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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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 ――さっきから何なのよ。気になるのだけど。

 ――あはは。まあ二人の反応も分かる気がするけどね。


 さくらがそう言って、リリアは内心で首を傾げてしまう。


 ――ねえリリア。今まで平民のために動いたことってあった?

 ――それは……。ないわね。


 ティナなど男爵家のために動いたことはあったが、言われてみれば平民のために何かをしたことなど今までなかった。素性を知る前にレイのために動いたこともあるにはあるが、レイに関しても貴族だろうとは思ってはいた。


 ――リリアが平民のためにこうして二人に頼みに来ていることが、二人にとっては驚きなんだよ。

 ――納得したわ。やるべきではなかったかしら。


 少し不安になって聞いてみると、さくらは楽しそうに笑いながら、そんなことないよ、と続ける。


 ――貴族としては少し問題があるかもしれないけど、これぐらいでいいよ。平民に対してへりくだった対応をしているわけでもないしね。


 それに、とさくらが小声で付け加えた。


 ――味方は多い方がいいよ。

 ――味方?

 ――こっちの話。


 リリアは怪訝そうに眉をひそめながら、すぐに首を振って忘れることにした。こちらを見ている王子とクリスへと小さく頭を下げる。


「ではよろしくお願い致します」


 二人が頷きを返してくれたことを確認して、リリアは失礼しますと部屋を後にした。


   ・・・・・


 リリアが立ち去った後。王子とクリスは神妙な面持ちでリリアが出て行った扉を見つめていた。


「どう思う?」


 王子の問いに、クリスは頷いて答える。


「少し驚きましたが、良い傾向かと思います。少なくとも、周囲を威圧していた頃よりはずっと」


 王子は同意するように頷き、紅茶に口をつけた。


「人はあそこまで変われるものなのだな……。見習わなければならないな」

「ええ……。そうですね」


 王子の呟きに、クリスは少しだけ嬉しそうに口角を持ち上げた。


   ・・・・・


 一週間。その間はリリアはいつも通りに過ごした。以前と違うことは、図書室に行かなくなったことだ。どうやら平日はレイはリアナたちを手伝っているらしい。そういった内容の書き置きが置かれていたことがある。行く必要がなくなったために、放課後は真っ直ぐ自分の部屋に戻るようになった。

 週末の自習日になり、朝食を終えて一息ついていた頃。王子の遣いらしいメイドが部屋を訪ねてきた。彼女から渡されたものは数十枚の紙。以前渡したものの回答だそうだ。その枚数から、ほぼ全員が答えてくれたのだと分かる。


 ――意外と答えてくれるものね。

 ――うん。見たらだめだよ。


 ぴたりとリリアの動きが止まった。適当に一枚引き抜いて見てみようとしていたところだ。リリアはばつが悪そうに顔を歪め、裏返しにしてテーブルに置いた。


 ――すごく今更だけど思ったことがあるんだけどね。

 ――何よ。

 ――王子とクリスが配ってくれたんだよね。それ、リリアが配るのと同じぐらい拒否権がないよね。

 ――そうね……。その通りね。


 何故今の今まで気づかなかったのだろう。クリスはともかく、王子が配ったのなら答えないわけにはいかない。グレンが配ったとしても、グレンが王子の護衛役であることは周知の事実だ。クリスが渡したものに関しても、王子が渡しているものと同じものだと知られればやはり答えないという選択肢は取れないだろう。むしろリリアが配るよりも強制力があったのではないだろうか。

 そこまで考えて、しかしリリアは首を振った。自分には関係のないことだ、と。

 余談だが、王子とクリスも回答を受け取ってからその結論に至り、何をしているんだと頭を抱えていたりする。


 ――それで、今日はどうするの?

 ――そうね。勉強でもしましょうか。


 リリアがそう答えると、さくらの機嫌が良くなったのが分かった。楽しげな声でさくらが言う。


 ――よしきた! 紙出して! ペン出して! がっつりいくよ!


 単純だなと思いながらも寝室に向かい、教材を取り出す。いすに座りさくらの講義を聞こうとしたところで、


「リリア様。お客様です」


 さくらが残念そうにため息をついた。


「ティナ様です」

「ティナ? 私が出るわ」

「畏まりました」


 アリサの横を通り過ぎ扉を開けると、ティナが申し訳なさそうな表情で立っていた。怪訝そうに眉をひそめるリリアへと、ティナが言う。


「おはよう、リリア。その……。また、いいかな」


 ティナの手には各種教材。リリアはしばらく唖然としていたが、やがて笑みを零して頷いた。




 翌日。朝食後に図書室の部屋に行くと、すでにレイとリアナたちは揃っていた。中から話し声が聞こえてきている。リリアが扉を開けると一瞬だけ静かになったが、すぐに元気な声が部屋に響いた。


「おはようございます! アルディス先輩!」


 リアナの声が一番よく聞こえる。つまりはうるさい。リリアが眉をしかめると、リアナはごめんなさいと頭を下げた。


「元気なのはいいことよ。はい」


 リリアが数十枚の紙をテーブルに置く。その量からか、一瞬何の紙か分からなかったらしい。唖然とする三人を置いて、タニアがそっと手を伸ばした。すぐにリアナもそれをのぞき込む。


「この間の回答……? もしかして、これ全てですか!?」


 リリアが頷くと、レイも含めて全員が驚いていた。すこし得意になりながらも、しかしすぐに苦笑する。自分は王子に渡しただけであり、その後は王子とクリスが集めたものだ。そう答えると、四人ともが首を振った。


「僕たちではまず殿下にお会いすることができませんから……。リリアーヌ様のおかげです。本当にありがとうございます」


 アモスがそう言って、四人が頭を下げる。レイまで一緒に下げていた。


「それで、この後はどうするの?」


 少しばかり照れくさく、頬が熱くなってくる。リリアが顔を逸らして言うと、リアナが答えた。


「今日中に一通り目を通して、明日と明後日で計画を立ててみます。その後に清書ですね」

「そう。分かったわ。できあがったら言いなさい。念のために殿下に確認してもらいましょう」

「は、はい! お願いします!」


 嬉しそうに言うリアナたちに、リリアは満足そうに微笑んだ。この後はこの四人の仕事であり、もうリリアの出る幕はないだろう。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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