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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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11

 視界に入るのは、アリサともう一人の姿。淡い金色の長髪に水色の瞳の少女。今最も会いたくなかった者の一人、リリアから王子を奪っていった者、ティナ・ブレイハの姿だ。

 アリサの詰問がまだ続いていた。


「男爵家の貴方がリリアーヌお嬢様に何用ですか? アルディス公爵家と知ってのことでしょうね?」

「もちろんです。あの、わたしは……」


 そこで言葉が止まった。リリアと目が合い、口を何度か開閉させる。何か言いたそうにしつつも、うまく言葉にできないといった様子だ。


 ――さくら。これ、どうしたらいいの?

 ――ん……。仲良くしよう!

 ――抽象的すぎるわよ。


 やれやれと内心で首を振りながら、リリアはティナを見据えた。ティナがびくりと体を震わせる。目を逸らそうとしたのかわずかに視線が動いたが、思いとどまってリリアとしっかりと目を合わせてきた。

 そして、勢いよく頭を下げてきた。


「申し訳ありませんでした!」


 いきなり謝罪されるとは思わず、リリアが目を白黒させる。アリサも唖然と口を半開きにしていた。


「わたしのせいで、リリアーヌ様と殿下の婚約が……! わたしが、わたしが悪いのに……!」

 ――さくら、私はどうすればいいの!?

 ――がんばれ! はさすがにまだ酷かな? リリア、あの子が謝っているんだから、許してあげて。で、リリアも謝ろう。それでわだかまりはなし! ばんばんざいだ!


 最後は意味が分からなかったが、リリア自身すでにパニックになりかけているので、ほとんど思考もせずにさくらの言葉に従った。


「ティナさん」

「はい……」

「許します」


 ティナが、今度は勢いよく顔を上げた。その表情は驚愕一色だ。その表情を見ていると、リリアの心は逆に落ち着いてきた。


「その代わりと言ってはなんですが……。私の今までの行いも許していただけませんか?」


 そう問うと、ティナは泣きそうに顔を歪めた。


「だめ、です……」

「そうですか……。残念です」


 そう言ったリリアは再びパニックに陥りかけていた。なにがばんばんざいだ、駄目じゃないかとさくらに対して叫ぶが、さくらからはへらへらと笑っている気配が伝わってくる。まじめに考えてと言いかけたところで、


「そんなの……私ばかり得しています……」


 リリアの思考が一瞬だけ停止し、そしてすぐにその言葉の意味を考え始める。どういうことか、と首を傾げていると、ティナが続ける。


「リリアーヌ様の怒りは私に非があります。ですから、リリアーヌ様が謝るようなことは何もありません!」

 ――いやどう考えてもリリアが悪いから。原因を追求するなら婚約しといて他の人に惹かれたどっかの馬鹿王子が悪いから。

 ――さくら、殿下を悪く言うのは許さないわよ。

 ――むう……。分かったよ……。でもティナは本当に何も悪くないからね。普通の生活をしていたら王子が話しかけてきて、リリアが気づいて、いじめられただけなんだから。

 ――客観的に聞くと私は本当に嫌な女ね……。


 リリアが自嘲気味に笑うと、それをどう解釈したのかティナは頬を強張らせ、また頭を下げてきた。リリアは面倒だと思いながらも、口を開く。


「ティナさん。貴方に非はありません。悪いのは全て私です。ですから、自分を責めないでください」

「そんなこと……!」

「ではこうしましょう」


 リリアの言葉に、ティナは顔を上げた。そのティナへと、リリアはゆっくりと歩み寄る。ひどく怯えた表情になっていくティナを、リリアは少しだけ可愛く思えた。


「今までのことは全て水に流しましょう」

「え……? ですが……!」

「その代わりに、お友達になってくれませんか?」


 ティナが大きく目を見開き、アリサが息を呑んだのが分かる。さくらも、おお、と何故か驚いていた。こうしろと言ったのはさくらだろうに。


「でも、あの……。いいんですか……?」


 上目遣いにリリアを見つめてくるティナ。リリアは精一杯の笑顔を浮かべて頷いた。


「ええ。よろしくお願いしますね、ティナさん」

「……っ! はい……! ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 ティナが勢いよく頭を下げる。リリアが内心で安堵の吐息をついていると、


 ――やばいこの子すっごい可愛い! この子に取り憑きたかった!

 ――…………。

 ――リリア? 冗談だよ? だから拗ねないでね?

 ――拗ねてないわよ、うるさいわね。


 リリアは内心での不機嫌を押し殺しながら、改めてティナへと手を差し出した。きょとんとした様子でその手を見つめるティナ。だがすぐにリリアの意図することが伝わったのか、その手を両手で握りしめた。

 嬉しそうに破顔しているティナを見ていると、リリアも何故だか嬉しくなってくる。これがこの子の魅力なのだろうか。少なくとも、リリアにはないものだろう。


「それでは、ティナさん。お友達になったことですし、気楽にお話しましょうか」

「え? それって……」

「普段の口調でいいわよ。私もそうするから」


 ティナは思考が停止したように一瞬固まっていたが、すぐに小さな声で、


「う、うん……。分かった。よろしくね、リリアーヌ様」

「その呼び方も必要ないわ。親しい人はリリアと呼ぶの」

「え、と……。リリア様……」

「呼び捨てで」

「り、リリア……」

「はい。よろしい」

 ――リリア。楽しんでるでしょ。

 ――からかいがいがあるわね、この子。

 ――こらこら。


 そう言うさくらもどこか楽しそうな声音だった。さくらの指示はないのでとりあえず今はこれでいいだろう。リリアは一人で満足して、それでは、とティナへとまた意識を向ける。


「私は戻ってきたばかりだから、まだ色々と準備があるの。これで失礼するわね、ティナ」

「は、はい! お忙しい中呼び止めてしまい、申し訳ありません!」


友人から、適度に改行しないとスマホだと読みにくいという指摘をいただきました。

今までのものも含めて、とりあえず会話と地の文の間に一行入れてみました。

何かあればご指摘いただけると幸いです。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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― 新着の感想 ―
[一言] 呼び捨ては貴族社会的にいかんのじゃないだろうか あと、他のラノベの話になるけどタメ口するのが仲良いとかも疑問なのよねw
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