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――もう終わり?
さくらの問い。それはつまり、まだできることがあると言いたいのか。早速回答を読み始める四人を眺めながら考えていると、同じように四人を見ていたレイが言った。
「帰らないんですか?」
「あら。それは邪魔だから帰れと言いたいのかしら」
「そんなまさか。僕としてはいてほしいですけど……」
レイがちらりと四人へと視線を向ける。時折アモスやタニアがリリアを盗み見ていた。やはりこの場にリリアがいると気になるものなのだろう。それでも読みながら計画を立てていく四人は、とても楽しそうに見えた。
「リリアさんも参加します?」
「私ができることなんてないでしょう」
壁新聞というものを一度も見たことがないリリアにはどういったものかすら想像もできない。だから手伝えることはないだろうと思っていたのだが、
「手伝ってくれるんですか!?」
リアナが聞いてきた。他の三人がぎょっと目を剥く。
「だから、私にできることはないでしょう」
「あります! ありますよ!」
リアナが顔を輝かせ、部屋の隅から大きな紙を持ち出してくる。人の背丈ほどもあるその紙を広げて、紙を叩いて言った。
「アルディス先輩は文字を書けますよね?」
「貴方は私を馬鹿にしているのかしら?」
目を細めて言うと、リアナは顔を青ざめさせて勢いよく首を振った。ごめんなさい、と頭を下げてくる。リリアは小さくため息をつくと、表情を和らげた。
「何があるの?」
リアナが恐る恐るリリアの顔を盗み見て、安堵の吐息を漏らす。紙を広げて、言った。
「小さい紙に下書きをしてくるので、一緒に清書しませんか?」
「それは私が一緒にやっていいものなの?」
「もちろんです」
満面の笑顔で頷くリアナ。リリアはそれなら、と頷いた。
「ありがとうございます! 明日までに下書きを済ませておきますね!」
「いやちょっと待ってリアナ、明日までって本気か?」
「できるよね?」
エルクの焦ったような声にリアナが笑顔で振り返る。エルクは顔を赤くすると、がんばるけど、と頷いた。アモスとタニアが苦笑を漏らした。
「これ以上私がいても邪魔になりそうだし、戻るわね」
リリアがそう言うと、レイを含む五人が頭を下げた。軽く手を振り、部屋を出る。
――壁新聞を作るお手伝いとか、リリアらしくないよね。
どこか楽しげなさくらの声。リリアは眉をひそめた。
――貴方が言ったのでしょう。
――私はもう終わりなのか聞いただけだよ?
いたずらっぽく笑うさくらに思わずリリアの頬が引きつった。他に思い浮かばなかったのだから仕方ないだろう、と自分自身に言い訳しつつ、言う。
――いけなかったかしら。
――いいと思うよ。あの子たちとももっと親しくなれるだろうし。
――その必要性が分からないのだけど。
ティナとのこともあり、平民を見下すつもりはもちろんない。だがわざわざ仲良くする必要性も感じられない、というのがリリアの正直なところだ。それを分かっているのか、さくらはそうだろうね、と苦笑した。
――でも、仲良くしちゃいけない、なんてこともないよね。
――まあ、そうね。
――じゃあ友達増やそうよ。目指せ友達百人!
何を目指したいのか。リリアは呆れてため息をつきながら、自室へと戻っていった。
翌日。午前の授業が終わってすぐに図書室のいつもの部屋に向かう。まだレイしかいないだろうと思っていたが、意外なことに五人全員が揃っていた。大きな紙を広げて何かを相談している五人に、リリアは呆れ果ててため息をついた。
「授業ぐらい出なさい」
「それ、リリアさんが言いますか?」
レイがそう言いながら挨拶をしてくる。それでリリアに気づいたのか、すぐにリアナたちも挨拶をしてきた。リリアも挨拶を返しつつ、レイに言う。
「私は成績に不安はないわよ」
「僕もありません」
レイが胸を張って言う。そして残りの四人を見てみれば、誰もがそっと目を逸らした。
「貴方たち……」
「これが終わったら! これが終わったらがんばります!」
「優先順位がおかしいと思うのだけどね」
リリアはやれやれと首を振りながら荷物を置いた。
「次の試験の前にはここに集まりなさい。少しだけなら教えてあげるわ」
リアナたちが驚いたように目を丸くした。何よ、と四人を睨むと、四人ともが慌てて何でもありませんと首を振った。
「本当にいいんですか?」
「構わないと言っているでしょう」
面倒くさそうにしながらもリリアが頷く。四人が、特にリアナが顔を輝かせた。
「よろしくお願いします!」
そう言って、全員が頭を下げる。少しばかり恥ずかしく思い、顔を背けて、いいから続きをやりなさい、と促した。
六人でテーブルを囲み、下書きの紙を参考にしながら書き進めていく。リリアも時折手を加えながら、下書きに書かれた記事に目を通した。記事は上下に二つあり、この学園のことが半分を占めている。残りの半分は隣の国、クラビレスのことだった。
「記事は大丈夫みたいね」
回答そのものはおそらく王子が一度目を通していたとは思うが、それでもあまり知られるべきでないものがあったかもしれない。そう思い一度読んでみたのだが、特に問題はないようだった。
「できた!」
リアナがそう叫んだのは、そろそろ日が落ちようとしていた頃だった。誰もが疲れたようにぐったりとしている中、リアナとレイの二人はとても元気そうだ。
「すごい! これが壁新聞か! クラビレスでは見たことがなかったから、すごく新鮮だよ」
「ふふふ! がんばった! これならお父さんも認めてくれるはず!」
喜びを率先して分かち合う二人を、他の三人は温かく見守っていた。エルクだけは、どこか複雑そうな表情をしていたが。
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ではでは。




