつくと、ベッドから抜け出した。

 寝室の隅にあるクローゼットを開く。学校指定の制服が五着用意されている。全てがリリアのサイズに合わされているものだ。リリアはそのうちの一着を手に取ると、手早く着替えた。そして少し考える素振りを見せ、すぐに鏡の前に立った。


 ――本当に……このままでいいの? 化粧は?

 ――リリアには必要ないよ。そのままでもすごく可愛いよ? むしろ今までが厚化粧で気味悪かったし。

 ――そう……。そうなの……。


 ふらふらとベッドまで戻り、座って頭を抱える。どうしたの、と問いかけてくるさくらに、


 ――何でもない……。ちょっと、傷ついただけ。


 意味が分からなかったのか、さくらから不思議そうな気配が伝わってくる。リリアは何も言えずに、重いため息をついた。

 さくらに化粧の駄目だしを受けたのは、ここに来る直前だ。学校に来る時に、念のためにといつもの化粧をして馬車に乗り込んだ。そして、就寝前に言われた一言が今でも心に突き刺さる。


 ――リリア。あの化粧、気味悪い。気持ち悪い。明日からはしない方がいいよ。


 誰にも、何も言われなかった。だからこれでいいのだと思っていた。いつからか母親を真似て自分で化粧をしていたのだが、周囲はずっとそんなことを思っていたのだろうか。

 というよりさくらもさくらだ。屋敷にいる間に言ってくれればよかったのだ。なぜよりにもよって就寝前なのか。ふて寝同然になってしまった。

 寝室の扉がノックされる。続いてアリサが顔を出した。


「リリア様。朝食をお持ちしましたが、準備はお済みですか?」

「ええ……。今行くわ」


 そして寝室から出たリリアを見て、アリサは目を丸くした。まじまじと自分を見つめてくるアリサに首を傾げると、アリサは慌てたように頭を下げた。


「申し訳ありません。その、少し意外でして……」

「何が?」

「今日は化粧をしないのですね」


 リリアの表情が凍り付く。首を傾げるアリサへと、リリアは問う。


「アリサ。本音で答えて欲しいのだけど」

「はい」

「私の今までの化粧は……どうだった?」


 今度はアリサが凍り付いた。何かを言おうとして、しかしすぐに口を閉じてを何度か繰り返す。それだけでアリサがどう感じているのか察しがつく。本音で、というリリアの命令に従うべきか、それとも建前を並べるべきかと判断に迷っているのだろう。迷う時点で答えは決まっているのだが。

 リリアは小さくため息をつくと、眉尻を下げながら微笑んだ。


「いいわ。ありがとう」

「あ……。その、申し訳ありません」

「いいのよ。アリサ、私は変わりたいの。何かあれば、ちゃんと言いなさい」


 畏まりました、と頭を下げるアリサに、リリアは満足そうに頷いて、朝食が並ぶ席についた。

 後から聞いた話だが、その時のリリアの背中はひどく小さく見えたそうだ。



 朝食を済ませたリリアは校舎へ向かうために部屋を出て、階段へと向かう。リリアが戻ってきていることを知らなかったのか、すれ違う生徒全員がリリアを見て驚いていた。目が合う生徒には全員に笑顔を見せている。

 以前は見られるたびに睨み付けていたものだ。今日もそうしようとしたところで、さくらから止められた。


 ――リリア。仲良く。


 仕方なくさくらの指示に従い、ここ一週間で急激にうまくなったと自信を持って言える作り笑いを貼り付けている。さくらから見ればまだまだの笑顔らしいが、向けられた方は顔を赤くして目を逸らしていた。


 ――早く教室に行かないと。あの子と会ってしまうわ。

 ――いやあ、無駄だと思うよ。私が知ってる通りのあの子の性格なら……。まあいいか。行けば分かるよ。


 さくらの言葉にリリアは怪訝そうに眉をひそめた。そして、すぐにその言葉の意味を知ることになる。


「リリア様。ティナ様です」


 一階に下りた途端、前を歩いていたアリサがそう告げた。え、と顔を上げる。まだ朝の早い時間なためか、エントランスにそれほど人はいない。それ故に、すぐに気づいた。

 エントランスに並べられたテーブルの一つに、ティナがいた。テーブルの上にはカップが三つ用意されている。誰かと話をしていたのか、それとも……。直感的に嫌な予感を覚え、引き返そうかと本気で迷う。だがここで無視するわけにもいかないだろう。アリサが、何を期待しているのかじっとこちらを見つめているのだから。


 ――友達がいるよ。

 ――くっ……!


 さくらの言葉が全てを代弁しているような気がする。リリアは仕方なくティナへと近づくと、その肩へと手を置いた。


使用人の化粧→美人

素顔→可愛い

自分で化粧→誰だお前は!

『自分で化粧』を見慣れている周囲からしてみると、素顔の方が誰だお前はになっています。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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