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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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10/259

「ええ……。お願い。遠慮しなくていいから」


 では、とアリサが咳払いをして、


「はっきり言ってとても我が儘な人でした。その上短気で、すぐに暴力を振るう。あまりに理不尽すぎてもう呆れるしかありませんでしたね。欲しいものがあれば何が何でも手に入れようとするのもひどいと思っていました。なにせ旦那様の名前ですら遠慮なく使うのですから。正直、ここで働き始めたことを後悔していたほどです。……どうしました?」


 リリアが蒼白な表情になっていることに気づいてアリサが首を傾げる。リリアは頬を引きつらせながら、首を振った。


「何でも無いわ……。続けて……」


 そうしてアリサからさらにだめ出しの連続。怒りなど通り越して泣きたくなってくる。さくらにすでに言われていたことではあるが、こうして改めて目の前で口にされると、なかなか堪えるものがあった。


「ですが」


 アリサがそこで言葉を区切る。リリアが生気のない瞳でアリサを見ると、アリサは何故か微笑んでいた。


「私はリリア様が実は優しい人だと知っています。信じています」

「は……?」


 優しい。誰がだ。さすがにそれはリリア自身ですらおかしいと思う。リリアにとって、他者に対する優しさなど隙を作ること行為でしかないと思っている。その考えは今も変わらないことであり、アリサが言っていることが最近のリリアの行動のことを言っているのなら、それはさくらの指示に従っているだけだ。

 仕方がないとは分かっていても、少しばかり落胆してしまう。だがアリサの続きの言葉を聞いて、リリアは首を傾げた。


「私は幼い頃、リリア様に助けられているんですよ」


 リリアが怪訝そうに眉をひそめ、それを見たアリサが苦笑しつつ教えてくれる。


「まだずっと幼かった頃、家族と王都旅行に来たことがあるのですが、その時に両親とはぐれてしまいまして……。道に迷って、気が付いたら大きなお屋敷の側にいました」

「へえ……。どの家の屋敷かしら」

 ――いやリリア、ここでアルディス以外の名前は出てこないでしょ……。

 ――そうなの?

 ――そうなの。そいういうことにしておきなさい。


 いまいち釈然としないものを覚えながらも、リリアはアリサの話に耳を傾ける。


「その時の私は何を思ったのか、そのお屋敷に入ってしまいまして……。当然のことながら、あっという間に捕まりました」

「それは……。処刑されなかったの?」

 ――いやリリア。ここで処刑されていたらおかしいでしょ。

 ――そうなの?

 ――貴方の目の前にいるのは幽霊なの? 良い話じゃなくて実はホラー?

 ――ああ……。


 ようやくさくらの言いたいことを理解したのか、なるほどとリリアは納得して頷いた。さくらが、大丈夫かなほんと、と何か心配しているようだが、リリアはとりあえずアリサの方に意識を向ける。


「本来なら、子供であってもその場で殺されてもおかしくはないのですが、その時にリリア様が助けてくれたんです」

「私が? どうやって?」

「えっとですね……。こんな子供を恐れて殺してしまうなんてアルディス家の名前に傷をつけるつもりか、と」

 ――それ、優しさじゃなくてプライドの問題のような……。

「その後、裏で殺したりしないようにとリリア様が護衛の方と共に私の家族を探してくれたんです。護衛といっても、旦那様でしたけど」


 アリサがどこか懐かしむように目を細め、そして次いでくすりと笑みを零した。あの時の両親の反応はおもしろかった、と。


 ――リリア、覚えてないの?

 ――覚えてるような覚えてないような……。ただ少なくとも、そんな善意の感情ではないと思うのだけど。

 ――まあ……。多分アリサもそれはもう分かってるんだろうね。だからさっきも、知っているの後に信じていますって言い直したんだと思うし。それに。


 さくらが言葉を止める。何となくアリサを見ているような気がする。アリサはこちらを真剣な表情で見つめていた。リリアの言葉を待つように。


 ――アリサにとって、助けられたという事実は変わらないから、どっちでもいいんじゃないかな。それなら都合の良いように解釈しちゃえ、じゃない?

 ――そんなものなの?

「アリサ。正直私はその時のことを覚えていないわ。ただ、少なくともそんな善意の感情じゃなかったとは思うのだけど」

「はい。今ならそれも分かります。ですけど、私にとっては助けられた事実は変わらないですから。リリア様のご恩返しになるのでしたら、喜んで協力させていただきます」


 しっかりとした口調でアリサが言い切った。リリアはしばらく唖然としていたが、やがて、自身も気づかぬうちに笑顔になっていた。


「よろしくね、アリサ」

「はい。よろしくお願い致します」


 アリサがその場で深く頭を下げ、リリアは満足そうに頷いた。



 寮は学園の敷地で最も大きな建物だ。全生徒がここで生活しているのだから当然とも言える。寮は三階建てとなっており、一階が食堂や売店など、大勢が使う施設がそろえられている。入ってすぐのエントランスは広く、いすやテーブルなども用意されているため学生の憩いの場となっている。

 二階は庶民や商人、下級貴族などの部屋が並び、三階は上級貴族の部屋になる。

 リリアとアリサは大きな玄関から寮に入った。授業の前後は大勢の生徒で賑やかなこの建物も、昼食時も過ぎて午後の授業が始まった今の時間は静かなものだ。エントランスには誰もおらず、リリアとアリサの足音だけが響く。

 エントランスの最奥に螺旋階段があり、リリアがその一段目に足をかけたところでアリサが口を開いた。


「あの……。リリア様……」

「なに?」

「本当に私も……リリア様のお部屋なのですか?」


 何を今更、と小さくため息をつきながら振り返る。アリサの瞳は不安そうに揺れていた。


「何か問題でもあるの?」

「問題と言いますか……。その、聞いたことがありませんよ? 貴族の方がただのメイドと同じ部屋だなんて……」


ストックが結構できたので、しばらくは毎日更新をしてみます。

ストックがなくなれば偶数日更新に戻しますよー。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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