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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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「それなら、これで問題はないんですね。壁新聞を出せるんですね」


 リアナが嬉しそうに聞いてくる。リリアは、学園の許可さえあれば、と付け加えてから頷いた。


「そう言えば、貴方が一番壁新聞に執着しているようだけれど、何かあるの?」


 リアナに問うてみると、少し考えた後、口を開いた。


「物置の整理を先生から頼まれてしていたのですけど、古い壁新聞が出てきたんです。名前を見てみたら、私のお父さんで……。お父さんは今も新聞を作っていていずれは私も、と思っています。だからお父さんが体験したことを私もしてみようと思ったことがきっかけですね」


 そこまで答えてから、リアナは照れくさそうに笑った。最後はそんなこと気にせず楽しんでいた、と。それを聞いたリリアは、そう、とだけ答えた。


 ――この子は新聞を書きたいのね。

 ――将来のことを考えてるなんてすごいね。


 将来。未だに何も考えていない。そろそろ考えるべきかと唸ると、しかしさくらは首を振ったようだった。


 ――リリアはまだいいよ。目の前のことに集中しようね。

 ――だけど……。いえ、そうね。来年、考えましょう。


 確かに今ここで考えても仕方のないことだろう。リリアはその思考を追い出すと、四人の勉強の指導へと戻った。




 試験までの一週間の間に、リアナたちは学園での申請も済ませ、無事に許可も下りたようだった。後から聞いた話では、二つ返事で許可が下り、確認すらされなかったそうだ。もしかすると王子が何か言っていたのかもしれない。


「試験前だとみんなの集中を削ぎそうですし、試験が終わった後に出そうと思います」


 試験前日の休日にリアナからそう聞いている。さすがにリリアが協力していることはあまり広まってほしくないため、それは手伝えない。そう伝えると、


「はい。もちろん分かっています」


 そう言ったリアナの笑顔は、どこか寂しそうだった。




 翌日の試験後。リリアは先に自室に戻り、夕食まではのんびりと過ごすことにして部屋で紅茶を飲んでいる。試験の出来映えはいつも通りだ。


 ――いつも通り王子を下せるね!

 ――さすがにそこまで言うつもりはないけれど。


 勉強の努力は怠っていない。魔法についても、夜にアリサに教わったりなどして対策はしていた。だが努力をしているのは周囲も同じだ。そのためやはり不安もあり、少しだけ気もそぞろになってしまう。


 ――明日は久しぶりに南側にでも行きましょうか。


 明日は答案の返却後は解説だけだ。それは後からさくらにでもしてもらえればいい。それよりも、この落ち着かない気持ちをどうにかするためにも、気分転換をしたい。


 ――試験の方は大丈夫だと思うけどね。私が見ていた限りでは、間違いはなさそうだったし。でも行きたい。

 ――正直でよろしい。


 むしろよく今まで何も言ってこなかったものだと思う。自分に遠慮でもしていたのだろうか。


 ――リリア。そろそろご飯に行こうよ。


 気づけば窓の外は暗くなりつつあった。試験が終わってから今まで、ここで紅茶を飲むことしかしていない。ずいぶんと時間を浪費したものだと思う。

 リリアはアリサに食堂に行くことを伝え、自室を後にした。




 食堂に向かう途中、一階のエントランスの隅で人だかりができていた。何かあったのかとそちらへと視線を向ける。人だかりの向こう側に、微かにだがリアナたちの壁新聞が見えた。どうやらいつの間にか張り出していたらしい。

 リリアは口角が持ち上がりそうになるのを堪えながら、食堂へと足を向けた。


 ――見に行かなくていいの?


 さくらの声に、リリアは頷いて答える。


 ――内容は知っているもの。また落ち着いてから見に行けばいいでしょう。


 それにさすがにあの人だかりの中に入ろうとは思えない。どういった視線を集めるかも何となく分かるために、わざわざ入る必要もない。


 ――気にしすぎだと思うけどね。


 さくらはため息をつきながらそう言った。




 翌日。リリアは返ってきた答案を見ながら、勝ち誇った笑みを浮かべていた。その目の前には、同じように答案を持ちながら、しかしこちらは体を小刻みに震わせている王子。周囲はそれを、どこか緊張した面持ちで見守っている。

 リリアは答案をたたむと、静かに言った。


「一位です」

「むう……」


 王子はしばらく唸った後、重たいため息をついた。


「リリアーヌ。お前の勉強方法を……」

「は?」

「いや……。何でも無い。忘れてくれ」


 王子は力無く首を振り、しかしすぐに眼光を鋭くしてリリアを睨み付けた。


「次こそは私が勝つ」

「はい。期待しております」

「くっ……!」


 笑顔で言ったにも関わらず、王子はとても悔しそうに歯ぎしりした。リリアは首を傾げながらも、教師へと振り返る。教師は微苦笑しつつリリアを見ていた。


「アルディス。いつものことだが、どうする?」

「ではお先に失礼致します」

「ああ。気をつけて戻るように」


 頷き、そのまま教室を出る。後ろ手に扉を閉めたところで、リリアが満面の笑顔になった。周囲に気を配りながらも、鼻歌まじりに廊下を歩いて行く。


 ――あ! その歌!


 何か言うだろうとは思っていたが、思った以上に食いつきが良い。その反応に、リリアは忍び笑いを漏らした。


 ――貴方がたまに歌っている歌よ。どうかしら。

 ――うん。すごくうまい。正直リリアらしくない。


 どういう意味だ、と思ってしまうが、しかし褒めてくれているのは間違いないだろう。自然とリリアの機嫌も良くなってくる。


 ――ところでリリア。さっきはわざと王子を煽ったの?

 ――は? 別にそんなつもりはないけれど。

 ――なるほど、天然か。


 やれやれとため息をつくさくらにリリアは怪訝に思いながらも、それ以上は特に聞かなかった。気にせず小さく鼻歌を歌い始め、さくらもそれに合わせて歌い始めた。

 そうして自室に戻り、荷物を持つ。アリサもすでに準備をしていたらしく、リリアよりも大きな荷物を持って部屋を出た。いつもの空き教室に入り、手早く着替えを済ませてしまう。


「リリア様。シンシアは先に外に出て待っております」

「そう。分かった。外で落ち合うわ」


 扉から顔を出し、誰もいないことを確かめてから廊下に出て、足早に南側の門へと向かう。まだ午前の時間ではあったが、幸い教師の解説を聞いている者が多いのか、誰ともすれ違うことはなかった。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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