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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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さくら2

「なにこれ……」


 気が付いた時、さくらは小さな部屋に立っていた。目の前にはベッドがあり、ベッドには見覚えのある顔の少女が横たわっている。その少女にすがりついて泣き叫ぶ女は、間違いなくさくらの母親だ。母の両肩に手を置いて静かに涙を流すのは、さくらの父親で間違いない。

 もう一度、ベッドの少女を見る。思わず自嘲気味に笑ってしまった。

 見覚えがある。当然だ。毎朝鏡で見ているのだから。


「やっぱり私は死んだのかな……」


 両親が泣いているということは、そういうことなのだろう。仮死状態、とも思えない。さくらの体には何の器具も繋がっていないのだから。


「さくら……。さくらぁ……」


 母の声が室内に響く。さくらの両目からは自然と涙が溢れていた。


「ごめんなさい……」


 届かないだろうことは分かりつつも、そう言わずにはいられない。泣き続ける両親に、さくらはずっと謝り続けていた。




 しばらくして、部屋のドアが開かれた。スライド式のドアが開かれた先には、親友とも言える友人がいた。友人はふらふらとベッドに近寄ると、呆然とさくらの体を見つめていた。


「なんで……」


 友人が呟く。その両目から涙が溢れてくる。


「さくらは、ずっと約束を破らなかったじゃない……。明日、お買い物に行こうって、約束したじゃない……」


 その後は、嗚咽の方が大きくなり聞き取れなかった。父が友人の肩に手を置いて、礼を言っている。さくらはそれを、他人事のように眺めていた。

 心が押し潰されそうだ。罪悪感で胸が締め付けられる。さくらにはどうしようもなかったとはいえ、なぜ自分は死んでしまったのか。優しい両親や友人に何も言えずに、何故。


 その後は、さくらの親族や友人、後輩たちも集まってきた。担任だった教師もやってきて、しばらく呆然とした後、両親と何かを話していた。大勢の人がやってきて、涙を流し、そして帰っていく。自分はこんなに慕われていたのかと、嬉しくなると同時に申し訳なさでとても辛い。

 そろそろ人の流れが落ち着いてきたかと思い始めた頃、一人の少年が入ってきた。髪を茶色に染めた少年で、何度もさくらと言い合いをしたことがある。さくらとよく喧嘩をするくせに、幼少から中学校まで常に同じクラスだった腐れ縁だ。

 少年は目を見開いて、ふらふらとベッドに近づき、呆然とした様子で呟いた。


「なんでだよ……」


 そのまま黙り込み、うつむいてしまった。少年が涙を流し始めたことに、さくらは素直に驚いていた。


「あ……。来てたんだ……」


 友人が部屋に入ってきた。少年はそちらへと振り返り、しかしすぐに視線を戻してしまった。


「早く告白しておけば良かったのに」


 友人の言葉に、さくらは大きく目を見開いた。


「うるせえ……。まさかこんなことになるなんて、思わないだろうが……」

「まあ、そうよね。正直、未だに信じられないし……」


 友人は少年の隣に立つと、その肩に手を置いた。


「ここにいると邪魔になるから、外に出ましょう」

「ん……。もうちょっと、待ってくれ」

「うん。外にいるから」


 友人が外に出て行く。少年はそれを待ってから、小さな声で言った。


「俺は、ずっとお前のことが好きだったんだ。馬鹿みたいに騒ぐのが、楽しかったんだ」


 少年は、ふっと自嘲気味に笑った。


「もっとずっと、馬鹿ができると思ってたよ……」


 少年は鼻をすすると、そのまま退室していった。

 正直、全く気がつかなかった。言われてみれば、少年はよくさくらに絡んできた。まさかそういうことだったとは思いもしなかったが。


「意外と気づかないものだね」


 死んでから気づいても意味がないのに。さくらはため息をつきつつ、自分が横になっているベッドに座った。自分はこれからどうなるのだろう。考えてみても、分かるはずもない。死んだ人間がどうなるかなど、誰も知らないのだから。


「とりあえずあれだね! 暇だ!」


 楽しげにそう言って、そして、


「ほんとに……ひまだよ……」


 ため息とともに、吐き出した。




 お坊さんが何かを唱えている。黒い衣服に身を包んだ人がそれを沈んだ面持ちで聞いている。そこにはさくらの両親や友人たちもいた。

 今はさくらの葬式だ。さくらはここまで、眠ることもできず、ずっと自分の体の側にいる。自宅に帰った時は感無量で思わず泣いてしまった。恥ずかしかったが、誰にも見られないことを思い出すと余計に悲しくなった。

 この葬式の後は、そのまま火葬されることになっている。自分の体が燃えるところもこのまま見ることになるのかもしれない。


「いい加減にしてほしいなあ……」


 ここにいると辛いだけだ。もっと両親と話をすれば良かった、もっと友人と遊べば良かった、もっと少年と向き合えば良かった、そんな後悔ばかりをしてしまう。後悔しても反省しても次に活かすことなどできるわけがない。無駄な時間だ。

 成仏か、消滅か。どちらにしろ、早くしてほしいものだと思う。もっとも、やはり生きていたかったというのが本音ではあるが。


 お経が終わり、家族、親族、友人たちが最後に花を入れ、何かを呟いていく。それら全てを聞いていると、さくらの心は壊れそうになる。悲しくて、声をかけたくて、けれど何もできなくて。せめて声だけでも届けばいいのに、と思ってしまう。

