こっちが好きだからこっちは嫌い
「ふと思ったんだが。なんで物が二つあって、片方を好きな奴って片方を目の敵にすんのかね」
健一が極論をさも当然のようにさつきに尋ねる。
「え?別にしてなくない?なんでそう思ったの」
「いや、きのことたけのこの戦争を見てそう思った」
「なにそれ。ふふっ、なにそれ。意味わかんない」
健一の言葉が足りなかったばかりに、さつきはきのことたけのこが手を生やして戦争をしているイメージが浮かんだ。
「ほらお菓子の。あるじゃん、あれだよ」
「あー、なんかインターネットの話題とかであるらしいね。どっちが好きかーって奴」
最近見かける、きのことたけのこのどっちが好きかを語る話題。
どちらも殆ど同じようなものなのに、好きじゃない方を目の敵のように扱う、よくわからない話題の一つだ。
「そうそう」
「そう言われてみると、確かにどっちかを好きな人ってもう片方を馬鹿にすることって結構あるね」
「だろ?」
「猫を好きな人が犬嫌いだったり」
「紅茶を好きな奴がコーヒー飲む奴を馬鹿にしたりな」
「と、いうことは……女の人がスキな人は男の人がキライだったり……する?」
「いや、それはおかしい」
「え? 男がスキ?」
「んなこと言ってない」
「おばさんに伝えてこなきゃ!」
「おい! 待て! やめろ!」
本当に出ていこうとするさつきに、健一がしがみついて止めると、セクハラだセクハラと喚きつつも定位置(健一のベッドの上)に戻る。
「あーあ、あんたがお菓子の話するから、お菓子食べたくなっちゃった。なんかある?」
「うすしおとコンソメならあるけど、どっちがいい?」
さつきは少しだけ考える素振りを見せて。
「うすしおなんてサイアク。コンソメサイコー!」
「お前もかよ」
話の流れでのネタなのはわかっていたが、今度うすしおを食べたいと言った時に、これをネタにからかってやろうと思う健一だった。