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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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「そのですね、話を戻しますが」


 アリサの声に視線を戻す。アリサは少し考える素振りを見せてから続ける。


「一度リリア様に失望してしまっている私が言います。きっとティナ様とも分かり合うことができるはずです」


 ティナと同じようにリリアを評価していたと聞くと、アリサの言葉には真実味がある。だからといって楽観視できるわけではないが、少しだけ心が軽くなった。リリアの表情から察したのだろう、アリサは満足そうに微笑んだ。


「あまり思い詰めないでください。何かあれば、私はもちろん、シンシアも協力致します」


 それを聞いて嬉しく思うのと同時に、そう言えばと思い出した。


「シンシアはどうしたの?」

「え? あ、えっと……」


 アリサの目が泳ぐ。何かあったのだろうか。リリアの目が細められると、アリサが慌てたように言った。


「危険なことがあったなどではありませんから! ただ、シンシアの家族が、リリア様に恥ずかしくない密偵にする、と息巻いてどこかへと連れて行っているみたいで……」

「それは……」


 せめてリリアに一言欲しいところだが、リリアが留守にしていたのでそれは難しかっただろう。それにしても、と思う。どのような指導が行われているのだろうか。


「リリア様が帰ってきたことは伝わっているはずなので、学園に向かうまでには戻ってくるとは思いますが」

「アリサ。後で何か甘いものでも買ってきてもらえる? シンシアが戻ってきたら一緒に食べましょう」


 アリサは嬉しそうに微笑むと、畏まりました、と一礼した。


 ――うんうん。部下、って言っていいのかは分からないけど、労うことは大事だね。リリアが自分から言ってくれて、ちょっと感動した。


 確かに以前の自分なら絶対に言わなかったことだろう。自然と変わってきている部分もあると思えば、やはり今までの時間も無駄ではなかったということだろう。もっとも、アリサやシンシア以外に同じ対応ができるかどうかまでは分からないが。


 ――今はそれで十分だよ。


 さくらの声に、リリアは、ならいいのだけど、と返しておいた。




 アリサが買い物に行って、しばらくしてから戻ってきた頃、部屋の扉がノックされた。アリサが扉を開けると、そこにいたのはシンシアだった。


「あ、アリサ。リリア様は戻ってきてるの?」


 アリサが答えの代わりに一歩横に移動する。リリアと目が合うと、シンシアはぽかんと口を開けた後、慌てたように頭を下げた。


「お、おかえりなさいませ! リリア様!」

「ええ。ただいま。シンシアもおかえりなさい。大変だったでしょう」

「え? い、いえ! 全くそんなことはこれっぽっちも!」


 何をそんなに慌てているのか。見ているリリアの方が困ってしまう。リリアの頬がわずかに引きつっていることに気づいたのか、アリサはため息をついて言った。


「シンシア。リリア様を困らせないで」

「とりあえずこちらへ来て座りなさい」


 リリアが促すと、シンシアはおずおずといった様子で部屋に入ってきた。緊張した面持ちのまま、促されるままにリリアの対面に座る。座ってから対面であることに気づいたのか、泣きそうな表情になっていた。


 ――この子の家族は技術を教える前にこの性格をどうにかさせるべきだと思うのだけど。

 ――まあ性格はそう簡単に変わるものじゃないから。リリアならよく分かるでしょ。

 ――まあ、ね。


 アリサが紅茶の準備をして、切り分けたケーキを三つ並べる。未だ小さくなったままのシンシアに少しだけ面倒だと思いながらも、リリアは言った。


「アリサに買ってきてもらったのよ」

「そうですか」


 いつの間にか、シンシアの雰囲気が変わっていた。以前見た仕事のそれだ。シンシアは自分の前に出されたケーキをすぐに一口食べ、戸惑うリリアたちへと言った。


「毒はないみたいですね」


 ぴたりと。アリサが動きを止めた。


「それはつまり、私がリリア様に毒を盛る疑いがあると、そう言いたいの……?」


 アリサは笑顔だ。笑顔なのだが、目が笑っていない。


 ――リリアさんリリアさん。アリサさんの背後に鬼が見えるのですが気のせいですか。

 ――奇遇ね。私も見えるわ。なかなか面白いわね。

 ――これを面白いと言えるリリアにびっくりだよ。


 シンシアもリリアたちと同じものでも幻視しているのか、その表情は青ざめていた。仕事の時の凜々しい雰囲気はどこへやら、かわいそうなほどに戸惑っている。


「ご、ごめん、アリサ。その、ちょっとくせというか、悪気はなくて、あのね……」

「大丈夫。怒ってないから」

「絶対嘘だよね、怒ってるよね。ごめんなさい!」


 リリアの目の前で小さく騒ぐ二人を眺めながら、リリアは苦笑を漏らした。こんな小芝居をさせてしまうほど、今の自分はひどい有様なのだろうか。


 ――小芝居じゃなくて天然だったりして。

 ――さすがにそれはないと信じたいわね。


 リリアがテーブルを指で叩くと、二人がすぐに口を閉ざし、姿勢を正した。それに満足そうに頷き、笑顔を浮かべた。


「頂きましょうか」


 リリアが言うと、二人はどこか安堵の吐息をついて頷いた。




 翌日。リリアは学園へと向かう馬車に乗り、屋敷を出た。アリサも一緒に乗っている。シンシアはすでにおらず、先に学園へと向かったそうだ。

 ちなみに、馬車に乗る前に花壇の様子を見に行った。テオが自信満々に見せてくれるそれには、多くの花が咲き誇っていた。褒めてやると、テオはとても嬉しそうにしていたが、すぐに申し訳なさそうに頭を下げてきた。曰く、リリアがお忍びの旅行をしている間はアリサがほとんど面倒を見ていたらしい。


「お姉様とアリサが戻ってきた時に落胆されないように、努力します!」


 テオはそう宣言していた。

 そんなことを思い出していると、いつの間にか馬車は寮の前にたどり着いていた。

 馬車から下りて三階へと向かう。荷物は前回と同じく、必要なものは昨日すでに運ばれているのでリリアの両手には何もない。アリサを従えて三階にたどり着くと、


「あら」


 優雅に紅茶を飲んでいるクリスがいた。


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