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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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 そして放課後。指定された空き教室に入ると、すでにアイラが部屋の中央にいた。アイラはリリアの姿を認めると、泣きそうな笑顔を浮かべた。


「良かった。来てくれないかと思ったよ」

「呼び出したのは貴方でしょうに。用件は何かしら?」


 アイラの真正面に立つと、アイラはどこか言いにくそうに視線を彷徨わせた。本当にどうしたのかとリリアが眉をひそめると、それに気づいたアイラが慌てて頭を下げてきた。


「ティナと喧嘩してる人に頼むのはおかしいとは分かってるけど……! 今のティナのこと、リリア様なら知ってるよな? 助けてくれ!」


 突然頭を下げられたことにリリアは驚きで目を丸くする。シンシアの報告では、まだ彼女がここまでするほどのことは起きていなかったはずだ。少なくとも、以前のリリアの方がよほど酷いことをしていた自覚がある。

 つまりは今日、アイラが連絡をしてくる昼までに何かあったということか。

 アイラに何があったのか聞くと、


「午前の授業が終わって食堂に行く時に、階段から突き落とされたんだ」


 幸い誰かが受け止めてくれたみたいで怪我はしなかったけど、とアイラが続けるが、リリアは驚愕に目を見開いていた。

 昨日までの報告では、未だ陰口に留まっていたはずだ。少なくとも、怪我をするようなことは一切なかったと聞いている。それがまさか、いきなりそんなことになるとは。ティナを受け止めたのはおそらくシンシアだろう。彼女をティナの側に向かわせておいて良かったと心から思った。


 ――まさか、いきなりそんなことをするなんてね。

 ――どうするの?

 ――さすがに見過ごせないわよ。


 今回はシンシアがいたからこそ大事には至らなかった。だがもし、シンシアがいなければ。大勢の人がいたなら誰かが助けてくれるかもしれないが、期待してはいけないだろう。最悪を考えると、怪我では済まなかったかもしれない。

 決定的なことをするまでは、と思っていたが、まさかこんな形になるとは思わなかった。リリアは小さくため息をつくと、アイラに言った。


「分かったわ。手を打ちましょう」

「え……? 助けてくれるのか?」


 アイラが意外そうな表情をして、リリアは呆れたように半眼を向けた。


「当然でしょう。あの子を助けないなんてことはあり得ないわよ」


 そう言うと、アイラは呆然としたように固まっていたが、やがて力無く微笑んだ。


「はは……。ティナが言っていた通りだったな」


 リリアが首を傾げて、アイラが苦笑と共に教えてくれる。


「今回リリア様に相談したのはあたしの独断だけどさ。ティナにも一応、言っておいたんだよ。そうしたら、絶対にだめだって言われたんだ」


 そうだろうな、と思う。思うが、少しだけ寂しく感じてしまう。


「リリア様に言ったら絶対に助けようとするからだめだってさ。酷いことをしたから、助けてもらうわけにはいかないんだって言ってたよ」


 リリアの表情が、凍り付いた。


「あ、だからティナには私が言ったって言わないでくれると助かるよ。それじゃあ戻るよ。あたしで協力できることがあれば何でも言ってくれればいいから」


 そう言うと、アイラは足早に教室を出て行こうとする。扉に手を掛けたところで、リリアへと振り返った。


「あのさ、ティナのことを簡単には許せないとは思うけど、できれば仲直りしてあげてくれると嬉しいよ。ティナも反省してるからさ。ずっと落ち込んでて見てて辛いんだ」


 よろしく、と今度こそアイラは部屋を出て行った。一人残されたリリアは未だ呆然としたまま、足音が一切聞こえなくなってから大きなため息をついた。


 ――アイラはティナから話を聞いているのよね。

 ――だと思うよ。他の人から聞くことはできないし。

 ――ティナは、自分に非があると思っているのね。

 ――そうみたいだね。


 リリアはまたしばらく黙り込み、やがて自嘲気味に笑った。


 ――ねえ、さくら。私はどうすればいいと思う?

 ――んー……。


 さくらが考えるようにしばらく唸り、やがてうん、と頷くように言って、


 ――謝れば? お互いに謝って、終わり。それでいいじゃない。

 ――それでいいの?

 ――いいと思うよ。


 リリアはまだ釈然としていない様子だったが、やがて小さく頷いた。


 ――次会えれば謝りましょう。

 ――今行けばいいのに。変なところで意気地がないね。

 ――うるさいわよ。


 正直、まだ面と向かって会うのは怖い。ティナに限ってないとは思いつつも、やはり直接会うと何かを言われてしまうかもしれないと思うとなかなか会いに行こうとは思えない。そもそも、ティナが会いに来ないということはつまりそういうことではないのか、と思ってしまう。


 ――お互いに同じこと考えてそうだけどね。


 さくらの呆れたような小声に反応することもできず、リリアは悩みながら自室に戻った。




「アリサ。この方たちを呼んできてもらえる?」


 自室に戻ったリリアは白紙に名前を書き連ねると、それをアリサに渡した。アリサはその名前を見て目を瞠り、やや緊張した面持ちで畏まりましたと頷いた。

 アリサが部屋を出て行ってすぐ、入れ替わるようにしてクリスが入ってきた。


「アリサさんが急いで出て行かれましたが、何かありましたか?」

「ええ。少しね」


 少しだけ驚きつつも表情には出さずに、リリアは対面のいすを勧めた。クリスは礼を言いつつそのいすに座った。


「もう一人メイドを連れてくるべきだったわね。紅茶の用意ができないわ」

「そう言えばリリアーヌ様は一人しか連れてきておりませんね。何か理由でもあるのですか?」

「大したことじゃないわよ。心から信頼できるメイドがあの子しかいないだけよ」


 正直にそう答えると、クリスはなるほどと頷いた。


「ですがせめてもう一人は必要かと思いますよ。一人ではアリサさんも負担が大きいでしょう」

「ああ……。そうね。考えたこともなかったわね」


 アリサからは直接的にも間接的にも不満を聞いたことがない。そのために安心していたが、確かにアリサ一人では大変だろう。言ってこないだけで、不満もあるかもしれない。早めに屋敷からメイドを何人か連れてくるべきだろうか。

 そんなことを考えていると、クリスの咳払いが聞こえてリリアは我に返った。クリスを見ると、真剣な表情でリリアを見つめていた。


「リリアーヌ様。アリサさんは、あの件に関わる方を呼びに行ったのですか?」


 クリスの問いに、リリアは訝しげに目を細めた。


「やっぱりクリスも知っていたのね。もしかして、今日のことも詳しく知っているのかしら」

「ええ。知っていますよ」


 隠すことなく答えるクリスに、リリアは思わず絶句してしまった。どうにかして笑顔を作ろうとするが、どうしても頬が引きつってしまう。


「どうして放置しているのかしら」


 問いかける声が硬いものになってしまった。それを反省しつつもクリスへと視線を向ける。クリスはどこか呆れたような表情を見せ、そして苦笑した。


「リリアーヌ様はどうやら一つ勘違いをしていらっしゃるようですね」

「勘違い?」

「そうです。私は決して、貴方の味方ではありませんよ」


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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