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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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 ――ちゃんと考えてくれてる人もいるみたいだね。

 ――そうみたいね。


 これで今まで通りなら少し考えなければならなかっただろうが、これなら問題はないだろう。自然と頬が緩んでしまう。


「リリア様。いかがなさいましたか?」


 アリサの声に、リリアは慌てて表情を隠すと、何でもないわと首を振った。


 ――ところでリリア。レイは?

 ――あ……。


 完全に忘れていた。今から図書室に行っても日が暮れてしまう。リリアは少し考え、すぐに諦めた。また次でいいだろう、と。


 ――まあ、うん。いいと思うよ。


 少しだけ呆れたようなさくらの声にリリアはわずかに頬を引きつらせながら、リリアはアリサとシンシアに食堂に向かう旨を告げた。




「と、いうわけで、会議を始めます!」


 真っ直ぐに手を伸ばしてのさくらの言葉。この暗い世界に来ていきなりだ。リリアは頷き、踵を返した。


「おやすみ」

「わあ! ちょっと待ってよリリア! まってー!」


 リリアの体にしがみついて行かせまいとしてくる。リリアはため息をつき、首を振って足を止めた。さくらが安堵しつつリリアを放した。


「それで? 急にどうしたのよ。何か話し合うことでもあるの?」


 今日の呼び出しは予定通り、休日の前だ。用件がなくても構わないのだが、会議、と言うからには今後に関する大事な話でもあるのだろう。そう思っていたのだが、


「ないよ」


 即答だった。


「…………」

「…………」

「帰るわ」

「待って待って! お話だけでもしようよ!」


 リリアはため息をつくと、仕方がないとでも言いたげに頷いた。さくらも安心したようにため息をつき、桜の木へと歩いて行く。リリアもそれに続いた。

 木の根元に、黒い小さな何かが置かれていた。それは不思議な光を放っている。精霊たちの光とはまた違った光で、どこか不安な気持ちになる光だ。


「あれはなに?」


 さくらに問うてみる。あれは一度見たことがある。その時は聞くことはできなかったが、今なら答えてくれるかもしれない。果たしてさくらは答えてくれた。


「スマホ」

「すまほ……?」

「うん」


 さくらがそれを拾い、リリアへと見せてくる。それは薄い板のような形状だった。光はその片面から発しているらしい。見てみれば、光を放つ方は文字や絵が書かれているようだった。


「色々とできるんだけどね。調べたいことがあればこれで調べられるし」


 そう言ってさくらは板を何度か叩く。すると板に表示されていた文字や絵が変わっていた。普通では考えられないその現象に目を丸くしてしまう。その様子を見ていたさくらはおかしそうに笑っていた。


「すごいわね。どんな魔法なの?」


 さくらの表情が凍り付いた。リリアが首を傾げていると、さくらはどこか難しい表情を浮かべた。


「そうだよね。何も知らなければ魔法にしか見えないよね」

「違うの?」

「ん……。説明はちょっと難しいかな。まあ気にしないで」


 さくらは木の根元に腰掛けると、自分の隣を手で叩く。ここに座れ、ということなのだろう。特に反対する理由もないのでさくらの隣に座った。


「そのすまほがさくらがたまに言っていた能力なのね」

「うん。私の天使ちゃんとしてのすぺしゃるな能力です!」

「へえ。他には何ができるの?」

「スルーは一番こたえるんだよ……! あとはちょっと秘密かな」

「そう。残念。それで、どうして急に見せてくれる気になったのかしら」


 さくらが動きを止め、少し考えるように天を仰いだ。しばらく待つと、やがてさくらはうっすらと微笑んだ。


「この間のお礼、かな」

「お礼? 何もしていないと思うのだけど」

「私にとっては、嬉しいことだったから」


 リリアには思い当たることがない。何かの勘違いなのではと思うが、さくらの笑顔を見ているとそれ以上問いかけてはいけないような気がした。リリアはそう、と頷くと、それきりその話題には触れなかった。


   ・・・・・


 リリアがこの場を立ち去り、世界が闇に沈んでいく。さくらは闇に身を任せ、くすくすと声を漏らした。


「順調。とってもいいことだ」


 そうして、いつものように嗤う。だが、それは長く続かず、さくらの表情が歪んだ。


「ちょっとは疑ってよ……。リリア……」


 悲しげにそう言って、さくらは目を閉じる。

 約束の日なんて、来なければいいのに。

 最近の夜はこればかりだ。ずっと後悔を続けている。戻れないと分かっているし、反省しても意味のないものだが、長い闇の時間を後悔だけで過ごしている。

 さくらは闇の中に漂いながら、気を紛らわせようと鼻歌を歌い始めた。


   ・・・・・


 ――今日も元気に明るくいこー!

「うるさいわよ!」

 ――うひゃ!


 寝起きの頭に直接響く大音声にリリアが怒鳴ると、さくらがごめん、と申し訳なさそうに謝ってきた。未だ少し苛立ちながら立ち上がったところで、こちらを蒼白な表情で見ているアリサと目が合った。


「も、申し訳ありません!」


 アリサが頭を下げてくる。どうしたのか、と一瞬考え、そしてすぐに思い至った。リリアの先ほどの怒鳴り声だ。アリサに怒ったわけではないのだが、この場にはアリサしかいないために勘違いしたのだろう。本気で怒鳴っていたことを思い出し、悪いことをしたなと反省する。


 ――反省大事だね。

 ――…………。

 ――いや、うん。ごめんね……。


 落ち込んだようなさくらの声に、リリアは小さくため息をついた。


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ではでは。

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