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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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「ごめんなさい、アリサ。少し寝ぼけていただけよ。朝食の準備をお願いできる?」

「はい……。畏まりました」


 アリサが一礼して寝室を出て行く。リリアは安堵のため息をつくと、着替えを始めた。


 ――無駄に元気そうだけど、理由でもあるの?

 ――無駄って言われた……。

 ――無駄でしょう。

 ――ばっさりだー!


 やはりどこかおかしい。いつも通りと言えなくもないが、少し違和感がある。元気がないことを無理矢理誤魔化しているような感じがする。いわゆる空元気、というやつだろうか。


 ――さくら。本当にどうしたの?

 ――ふふ、このミステリアスさが私の魅力を引き出すのだよ!


 どうやら真面目に答えるつもりはないらしい。リリアは小さくため息をつくと、扉へと向かう。


 ――何かあれば遠慮なく言いなさい。

 ――ん……。ありがと。


 否定しないところを考えると、やはり何かあるのだろう。だが聞いてもはぐらかすだろうことは目に見えている。リリアは少しもどかしく思いながらも、それ以上は何も言わずに寝室を出た。




 朝食を済ませ、図書室へと向かう。今日は休日だが、もしかするとレイはいるかもしれない。そう思っていつもの部屋の前に来たのだが、中から多くの人の声が聞こえることに心底驚いてしまった。


 ――まさか、レイに友達でもできたの? あり得ないでしょう。

 ――レイに対する評価が最近厳しくない?

 ――気のせいよ。


 少し考えるために目を閉じる。この部屋は別にレイのための部屋というわけでもない。そう考えれば、今日はレイとは違う誰かが部屋を借りているのかもしれない。そう思った方がまだ可能性としては高いだろう。

 無論、レイの可能性も当然あるだろうが、わざわざ確認する必要もない。戻ろうと踵を返したところで、


「レイ君は物知りだね」


 そんな声が、部屋の中から聞こえてきた。


 ――まさか本当に、レイがこの部屋にいるの? 誰かと一緒に?

 ――そうみたいだね。どうするの?


 リリアはしばらく扉を凝視していたが、やがて薄く微笑むと首を振った。レイに同学年の友人ができたのなら、それは喜ばしいことだ。中に入ってその邪魔をする必要はないだろう。少し寂しい気もするが、同学年の友人と付き合う方がレイのためになる。リリアは今度こそその場を立ち去ろうとして、


「ちょっと飲み物をもらってくるよ」


 扉が開き、レイが出てきた。


「あ……。リリア……」


 レイの声が聞こえた瞬間、リリアが勢いよく振り返りレイを睨み付ける。その意図を察したのか、慌ててレイが付け加えた。さん、と。


「呼び捨てでいいとは言ったけれど、時と場所を考えなさい」

「ご、ごめん……」


 落ち込んだように小さくなるレイ。リリアはため息をつくと、出口へと歩き始める。


「わ! 待って! 待ってください! せっかくだから来てください!」


 レイがリリアの手を掴む。煩わしそうに振り返るのと、


「レイ君、どうしたの?」


 部屋の中から少女が顔を出したのが同時だった。その少女はリリアを見ると、


「あ! アルディス先輩!」


 表情を輝かせた。


 ――え? なにこの反応。

 ――この子、確かレイを助けた後に会った子だよ。王子を呼んだ子。

 ――ああ……。あの子ね。


 少ししか会話をしていなかったために忘れてしまっていたが、言われてみれば確かに見覚えがある。あまりにどうでも良すぎて覚えようともしなかった。


 ――こらこら。


 さくらが苦笑する。すぐに、そうだ、と声を上げた。


 ――せっかくだし、この子と仲良くなろうよ。

 ――それは必要なことなの?

 ――うん。


 さくらが頷き、すぐにリリアは了承した。さくらが必要だと言うならば、従おう。レイの邪魔をしてはいけないだろうと思っていたが、そのレイが待ってと言っているのでそれに乗ることにした。


「アルディス先輩! どうぞ中に! レイ君、飲み物!」

「よしきた取ってくる!」


 リリアの手を離し、全速力で走って行くレイ。一国の王子がただの学生に使われている。その事実に頭が痛くなってくる。


「アルディス先輩はこちらにどうぞ!」


 にこにこ笑う女の子に急かされ、リリアはため息をついて部屋へと入った。




 部屋の中にいたのは男女二人ずつの四人だった。この四人にレイを含む五人で部屋の中にいたのだろう。テーブルには地図や本、大きな紙がある。その周囲にいた少年少女はリリアを見て凍り付いていた。


「アルディス先輩、こちらにどうぞ!」


 唯一先ほどから気後れせずに話しかけてくる少女に、勧められるままにいすに座る。その後、その少女が他の子に指示を出してリリアの前に横一列に並んだ。

 改めて四人を見る。少女がリリアを先輩と呼ぶということは、リリアの後輩だということだ。この学園は三学年まででリリアは二学年ということを考えると、一学年の子たちなのだろう。先の少女を除く三人はリリアに怯えているのか、少し震えているようだった。


 ――とても気まずいのだけど。

 ――がんばれ!

 ――気楽でいいわね……。

「それで? 用件は?」


 リリアが聞くと、三人がびくりと体を震わせた。威圧するつもりはなかったのだが。それほど自分という存在は怖いのかと少しだけ気落ちしそうになる。


「自己紹介します!」


 気後れしない唯一の少女が手を上げて言った。この少女がいなければどうなっていたことやらと思ってしまう。


「まずは私ですが、リリアナといいます。友達からは今はリアナと呼ばれていますが、小さい頃はリリアと呼ばれていました。リリア仲間です!」


 リリアナと自己紹介したこの少女は本当に物怖じしない。この遠慮のなさは最近のティナ以上だ。以前のリリアなら不愉快に感じただろうが、今はむしろ少しだけ心地が良い。特に三人から怯えた目を向けられている今の状況なら、なおさらだ。

 だが、それは相手がリリアだから許されることだ。注意はしなければいけないだろう。


「リリアナ……。リアナね。覚えたわ。私は別に構わないけれど、他の上級貴族にその態度はいけないわよ」

「大丈夫です。アルディス先輩にしかしていません。あ、もちろんアルディス先輩を軽んじているわけじゃないですよ! レイ君から話を聞いて、アルディス先輩なら大丈夫と聞いていたんです」


 なるほど、とリリアは頷いた。それなら大丈夫だろう。ただし、レイとは少し話をする必要がありそうだ。


壁|w・)後輩との交流開始。


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