どっちがいい
「この服とこの服どっちがいい?」
「どっちもいいと思うけど」
さつきは新しく買った洋服を健一に見せびらかした。
右と左に洋服を持ち、どちらがいいか聞く。
「どっちがいいか聞いてるの」
「俺に聞いてどうすんの片方返品すんのか?」
「違うーただ好みを聞いてるだけだから」
「なるほど。でも、実際着てるとこ見ないとわからん」
「そう?じゃあ着替えるからあっち向いてて」
「わかった…………えっ!!?」
近しい間柄ではあるが、同じ部屋で着替えても平気とは思っていなかったので、健一はひどく驚いた。
「嘘に決まってるじゃん。外出てて」
「あ、ああ、はい……」
動揺を隠せず、すごすごと出ていく健一。
5分程待つと入っていいよと声が掛かる。
「じゃーん、どう?」
「いいと思います」
「簡素な感想ね。もっとこう、なんかないの?」
「お前はやっぱその色が似合ってるよ。他の色も嫌いじゃないけど」
「そっかー。あんたはこの色が好きだったのかー」
素直な感想にさつきはご満悦だ。
ニヤニヤと張り付いた笑顔が、機嫌の良さを直接に表している。
「もう一着の方はどうするんだ?」
「ん? んー……気分がいいから、また今度見せびらかすよ」
気分を良くしたさつきは大事そうに服を片付ける。
「しかし、新しい服買っても部屋の中ってのもあれだし、今度それ着てどっか行くか?」
「え……あんたにこの服はちょっとサイズが合わないんじゃないの? それに女物だよ」
「わかってるよ! ちげーよ! 今度、出かける時にお前がその服着るんだよ」
「あらやだ、デートのお誘いですか。しかも服装の指定までしちゃって」
「あ、そ。じゃあいいわ」
「うそうそ。ごめん、ごめんなさい。もうからかわないからー」
そう言ったさつきの声はやっぱり弾んでいた。