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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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「シンシア……。寝ていないの?」

「寝ていますよ」

「いつ?」

「いつでしょう」


 誤魔化すようなその答えに、リリアは諦めてため息をついた。いくら聞いてもまともに答えてはくれないだろう。手伝ってくれると言うのなら、甘えることにする。


「準備をしますね」

「お願い。ああ、でも、アリサは起こさないようにしてあげて。いつも疲れているでしょうから」


 眠る時間こそリリアと同じだが、起床時間はずっと早い。リリアの都合で起こしたくはない。


「承知しております。では少々お待ちください」


 シンシアはリリアの代わりにクローゼットを開けると、素早く、けれど静かに制服の用意をしていく。リリアはそれを見守りながら、ちらりとアリサを見た。よく眠っている。


 ――アリサなら起こしても怒らないだろうけどね。

 ――いいのよ。夜ぐらいはしっかり寝かせてあげないと。


 シンシアに手伝ってもらい、素早く着替えを済ませてしまう。シンシアと共に、そっと寝室を後にした。




 光を発する魔法陣の紙を片手に持ち、リリアは暗い廊下を歩いて行く。すぐ後ろには念のためにとメイド服を着たシンシアも続く。誰も起きていない時間のためか、とても静かで、それ故に不気味に思える。階段を下りて一階のエントランスを通り過ぎ、寮の外に出た。


 ――星がいっぱい。


 さくらの声に天を仰ぐ。雲一つない空には数え切れないほどの星が輝いていた。今まで意識して星空など見たことはなかったが、こうして見るとなかなかに綺麗だと思える。


 ――いいわね。ずっと見ていたいわ。

 ――リリアなら飽きる。間違いない。

 ――どういう意味よ。


 さくらと軽口を交わしながらしばらくそうして星空を眺めていると、


「あ……」


 背後から声が聞こえた。驚き振り返ってみると、そこにいたのはどこかで見覚えのある女生徒だった。どこで、と思い出そうとして、すぐに思い当たった。


「こんばんは、フリジア。素敵な夜ね」


 フリジア・レスターは驚きに目を見開いていたが、やがて柔らかく微笑んだ。


「こ、こんばんは、リリアーヌ様。星空がとても綺麗ですね」


 夜空を見て、フリジアがうっとりとする。リリアはその表情を見ていたが、すぐに視線を外して空へと戻した。


「ところでリリアーヌ様。こちらの方はリリアーヌ様のメイドですか……?」


 フリジアが言っているのはリリアの隣にいるシンシアのことだろう。どうしてメイド服を着てきたのか、と思っていたのだが、メイドだと思わせるためのようだ。


「ええ。そうよ。普段は私の部屋にいるからあまり見ないでしょうけど」

「そう、ですね……」


 フリジアがじっとシンシアを見る。シンシアは微笑して首を傾げた。フリジアの視線はまるで値踏みするかのようなものだったが、シンシアはそれを受け流している。少しだけ緊張感のある視線の交錯だったが、やがてフリジアは微笑んで視線を外した。


「あの、私は部屋に戻りますね。リリアーヌ様も、早めにお戻り下さいね」


 フリジアは丁寧に頭を下げると、そそくさといった様子で寮に戻っていった。その後ろ姿が見えなくなってから、リリアは首を傾げた。


 ――やっぱりただの臆病そうな子にしか見えないのだけど。

 ――うん。同意見。まあ、気にしすぎても仕方がないよ。


 それもそうね、とリリアは頷くと、シンシアに戻りましょうと告げて自室へと向かった。




 部屋に入ると、


「リリア様!」


 アリサが待ち構えていた。すでにしっかりとメイド服を着ている。


「良かった……。心配しました。起きたらリリア様がいなくて、何かあったのかと。密偵の方からシンシアと共に外に出かけたとは聞きましたが、それでもまだ暗い時間ですしとても心配で……」


 どうやら本当にとても心配させてしまったらしい。少しだけ申し訳ないとは思うが、正直なところこれほど早くアリサが起き出すとは思ってもみなかった。外の景色は未だに真っ暗だ。


「ねえ、アリサ。普段からこんな時間に起きているの?」

「はい。そうですが」


 リリアの頬が引きつる。リリアよりも早く起きているとは知っていたが、これほど早い時間とは思わなかった。リリアがいなくなったことに気づいて今日だけ、というわけではなく、どうやらいつもこの時間らしい。


「それほど、忙しいの?」


 聞いてみると、アリサはいえ、と首を振った。


「色々と準備はありますが、忙しいというほどでもありません」

「へえ……」


 後ろのシンシアへと目をやると、すぐに視線を逸らされた。なるほど、とリリアは頷く。


「本邸からもう何人か、メイドを呼びましょう。アリサ一人では負担が……」

「必要ありません」


 きっぱりと、はっきりと、そう告げてくる。リリアが何を言われたのか理解できずに、呆けた様子でアリサを見る。アリサは真剣な表情でもう一度言った。


「必要ありません。私一人で十分です。シンシアも手伝ってくれますから」


 その言葉から、断固とした意志が感じられた。アリサが少しでも楽になれば、と思ってのことなのだが、どうにも意味が分からない。


 ――いいんじゃないかな。


 さくらの声に眉をひそめる。


 ――どうしてよ。どう見てもこの子、無理をしているでしょう。

 ――そうかもしれないけど、本人が大丈夫だと言ってるんだから、いいと思うよ。多分リリアが命じたらアリサも受け入れるだろうけど、間違いなくアリサは悲しむよ。


 全くもって意味が分からない。それでも、アリサがその意志を示し、さくらがそれを受け入れろと言う。それなら納得できなくとも従っておこう。


「分かったわ。ただし、無理だけはしないように。無理をして体調を崩したら、その時は許さないわよ」

「はい。ありがとうございます、リリア様」


 アリサは安堵のため息をつくと、ようやく笑顔になった。




 壁新聞の一件の後は、特に何もない平穏な時間が続いている。今までの生活から変わったことはなく、ようやく休暇前の生活に戻ったと言える。

 ただし、リリアの生活に変化はなくとも、ティナの生活にならあったようだ。


「文通?」


 ある日、リリアの部屋を訪れたティナが苦笑しつつも言った。


「うん。殿下のメイドさんが手紙を持ってきて、それ以来ずっとやり取りしてるんだ」


 どうやら王子が言い出したことではなく、自然と始まったことらしい。ならリリアから何も言うことはない。本人たちの好きにすればいいことだ。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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