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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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 リリアの魔法の成績は、中の上、もしくは上の下、といったところだ。悪くはない成績なのだが、身内にいる比較対象が悪かった。リリアの母、アーシャは数多くの魔法を生み出している。当然ながら学園での魔法の成績も常にトップだったらしい。そんな母を持つが故に、いつも誰かに比べられていた。

 アーシャ様ならこんなものはすぐに理解するのに。

 アーシャ様ならこの程度の魔法陣、何も見ずとも書けるのに。

 アーシャ様なら。アーシャ様なら。お母様なら。

 それに比べてリリアーヌ様は。それに比べて、私は……。


「リリア様」


 アリサの呼びかけに、リリアははっと我に返った。見ると、アリサが心配そうにこちらの顔をのぞき込んでいた。


「大丈夫ですか? どこかお体の調子が悪いのでは……」


 リリアは首を振って苦笑する。


「大丈夫よ。アリサ、私に魔法を教えてくれる?」


 アリサは何度か目を瞬かせると、すぐにどこか嬉しそうに頷いた。



 

 さくらはアリサの講義を、リリアを通して聞いていた。リリアは基礎はできているので、応用に関することが多い。それを聞きながら、さくらはここに来る前に聞いた話の一部を思い出していた。魔法に関することを。


 この世界の魔法は、小説やゲームによくある万能なものではない。この世界の魔法とは、世界を構成する要素の一つである精霊と対話し、契約を交わし、力を行使するための魔法陣を用意して行うことができるものだ。精霊たちは全ての魔法に一つ一つ、力を貸し与えるための条件をつけている。それが一つでも守られていなければ、魔法陣を用意しても無駄になる。


 この世界に魔力という概念は存在せず、あるのは精霊と対話できる才能と、魔法陣を書くことができる知識量のみ。知識さえあれば万人が使うことができる。それがこの世界の魔法だ。


 精霊との対話も魔法陣を作るために必要なものであり、魔法の行使そのものには必要ない。ある意味では実にお手軽なものだ。


「いいなあ……」


 さくらはリリアを通してアリサの説明を聞く。興味深そうに。羨ましそうに。


「私も使ってみたいなあ……」


 魔法陣さえ用意すれば誰でも使える。そのなんと素晴らしいことか。それなら間違いなく、自分でも使えるのだから。

 アリサが何かの本を開き、それに載っている魔法陣を一つずつ説明していく。リリアはただ説明を聞いているだけのようだったが、さくらはその魔法陣を食い入るように見つめ、その全てを頭に叩き込んでいく。


「いつか使えたらいいな」


 楽しそうなその言葉を、人が見たら底冷えするだろう冷たい笑顔で呟いた。




 太陽が沈み、街がゆっくりと眠りにつき始めた頃、ようやくリリアは目の前の本を閉じた。対面に座るアリサは、己の主人の前だというのに机に突っ伏してぐったりとしている。リリアは怒ることはせず、仕方がないなと苦笑するだけだった。


「アリサ。そろそろ夕食にしましょう」

「はい……。食堂で……何かもらってきます……」


 立ち上がり、覚束ない足取りで扉へと向かう。リリアはそんなアリサの背中を心配そうに見つめていたが。特に何も言うでもなく出て行くまで見送った。テーブルの上に置かれている小さな時計を見て、リリアは首を傾げた。まだこんな時間か、と。


「情けないわね。この程度で疲れてしまうなんて」

 ――あはは。いい感じで感覚が狂ってきたね! 普通の人なら六時間も休憩なしに勉強をしていたら疲れるよ。

 ――ちょっと待ちなさい。まるで私が普通じゃないみたいじゃない。それにそもそも、貴方が発端でしょうに。

 ――何の話かな?


 楽しげなさくらの声に、リリアはこめかみを押さえながらため息をついた。

 屋敷でのリリアの生活は、朝早くに起床、その後は食事や風呂など以外は全て勉強というものだった。少なくとも十二時間以上は毎日勉強していたことになる。当初はリリアも一日の終わりの頃には疲れ果てていたものだが、三日程度で慣れ始め、今では苦にもなっていない。


 ――リリアは勉強は嫌いじゃないんだよ。だからすぐに慣れるし、続けられる。

 ――誰も嫌いだなんて一言も言ったことないけど。

 ――…………。そう言えばそうでした。


 これも知識違いか、とさくらの小声が聞こえたが、一先ず気にしないことにした。

 それからしばらくして、アリサと、もう一人、メイド服姿の女が料理を運んでくる。学校に雇われている使用人の一人で、特定の主を持たず、この寮に住む全員の世話をしている。当然ながら一人ではないし、リリアたちが雇っているわけでもないのでリリアたちが命令することはできない。あくまで、手伝ってほしい時に依頼する形になる。


「リリア様、お待たせしました」


 アリサがリリアの目の前のテーブルに食事を並べる。並べられたものは、アルディス家の朝食と似通ったメニューだった。


「なにこれ……」

「申し訳ございません、アルディス様。このお時間になりますと、この程度のものしかご用意できませんでした」


 女が深々と頭を下げる。そのままリリアの言葉を待つ。まるで、いつでも怒鳴ってくださいと言っているかのように。そして眉間にしわを寄せていたリリアも当然のように罵声を浴びせようとして、


 ――リリア。


 さくらの声で我に返った。


 ――はい、深呼吸。


 さくらに促されるまま、ゆっくりと息を吸って、吐き出す。そしてもう一度女へと視線を向けると、怪訝そうにしている女と目が合った。


「アルディス様?」


 何も言わないリリアに不審を抱いたのか、疑わしげにリリアを見つめている。リリアはその目をしっかりと見返して、言った。


「構いません。このような時間に夕食を頼んだ私に非があります」


 女が目を見開き、アリサは嬉しそうに微笑む。女は再度しっかりと頭を下げると、部屋を退室していった。


 ――これでいいのよね?

 ――ばっちりだよ! さすがはリリア、惚れちゃいそう!

 ――え、やだ。

 ――ちょっと、冗談にまじめに拒否しないでよ、へこむから……。


 尻すぼみになるさくらの言葉に、リリアはわずかに口角を上げる。


「それじゃあいただきましょう。アリサはそこに座っていいわよ」

「そこって……。対面、ですか。いいのですか?」

「私がいいと言っているの」

「はい。失礼しました」


 アリサは終始どこか嬉しそうだ。リリアは少しだけ不思議に思いながらも、遅めの夕食に手を伸ばした。


ざっくりと魔法の説明をしてみました。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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