100
そうして案内された店は、数多くのお菓子が並ぶ店だった。リリアにも馴染みがあるお菓子が目に入り、さくらの反応を瞬時に予想。
――いちご……。
――買うから黙りなさい。
――むう。
最後まで言えなかったことに不満があるのか、どこか不服そうな声だ。苦笑しつつ、苺大福を購入する。ティナはみたらし団子だ。
「やっぱりリリアは苺大福なんだね」
「やっぱり、と言われると少し心外ではあるのだけど……。まあ、いいわ」
早速ティナがみたらし団子を食べ始める。それを見たリリアも少し悩んだ後、苺大福を口に入れた。
「あ、外で食べるのって抵抗あるよね。ごめんね、気づかなくて……」
「別にいいわよ。ティナの真似をするから」
――いつもは平気でしてるけどね!
――黙りなさい。
食べ終えた後は、ティナの案内で別の店に向かう。そこでは手前側に大きなカウンターがあり、少し奥、手が届かない場所に商品が並ぶ不思議な店だった。どうやって買い物をするのかと首を傾げていると、
「お兄さん、とりあえず一回お願いします」
「はいよ」
カウンターの奥側にいた若い男がティナから金を受け取り、小さな弓と先端が丸くなっている矢を五本渡してきた。それが商品なのかと少し驚いているリリアの目の前で、ティナは弓を構え、矢を射る。続けて五本。四本は奥の壁に当たり、一本は手前側の小さな袋に当たった。
「あいよ」
男がその袋をティナに渡す。そこまで見て、なるほどとようやく理解した。矢に当たった商品がもらえるという遊びらしい。よく考えたものだと思う。
――射的、になるのかな。さすがに銃は伝えなかったのかな。
――じゅう? なにそれ?
――うん。気にしないで。
さくらはこの遊びか、もしくはその元を知っているらしい。賢者について詳しいようなのでおそらくはこれもその類いのものなのだろう。食べ物だけでなく、こんなところにまで関わっているとは思わなかった。
――少しだけ、賢者というものに興味が出てくるわね。できれば今度、教えてほしいのだけど。
――私が知っている限りでよければ、話してあげてもいいけど。
――ということはこの遊びもやっぱり賢者絡みなのね。
――誘導された!
前から少し思っていたが、さくらはこういった誘導に簡単に引っかかる。根が正直なのだろう。さくらが隠していることについても簡単に聞ければいいのだが、そういったことになると引っかかることはない。
「リリア。次に行こう」
ティナに促されて、リリアは思考を中断した。
そうして二人で露店や商店を巡っていると、唐突にティナが足を止めた。ある一点を凝視して凍り付いている。その視線を追ってみると、赤い髪の少年がこちらを見て、やはり凍り付いていた。鋭い目つきの少年で、おそらくはリリアたちと同年代だろう。
「キース……」
ティナが少年の名前だろうものを呟くと、少年はティナをはっきりと睨み付けてきた。どう見ても敵意しか感じない瞳で、思わず眉をしかめてしまう。それに気づいたのか、ティナはリリアへと少し慌てたように言った。
「ちょっとあの子と話してくるから。リリアはここで待っててもらってもいいかな」
「別に構わないけど……。大丈夫なの?」
「うん。平気だよ。じゃあ行ってくるね」
ティナは笑顔でそう言って、少年の方へと走っていった。
――平気、ね……。あんな泣きそうな目で言われても説得力がないわよ。さくら。何か知らないの?
――んー……。
さすがに知っているわけがないだろう、と思っていたのだが、予想に反してさくらは唸るだけだった。リリアの目がわずかに細められた。
――知っているの?
――まあ、一応……。ティナの幼馴染み、だったはずだよ。
――幼馴染み? 幼馴染みというのは仲が悪いものなの?
――いや、それは人によると思うけど。とにかくあの二人は仲が悪い、というよりキースって子が一方的に嫌ってるだけかな。一応は本人同士の問題だよ。
そう聞いても、リリアはあまり納得はできなかった。ずっと二人の様子を見ているが、キースという少年がティナに対して怒鳴っているように見える。対するティナは眉尻を下げた苦笑で応じているようだ。
こうして見ていると、どう見ても悪いのはキースにしか見えない。しかしその前に何があったのかリリアは知らない。もしかすると、ティナが何かをしたのかもしれない。
――あの子に限ってそれはないと思うけど。
――どうだろうね。
そのこともさくらは知っているのだろうか。聞いてみたいとは思うが、きっと教えてはくれないだろう。それに、本人同士の問題ならリリアが関わるようなことではない。ティナから助けを求められたら何かしら動こうとは思うが、ティナにそんな素振りがない以上、首を突っ込むべきではないだろう。
リリアは二人の様子を見守りながら、そこから動かずに待ち続けた。
そうして待ち続け、いい加減待たされることに苛立ちを覚え始めた頃。キースが最後に何かを叫び、きびすを返して走り去っていった。ティナが肩を落として戻ってくる。明らかに落胆している様子だったが、リリアが見ていることに気が付くと、慌てたように表情を取り繕った。
走って戻ってきたティナは、恥ずかしそうに笑った。
「待たせちゃってごめん。次に行こう」
そう言って、リリアの手を取ってくる。リリアはキースのことを聞こうかと口を開きかけ、しかしすぐに閉じた。ティナが話そうとしないのなら、今はまだ聞くべき時ではないのだろう。
リリアは小さくため息をつくと、ティアに手を引かれるままに歩き出した。
結局その日は日が傾くまで南区を巡った。美味しそうなものがあれば食べて、面白そうなものがあれば遊んでみる。以前の自分なら間違いなくやらなかったことだろうばかりだ。それが少し新鮮で、楽しいと思える。
宿に帰って三階に向かうと、兄が部屋の前で待っていた。難しい顔をしていたが、リリアを見ると相好を崩した。気持ちが悪い。
――いや、ひどいよ。
壁|w・)毎日更新が途切れるかも。詳しくは活動報告にて。
簡単に言ってしまえば、自宅のパソコンが動かなくなりました。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




