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――あー……。
さくらの唸る声が聞こえる。今もリリアはさくらの指示に従うことの方が多い。さくらはやはり、何かを考えているのだろうか。
「あ、あの……」
後ろからの声。リリアは振り返ると、ああ、と思い出したように声を上げた。
「もういいわ。私が何を言っても説得力なんてないでしょうし」
「い、いえ、そんなことは……」
「ただこれだけはもう一度言っておくわ」
一人ずつ、女生徒の顔を見ていく。誰もが怯えた表情をしていたが、誰もリリアから目を逸らさなかった。
「ティナは私の大切な友人よ。今後二度と、あの子には手出ししないように。次があれば、容赦しないわよ」
全員が重々しく頷いた。リリアはそれを確認して、行きなさい、と手を振る。一人ずつ頭を下げて、部屋を出て行った。
全員が出て行くのを待ってから、リリアはゆっくりとため息をついた。女生徒たちに言ったことを思い出し、自嘲してしまう。何を偉そうに言っていたのか、と。クリスやさくらならともかく、自分が言っていい言葉ではなかった。
――そんなことないよ。今がんばってるリリアだから説得力があるんだよ。
――それもさくらから言われなければやっていなかったわよ。……ああ、そうだ。さくら。
――なに?
――私は、今は何のために続けているのかしら。
――あー……。
さくらの唸り声。しばらく待つと、さくらは考えながらも言う。
――今後のため、かな?
――今後?
――うん。多くの人に慕われるようになれば、誰かに潰されちゃう危険性も減るからね。
リリアが潰される可能性。そう言えば、と思い出す。初めてさくらの声が聞こえた時、さくらはこのままだとリリアが破滅すると言っていた。あれはまだ、続いているのだろうか。
――まあ、まだ先の話だよ。あとは、もう一つだけ、起こるか分からないから備えるって意味もあるね。
起こるか分からない。何のことを言っているのか分かるはずもなく、そして聞いても答えないだろうことはすぐに分かった。リリアは小さくため息をつくと、テーブルを指で叩いた。すぐにアリサが紅茶の準備を始めてくれる。
――さくら。私は貴方を信じるから。
――ん……。大丈夫。任せて。
さくらの真剣な声。未だに分からないこと、教えてもらえていないことは多いが、一先ずはそれで納得することにした。
翌日。教室で会ったクリスの話では、ティナを突き落とした者はティナの希望もあり、大きな罰は与えられなかったということだ。与えられた罰は、精霊の監視と呼ばれるもの。これは特定の精霊に、今後死ぬまで監視され続けるというものだ。重たい罰のようにも思えるが、普通に生きていく上では何の影響もないためとても軽い罰とも言える。もっとも、精霊が悪事と判断することをすれば即座に痛みによる罰が与えられるため、気を抜くことはできないそうだが。
この罰は見た目で分かってしまう。体のどこかに特有の痣ができてしまうためだ。当然ながら、生きていく上では汚点にしかならないものだ。そしてこの女生徒の場合、不運にも顔にその痣ができてしまった。リリアがそれを知ったのは、この女生徒がリリアに謝罪しに来た時だった。
「その、なんて言えばいいのかしらね……」
ずっと後ろ指を指されながら生きていくことになる。それは貴族にとっては、いっそのこと死んでしまった方が良かったと思えることかもしれない。だが彼女は苦笑して、自業自得なので、と言っていた。
「もし行く当てがなくなったら……。私のところに来なさい」
「はい……。その時は、よろしくお願い致します」
女生徒はどこか嬉しそうな表情で頭を下げた。
それからは平穏な日々が続いている。ティナに対する嫌がらせもなくなり、今ではシンシアを自室に呼び戻している。相変わらずティナとは会えないままだが、それ以外は平穏そのものだ。
――レイもいないままだよね。
――そう言えばそうね。今日は休みで暇だし、少し探してみようかしら。
――自習日の意味について聞いてもいいですか。
――さくら。人生というものは生きているだけで勉強なのよ。
――どっかで聞いたことのある言葉だね。まあいいけど。むしろ早く行こう今すぐ行こう!
何故かさくらが急に乗り気になった。そのことを怪訝に思うが、止められないのなら好都合だ。紅茶を飲み終えてから部屋を出て行こうとして、
「ま、待ってください!」
天井から呼び止められた。リリアが呆れたようにため息をつき、振り返る。天井の一部がずれ、シンシアが顔を出していた。
「シンシア。緊急の用件かしら」
「い、いえ、そういうわけではないのですけど……」
シンシアがしどろもどろになりながら言う。リリアとは目を合わせようとしない。もう一度ため息をつき、言う。
「緊急でもないのに天井から声をかけるというのは、どうかと思うわよ?」
「あ、はい。申し訳ありません。ですが、その……」
さすがに少し苛立ちを覚え、シンシアの言葉を無視して扉へと向かう。そしてリリアが扉を開けるのと同時に、
「扉の前には、ティナ様が……!」
どこか緊張した面持ちのティナと目が合った。お互いに凍り付き、静寂が訪れる。ただ、リリアの頭の中では、
――あ、はは! ひひ、は……!
さくらが笑い声を上げていた。どうにかして堪えようとしているようだが、完全に漏れてしまっている。いっそのこと笑えばいいのにとすら思う。そして、すぐにさくらが外出に乗り気になった理由に思い至った。
――さくら。気づいていたわね?
――あっははは!
さくらは笑い声を上げるのみ。それが明確な答えになっている。リリアは不機嫌そうに眉をひそめ、それを見てしまったティナが表情を強張らせた。
「ああ、ごめんなさい。貴方に怒っているわけじゃないわ。報告が遅いどこかの誰かに怒っているだけだから」
リリアのこの言葉はさくらのことを指している。だがそんなことは知らないアリサとシンシアからすれば、間違いなくシンシアのことを指す言葉だった。シンシアは落ち込んだように項垂れ、アリサはその様子を呆れたように見ていた。
「せっかく来たのだし……。入りなさい。紅茶ぐらいは出すから」
アリサが、と付け加えながら部屋へと戻る。アリサが苦笑しつつも紅茶の準備を始め、ティナは未だ顔を強張らせたまま部屋に入った。
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ではでは。