 やがてさくらの体は火葬場へと連れて行かれ、そして。

 燃やされた。




 最後まで残っていた両親もその場を去り、冬月家の墓の前にはさくらのみが残された。さくらはここから動きたくても動けない。何故か、この場所から一定距離しか動けないのだ。遺骨はさくらの両親も持って行っているというのに、不思議なものだと思う。

 誰もいない墓地。とても薄気味悪いが、さくらそのものが幽霊のようなものだ。ある意味では場所に合っていると思う。


 そんなどうでもいいことばかりを考えていると、目の前に人影が立った。億劫そうに目の前の誰かを見る。

 黒い髪と瞳の青年だった。青年はとても楽しそうだ。こちらはこれ以上にないほど気が滅入っているというのに、不愉快なことこの上ない。もっともさくらが何を言おうとも、青年には伝わらないだろう。

 そう思っていた。


「こんばんは。良い月夜だな、冬月さくら」


 青年は、間違いなくさくらを見て、笑顔で言った。憎たらしいほどに満面の笑顔だった。


「さて、では行こうか」


 青年がそう言った直後、目の前の景色が消失した。




 次に気が付いた時、さくらは何もない真っ白な場所にいた。自分の体以外は何もない、ただただ白いだけの空間だ。


「これでは味気ないな。これでどうだ?」


 先ほどの青年の声。その直後、その場所は小さな部屋になっていた。それは、自宅のさくらの部屋と似通っている。


「というより、同じ?」


 机の上にあるものも、ベッドの上にあるぬいぐるみも、全てさくらが持っていたものと同じだ。違うところといえば、窓からの景色が真っ白なところか。


「さて、冬月さくら」


 青年の声。いつの間にか扉の前に先ほどの青年がいた。青年は最初に会った時と同じように、ずっと笑顔だ。


「自分が死んだことは分かっているな?」

「それはまあ……。あなたは誰ですか?」

「お前たちが神と呼ぶ者に近い存在だな」


 さくらが眉をひそめる。ずいぶんと人間くさい神様もいたものだ。そう考えていると、青年がおかしそうに笑った。


「俺の姿はお前がイメージしやすいものになっている。実際は私に姿などない。お前に説明しても理解できないだろう。気にするな」


 さらっと馬鹿にされたような気がするが、今はそんなことはどうでもいい。何故、そんな存在が出てきたのか。


「理由は単純だな」


 青年が、嗤う。


「私が、お前を殺したからだ」

「は?」


 こいつはいま、なんといった?


「理解できなかったか? もう一度言おう。私が冬月さくらを殺したのだ」


 殺した。つまりはこの自称神の意志によって。


「どう、して?」


 どうにかして声を絞り出す。神は、


「理由か? ああ、そうだな。こういった時お前たちは、殺された先に何かがあるのかもしれないと期待するのか」


 神は、嗤う。慈悲も哀れみも何もなく。ただただ己の欲望に忠実な、嗤い。


「私の目的は果たされている」

「え……? 私は、何かしました?」

「ああ、したとも。最後の顔はなかなかいいものだった」


 え、とさくらの思考が止まる。最後の顔、とはつまりはどういうことなのか。


「順風満帆。いいことだ。先の楽しみがある。素晴らしい。希望に満ちあふれた人生。そこから突然突き落とされた人間の顔。私はそれが、とても好きだ」


 頭が回らない。今、自分は何を言われている? つまりはこいつは、たださくらの苦しむ顔を見たいがために、殺したと。そう言いたいのか。


「そうだが?」

「なんで……。なんで!? 私は何もしてないのに!」

「ふむ。おかしなことを言うな。お前たちの世界でも誰かが言うだろう。虫を殺すのに理由などあるのか?」


 この神にとって、自分を殺したことはその程度の認識らしい。

 理由などなく。ただ己の欲望のままに。さくらの人生を奪った。つまりは、そういうことだ。

 あまりに理不尽なその神の意志に、さくらは呆然と立ち尽くした。


     ・・・・・


 さくらが目を開ける。目の前にそびえ立つ、桜の木。それに額を当て、大きなため息をついた。


「クソガミ……」


 思えば、さくらはあの時初めて、誰かに対して殺意を抱いた。その時のことは、今でもよく思い出せる。これほどまざまざと思い出すつもりはなかったが。

 フリジア・レスター。クソガミを思い出してしまった原因。あれほどクソガミと似通った趣味を持つ人間がいるとは思わなかった。実に、不愉快だ。


 ――さくら。どうしたの?


 リリアの声。さくらは慌てて笑顔の仮面を貼り付ける。


「何でもないよ」


 楽しげに言う。リリアを安心させるために。リリアの心に寄り添うために。

 己の、欲望のために。


     ・・・・・


 さくらの意志は神やフリジアと変わらない。

 さくらはその事実に、気づいていながらも目を背けていた。


予定を変更してさくらの過去話を。

ティナとブロソはまたの機会に、ということで。


神の目的でした。……目的?

さくらの過去は残り1回、でしょうか。

憑依の経緯などはその機会に。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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