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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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「ええ。そうですが」


 王子が驚いたように目を大きく見開いた。それほど驚くことかと思っていると、王子が少し考えるような素振りを見せ、口を開いた。


「そんなこともあるだろう。私は何も聞かないでおくが、もしできることがあれば、言うといい。少しぐらいは協力しよう」


 この言葉に、今度はリリアが目を瞠った。訝しげに王子を見ながら、言う。


「殿下。何を企んでいるのですか」

「いや待て。お前の中で私はどのような人間になっているのだ? まあ、その、なんだ。お前たち二人がそのままだと、私も気になってしまう。ただそれだけだ」

「そうですか。ありがとうございます」


 未だに疑わしそうにしつつもそう言うと、王子は苦笑しながら肩をすくめた。では戻る、と言ってそのまま扉へと向かう。アリサがすぐに扉を開け、礼を言って王子は部屋から出て行った。


 ――殿下がいつになく優しかった気がするのだけど。気持ち悪いわね。

 ――ばっさりだね。私も同感だけど、休みの間に何かあったのかな。


 休みの期間中は、王子は王城にいたはずだ。もしかするとそこで何かあったのかもしれないが、リリアには知る術のないことだ。それに、今更王子がどのように変わっても興味はない。


「気苦労が減ってクリスは喜びそうだけど」


 数少ない友人のことを考えながら、リリアはすっかり冷めてしまった紅茶に口をつけた。




 翌日以降は平常通りの授業だ。前学期と同じように午前中は授業を受けるために教室に向かう。教室にはすでに多くの生徒が集まっていた。リリアが教室に入ると、大勢の生徒がリリアを見て、誰もがにこやかに挨拶をしてくる。挨拶を返しながら席に座ると、女生徒が三人、集まってきた。


「リリアーヌ様!」


 嬉しそうな声を出すのは取り巻きの一人、セーラだ。リリアは彼女に笑顔を向けた。他の二人とも挨拶をする。


「ところでリリアーヌ様」


 他の取り巻き二人がリリアから目を逸らした時、セーラが素早くリリアへと顔を寄せてきた。


「ティナさんと疎遠になったと聞きましたが、本当なのですか?」

「疎遠、というほどではないけど……。誰に聞いたの?」

「出所は分かりませんが、いつの間にか昨日の夜には広まっていました」


 昨日は食事以外は部屋にいたために気がつかなかった。少しぐらいは誰かと話をしておくべきだったか、と後悔してしまう。


 ――リリア。大丈夫だとは思うけど、余計なことをしないように言っておいた方がいいと思うよ。特にそこの二人には。


 さくらが何を危惧しているかすぐに察して、リリアはセーラへと言う。


「セーラ。早まったことはしないようにしなさい。貴方は大丈夫だと思うけど、そこの二人にも気をつけておいて。私が言うと事実だと認めることになりそうだから」


 セーラは頷いて了承する。取り巻き二人がリリアたちへと振り返ったところで、教師と王子が教室に入ってきた。




 午前の授業が終わった後、リリアは食堂でサンドイッチをもらい、図書室には行かずに自室に戻る。出迎えて驚くアリサにサンドイッチを預け、リリアはいすに座った。


 ――図書室に行かなくていいの?

 ――明日でも大丈夫でしょう。


 アリサが皿に載せたサンドイッチを食べながら、リリアは考える。前学期の後半はティナに対する嫌がらせはなくなっていたが、それは決してティナが認められたというわけではない。嫌がらせをしていた中心のリリアがティナの側についたために減った、というのももちろんあるが、それ以上にティナに手を出してリリアを敵に回すことを誰もが怖れていたためだ。

 昨日からそのリリアとティナが疎遠になったという話が広まっているらしい。なら、ティナに対する嫌がらせがまた起こるかもしれない。


 ――喧嘩中なのに助けるの?


 さくらがどこか楽しげに聞いてくる。リリアは当然だと頷いた。


 ――あの子は私のものよ。私のものに手を出すことは許さないわ。

 ――怖いなあ。止めないけど。むしろどんどんやっちゃえ。


 リリアは頷くと、天井へと、つまりはシンシアへと言った。


「シンシア。いるわね?」

「はい」

「以前と同じように他の二人もいるのよね?」

「えっと……。はい。います」


 やはり男二人もいるらしい。ここにいる密偵三人のうち、リリアが自由に動かすことのできる者はシンシア一人だ。今のところはそれで十分だ。


「どうせシンシア以外は私の護衛でしょう」

「はい。そのように仰せつかっております」


 おそらくは兄からだろう。もう何も言うまい。


「シンシア。しばらくはティナの側にいなさい。もしかするとティナに対する嫌がらせがあるかもしれないから、見ておいてあげて」

「助ければよろしいのですか?」


 その問いに、しかしリリアは首を振った。


「ティナも困るだけでしょう。今はまだ、いいわ。ただし相手の顔と名前は覚えておきなさい。あと、怪我をしそうな時はそれとなく守ってあげてもらえる?」

「畏まりました」


 行ってきます、という言葉を最後にシンシアの声は聞こえなくなった。一先ずはこれで様子を見ておけばいいだろう。あとは、そう。

 手を出した者と話をすればいいだけだ。

 リリアがゆっくりと、楽しげに笑顔を浮かべた。




 夜。リリアは寝室のいすに座り、うとうとと微睡んでいた。側にはアリサがいて、はらはらとした様子でリリアを見守っている。今すぐにでもベッドで眠ってしまいたいところだが、できれば今日中にシンシアから報告を聞いておきたい。


 ――気持ちは分からなくはないけど、休んだ方がいいんじゃないかな。明日に響くよ。

 ――そうかもしれないけれど、どうしても聞いておきたいのよ。


 これに特に理由はない。ただ、リリアがそうしたいと思っているだけだ。アリサには付き合わせる形になってしまい申し訳ないとは思うが。もう少しだけ我慢してもらいたい。そう思いながらアリサの方へと視線をやると、アリサは姿勢を正して直立していた。疲れは一切見えない。


「アリサ。座ってもいいのよ?」


 さすがに心配になって言ってみるが、アリサは首を振った。


「いえ。このままで構いません。何かあれば遠慮無くお申し付け下さい」


 おそらくリリアが何を言ってもアリサは動かないだろう。それを察して、リリアは苦笑しつつ分かったわと頷いた。



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ではでは。

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