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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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「何か動きがあれば、お前にも伝えよう。それでいいか?」


 王子の言葉にリリアは思わず目を見開いた。目を細め、怪訝そうに眉をひそめて言う。


「殿下。見返りに何を求めているのですか?」

「お前は……! いや、違うな。私の今までの態度が原因か」


 王子が小さな声で呟いた言葉にリリアが意外そうに驚くと、王子は苦笑して首を振った。


「気にするな。見返りなど求めていない」


 そう言ってから、王子は立ち上がると、以上だと言って扉へと歩いて行く。その後をクリスが追いかけて、あっという間に二人はいなくなってしまった。


「何だったのよ」


 思わずリリアが呟き、さくらが楽しそうに笑った。


 ――これもリリアが変わろうとしてる影響になるのかな。

 ――は? どういうことよ。

 ――何でもないよ。


 さくらはリリアと違い、何かを察しているらしい。リリアはどれだけ考えても何も分からず、ため息をついて諦めた。




 翌日の朝。朝食を済ませ自室でくつろいでいると、扉がノックされた。すぐにアリサが扉へと向かい、そして何故か大きく目を見開いた。


「あの、リリア様……」

「誰が来たの?」

「旦那様、です」

「え……? お父様が?」


 昨日の一件でいずれ来るだろうとは思っていたが、さすがに早すぎる。仕事はどうしたのだろう、と思うが、だからといって追い返す理由にはならない。リリアは立ち上がると、自ら扉へと向かった。

 少しだけ警戒しつつもゆっくりと扉を開ける。確かに父がそこにいた。


「おお、リリア。久しぶりだな。元気そうだな」

「はい。お父様もお元気そうで何よりです。こちらへは何しに?」

「お前の様子を見に来たに決まっているだろう」


 何を当たり前のことを、とでも言いたげな父の言葉に、リリアは目を瞬かせた。父の表情から、本当にリリアのことを心配してくれているらしい。それがどうにも意外に思ってしまう。


「入らせてもらっても構わないか?」

「ああ……。はい。どうぞ」


 リリアが一歩下がると、父が部屋に入った。それに続くもう一人。昨日の、南側で声をかけてきたメイドだった。そのメイドは蒼白な表情でうつむいてしまっている。リリアは怪訝そうに眉をひそめ、父を見た。


「お父様。この方は昨日のメイドですね?」

「ああ。そうだ」


 父がそう言いながら、メイドの背中を押す。メイドは緊張した面持ちで前に立つと、リリアへと深く頭を下げてきた。


「昨日は、申し訳ございませんでした……」


 それを聞いたリリアはゆっくりと目を細めた。謝ろうという意志は評価してもいいだろう。だが。


「貴方は、自分の何が悪かったのか、理解しているの?」


 リリアが問うと、メイドは何も言えずにうつむいた。リリアはため息をつき、いつものテーブルへと向かう。


「お父様もどうぞ」

「おお。悪いな」


 先ほどのやり取りなどなかったかのように、父はリリアと共に歩き、対面に座った。アリサがすぐに紅茶を用意して二人の前に置く。父は礼を言うと、早速紅茶を一口飲んだ。


「うむ。やはり美味いな。リリアに譲ってしまったのは失敗だったかな」

「返しませんよ。私のメイドです」

「分かっている。だから睨むな」


 父は苦笑しながら手を振る。それならいいのですが、とリリアも頷き、少しだけ面倒くさそうに吐息して、先ほどのメイドへと視線を投げた。


「貴方も座りなさい。アリサ。この子にも紅茶を」

「え……」


 珍しくアリサがとても嫌そうな声を発した。リリアが驚いてアリサへと振り返ると、すぐに我に返ったようで失礼しましたと一礼した。


「すぐにご用意致します」


 アリサは無表情だが、何となく不本意そうに見える。もっとも、今回の騒ぎの原因が相手なのだから、アリサにも思うところがあるのだろう。最初の一言以外はしっかりと仕事をこなしているので、聞かなかったことにした。


「信頼関係を築けているようで何よりだ」


 父が楽しそうに笑いながら言う。リリアは父から目を逸らし、その言葉を聞き流した。


「さて。リリアが座るように言っているのだ。座りなさい」


 父に命じられたメイドがびくりと体を震わせ、言われるがままに席につく。そのメイドの目の前に、アリサが紅茶を差し出した。


「飲みなさい。落ち着くわよ」


 リリアに促されて、メイドが紅茶に口をつける。ゆっくりと時間をかけて飲んでいき、やがて小さく息を吐き出した。それを見てリリアは満足そうに微笑み、父へと向き直った。


「お父様。ご用件は?」

「先ほども言っただろう。お前の様子を見に来ただけだ」


 笑顔の父の言葉に対して、リリアは半眼で睨み付ける。父は苦笑すると、肩をすくめた。


「まあ、ついでの用事もあるにはあるな」

「ついで、ですか。聞いても?」

「ああ。昨日のことだが、特に騒いでいる者はいない。何かを言いたそうにはしているがな」


 父が意地の悪い笑みを浮かべる。裏で何かをしていたのだろう。気にはなるが、聞くと巻き込まれてしまうような気がするため流しておくに限る。


「ただ、それでも理由を聞きたいという者はやはりいてな。おそらくだが、近く王城から呼び出しがかかるだろう」

 ――これはついでになるの?

 ――あはは。私も本題はこっちだと思うね。まあお父さんからすれば、リリアに会える方が嬉しいんじゃないかな。

 ――そう。迷惑ね。

 ――いや喜んであげようよ。


 父へと冷めた視線を向けると、父はわずかに視線を逸らし、誤魔化すような咳払いをした。取り繕うように、言う。


「心配せずとも、リリアを責める場所ではない。気楽に来て構わないからな」

「あら。そうですか。それは安心致しました」


 リリアが『笑顔』で言うと、父は目を細め、そして苦笑した。気にしすぎか、と席を立ち、扉へと向かう。父が扉に手をかけたところで、メイドも慌ててその後を追った。


「リリア。何かあれば言いなさい。遠慮などしなくていいからな」


 扉を開ける前に父が振り返ってそう言った。リリアが頷いたことを確認して、父は今度こそリリアの部屋を退室した。


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ではでは。

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