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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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 ティナから誘われ、リリアは南区に出かけることにした。元々お忍びということもあり今の服装も地味なものを選んでいるが、念のためにティナに服を借りることにする。それを聞いたティナは一瞬絶句し、こちらが驚くほど狼狽え始めた。


「ふ、服だね! うん、必要だよね! ちょっと……ちょっと待って! すぐに戻るから! ちゃんと戻ってくるから! 来ちゃだめだよ!」


 そして大急ぎで階段へと走って行く。リリアは呆然とそれを見送った後、


 ――さくら。

 ――なに?

 ――私はティナに部屋を見せたわよね。

 ――見せたね。

 ――見に行って問題は?

 ――ない。行こう!


 よし、とリリアは頷くと、リリアも階段へと向かった。

 その後ろ姿を兄が微笑ましく見守っていたのだが、リリアは気づかなかった。




 当然ながらリリアはティナの部屋がどこにあるのか知らない。だがそんな問題はすぐに解決できた。


「ティナの部屋? ああ、こちらですよ」


 ティナの父親がどこか嬉しそうにしながら案内してくれた。食堂などへと続く扉のさらに奥、廊下の奥の扉だった。そこからがブレイハ家の居住スペースらしい。扉の先は短い廊下になっており、扉が四つだけあった。そのうちの一つがティナの部屋だ。

 リリアはティナの父親に礼を言ってから、部屋の扉を叩いた。


「ティナ。いるの?」

「へ? リリア!?」

「入るわよ」

「ま、待って……!」


 扉を開ける。部屋を見る。なるほど、とリリアは頷き、優しく笑った。


「可愛いわね」

「うう……」


 部屋には所狭しと人形やぬいぐるみが並んでいた。学園の寮の部屋には一つもなかったものなので少々意外に思うが、別に悪いとは思わない。少しばかり子供っぽいとは思うが、黙っておいてやるのが優しさというものだろう。


 ――優しさ、とは違うような……。


 さくらの言葉を無視して、ティナへと視線をやる。ティナは諦めたようにため息をつきながら、どうぞ、と促してくれた。部屋に入り、洋服タンスの中を見ているティナを見守りながら、側に置いてあるぬいぐるみを手に取った。


「へえ……。こういうのも、いいわね……」


 リリアが小さな声で呟くと、さくらが反応した。


 ――そう言えば、リリアの部屋には人形ってないよね。どうして?

 ――特に興味を持たなかったのよ。こうして見てみると、可愛いとは思うけど。


 これは熊のぬいぐるみだろうか。両手を持ってぬいぐるみの顔を見つめていると、いつの間にかこちらへと振り返っていたティナと目が合った。


「リリア。その子が気に入ったの?」

「え? いえ、別にそういうわけでは……」

「いいよ。あげる」


 にっこりと。満面の笑顔でティナが言って、リリアはぬいぐるみとティナの顔を交互に見てしまった。


「いいの?」

「うん。大事にしてね」


 リリアはしっかりと頷くと、ぬいぐるみを抱きしめた。




 ティナが選んだ服に着替え、ぬいぐるみを抱いたまま部屋を出る。そのまま外に行こうと玄関へと向かうと、同じように出かけるつもりだったのか兄と出くわした。


「出かけるのか?」

「はい。お兄様も?」

「そうだ! よくぞ聞いてくれた!」


 それを聞いた瞬間、嫌な予感がした。全くもって聞いたつもりはないし聞くつもりもないので素通りしようかと思ったが、兄がリリアの肩を掴んだ。振り解こうとするが、兄はリリアを解放するつもりはないらしい。


「実はこの町には腕のいい鍛冶士がいて……」


 またか、とリリアとティナは顔を見合わせてため息をついたが、しかし兄の言葉は続かなかった。訝しげに兄を見てみれば、兄の視線はリリアが抱いているぬいぐるみで固定されていた。


「リリア……。人形、好きだったのか……?」


 兄の、小さな声での問いかけ。リリアは首を傾げながら、


「いえ、別にそういうわけではありませんが」

「それはどうした?」

「ティナから頂きました」


 兄はリリアとティナ、そしてぬいぐるみを順番に見て、そうして、そうか、と頷いた。そしてリリアの肩から手を離すと、その後は一言も発さずに宿を出て行った。


 ――なにあれ……?

 ――さあ……。


 さくらも分からないようで、首を傾げる気配が伝わってきた。何故か兄が剣の話を始めようとした時以上の胸騒ぎがするのは気のせいだろうか。


「クロスさんは本当に剣が好きなんだね」


 ティナはそんなことを呟いている。どうやら胸騒ぎはリリアだけのようだ。それが余計に嫌な予感がする。しかし考えても答えなど出るはずもなく、リリアは首を振って気持ちを切り替えた。


「それじゃあ行きましょうか。案内は任せるわよ」

「うん! 任せて!」


 ティナがリリアの手を取って歩き始める。リリアはそれを振り解こうとはせずに、黙ってティナに従った。




 南区はやはり北区とは比べものにならないほどに賑やかだ。露店を出しているそれぞれの店主は大声で客を呼び込んでいる。四方八方からそんな声が聞こえてくるので聞き分けることもできない。騒がしい、としか言えない。上級貴族なら間違いなくこの近辺には来ないだろう。


「それで、どこに行くの?」

「じゃあまずは……。お菓子!」


 いきなりそれか、と思いながらも反論はしない。先を歩き始めたティナの後を大人しくついていく。



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ではでは。

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