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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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12

 ティナの言葉を受けてリリアが不機嫌そうな顔になると、ティナは慌てたように言い直した。


「えっと……。呼び止めてごめんね、リリア」

「よろしい。構わないわ。こうしてお友達になれたわけだしね」


 そう言って微笑みかけると、ティナも照れくさそうに笑った。挨拶を交わし、部屋へと急ぐ。ずっと黙していたアリサも、当然ながら後を追ってきた。


「ご立派でした、リリア様」


 ありがとう、と返事をしつつも足は動かす。その場から逃げるかのように。


 ――さくら。あれで良かったのよね? 変に思われてないわよね?

 ――今までのことを考えるとどう考えても変だよ。偽物疑惑が出てくるね!

 ――ふざけないで。

 ――つれないなあ。まあ、うん。上出来だよ。むしろ予想の斜め上をいったね、いい意味で。いきなり友達になるとは思わなかった。


 リリアが足を止める。後ろのアリサも足を止めて、首を傾げながらもリリアの動きを待つ。


 ――ああ、大丈夫だよ。さっきも言ったけど、上出来だから。よくがんばりました。

 ――なら……いいわ……。


 自分でもかなり急ぎすぎていたとは思う。何も今友達宣言をしなくても良かっただろう。特に今まで辛く当たっていただけに、きっとティナは今頃気味悪く思っているはずだ。そう考えると、次にどんな顔で会えばいいのか分からない。


 ――あの子は普通に喜んでいたと思うけどね。


 さくらのその言葉は、さすがに信じることができなかった。



 三階の部屋は全て同じ造りだが、そのどれもが広い部屋だ。リリアの部屋も同様であり、屋敷の自室ほどではないにしろ、快適な暮らしができるように考慮されている。広い部屋には生活に必要な家具が配置されており、そのどれにも埃一つついていない。二週間以上留守にしていたとは思えないほど、掃除が行き届いている。

 この部屋の側面の壁には扉が二つあり、そこは寝室と浴室に繋がっていた。

 リリアは部屋の中央に配置されているいすに腰掛けると、ゆっくりと息を吐いた。


「リリア様。私はお荷物の確認をしてきますね」

「ええ。お願い」


 アリサが一礼して寝室へと向かう。リリアの荷物は前日のうちに運び込まれている。故にリリアはここまで手ぶらで来ることができた。


 ――さて、リリア。明日からはどうする?


 さくらの声に、リリアは少し考えて、答える。


 ――何も深く考えることはないでしょう。学校に通うわ。

 ――うん。現実逃避はよくないね。王子とティナのことだよ。


 う、とリリアが言葉に詰まり、視線を窓へと向ける。入ってきた扉の反対側にあるその窓からは外の景色がよく見える。しばらくそれを見つめていると、


 ――おーい、リリアー、帰っておいでー。


 さくらの声。リリアは頬を引きつらせながら、答える。


 ――ちゃんと、考えてる……。

 ――へえ。じゃあ、王子様と会ったらどうするの?

 ――できるだけ避ける……。私はもう殿下のことは諦めたつもりだけど、でも実際に会ってしまったら、どうなるか分からないから……。

 ――まあ賢明な判断だね。で、ティナは? お友達とはどうするの? さすがに避けられないよ?


 そんなことはさくらに言われずとも分かっていることだ。ティナに関しては無視するわけにもいかない。リリアから友達になろうと言った以上、避けるようなことは、自分の言葉を覆すようなことはできない。

 ティナだけならいい。会って、先ほどのように話をすればいいだけだ。問題は、そうしているとほぼ間違いなく王子が出てくるだろうことか。


 ――ちなみに私は、この件に関してはあえて何も言わないよ。リリアのしたいようにしてみてね。

 ――私を……試すつもり?

 ――さて、どうかな。


 くすくすと、楽しげに笑うさくら。リリアは重たいため息をつき、そしてすぐに気持ちを切り替えるように首を振った。


 ――さくら。勉強をしましょう。

 ――おお、リリアから言うなんて珍しい!


 言葉はからかっているものだが、本当に驚いているらしい。確かにリリアは、初日以外は自分から勉強をやろうとはしていない。いつもさくらに促されている。その理由は単純で、さくらの話が難しすぎて、少し辛いと思ってしまっているためだ。

 だが今日だけは、それでいいと思う。また現実逃避だと言われるかもしれないが、とにかく何かに集中したい。


 ――でも、今日は別の人を教師にしようか。


 さくらから帰ってきた言葉はそんなものだった。予想外の提案にリリアが目を丸くする。自分にしか聞こえない声のさくらが、一体どうやって他の人に頼むというのか。


 ――アリサは魔法に詳しいはずだから、今日はアリサから魔法について学びましょう。はい、本人に相談する!


 そう言えば、と思い出す。リリアは屋敷に戻っていた間、魔法の勉強は一切していない。さくらから他のものを学ぶようになってからも、魔法と作法だけは触れていなかった。その点、アリサはさくらが分からないものについて詳しい。まるでさくらを補うためにいるかのように。

 だがそれでも、メイドから学ぶというのはどうしても避けたいものがある。リリアが難しい表情で唸っていると、


「リリア様、いかがなさいました?」


 いつの間にか、目の前にアリサが立っていた。いつものメイド服に、リリアを心配そうに見つめてくる瞳。リリアは薄く苦笑すると、何でも無いと首を振った。


「アリサ。貴方は確か、魔法に詳しかったわよね?」

「え? そう、ですね……。奥様に比べると児戯のようなものですが、学園を卒業できる程度のものまでなら覚えています」

 ――なにこの子、実はすごいの?

 ――うん。もともと魔法が苦手なリリアのためにできるだけ魔法に詳しい子、てことで雇われてるから。

 ――初耳なんだけど。

 ――聞いてるはずだよ。聞くつもりがなかった頃だと思うけど。


 ということは引きこもる前の話だろう。そうであるなら、確かに興味のないことはほとんど聞き流していたと思う。


 ――私は魔法が苦手、ということでもなかったけど。

 ――よく言うよ。いつもお母さんと比べられて、お母さんほどできない自分に自己嫌悪していたくせに。

 ――…………。


ストックに余裕があるので、気まぐれにもう一話?投稿しておきます。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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