重くて持てそうにない
「具体的な数字は言わなくていいんだけど」
「えっ何……? なんか不穏なんだけど」
主語を抜かした健一の突然な言葉に、さつきは警戒した。
「お前の体重って50~60kgぐらいだろ?」
「予想よりひどい内容だった……。ちょっと、せめて45~55kgって言ってよ」
「なるほど50kg前半か」
50kg未満だったなら40~50kgと言うはずだ。
と、健一はすぐに答えを導き出した。
そしてそれは正しかった。
「やめてください、男の人呼びますよ? それに察しないでください」
動揺のあまり、不思議と丁寧語になるさつき。
「具体的な数字は別にいいんだよ」
「辱めておきながらどうでもいいとか言うし……」
さつきは少し泣きそうだ。
「仮に50kgだとするだろ? つまり10kgのお米が5個分だ」
「何が言いたいのか段々わかってきた……」
さつきは段々と言葉尻が小さくなっていく。
「それでだ。手を前に出した状態で50kgを乗せるとか、普通の人間に出来ると思うかね?」
「お姫様だっこのことでしょ。やっぱり人とお米じゃ違うんじゃないの?」
「お姫様だっこって漫画だけじゃなく現実でもよくあるけど、50kgって相当重いぞ」
「ちょっと……女の子の体重に関わる話なのに、相当重いは言葉がキツすぎじゃありませんでしょうか」
「とにかく、自分にはとても出来るとは思えないんだよ。いや、持つだけならできるだろうけど腕めっちゃプルプルすると思う」
「あたしでやってみればいいじゃん。あ、待って、2ヶ月待って」
「2ヶ月でどの位いけんの?」
もちろんダイエットでどの位減らせるのかと健一は聞いている。
「具体的な数字は控えさせて」
「しょうがない、2ヶ月後に期待だな」
「おかしいな~。なんも悪くないのに今日はひどい目にばかり合ってる気がする」
しかし、きっと2ヶ月後には二人共忘れているのだろう。
と、二人して思うのだった。