こだわり
「決めた! あたしメイドになる」
「どうぞ」
さつきの思いつきを健一はどうでも良さそうに流す。
「ちょっと、ちゃんと聞いてよ」
「ちゃんと"聞こえた"からさっき答えになったんだよ」
「まあ、聞いてよ。最近ねメイドっていうのが流行ってるらしいのよ」
その流行は片手か両手で数えるほど昔の話だというのに、さつきは最近だと言う。
「流行に乗り遅れた人を見ると、こっちが悲しくなってくるのはなんでだろうな」
「すみませんー。古いのはわかってますー。雑誌見てたらメイド服が載ってたからちょっと言ってみただけですー」
「そもそも俺メイドってあんま好きじゃないんだよね。」
「あ、そうなの?じゃあメイド止める。でも、なんで?男ってみんなメイド好きじゃないの?」
ナチュラルに健一の好き嫌いに左右されていることに、さつきは気づかない。
「どうだろ。俺の場合はメイドより家政婦って感じなんだよ。若い家政婦20代位の」
「んー? どっちかと言うと家政婦は50代とかでメイドは10代20代って感じがするけど」
さつきと健一のイメージは完全に逆だった。
おそらくさつきの場合は昔のドラマが原因だろう。
健一はなぜそのイメージになったのかは不明だ。
「理由は俺にもわかんねーけど、なんか赤と緑のチェックのエプロン着てさ。ハタキ持って掃除してる」
「ちょっと待ってイメージする・・・本屋さん?」
「違う。……けど近い」
健一も言われると本屋も同じようなイメージになった。
ただし本屋はおじさんが営んでるイメージが強いので上書きはされなかった。
「男ってみんな変なこだわりがあるよね」
「男ってって……女だってこだわりとかあるだろ。」
「そういえばこだわりって言うとさ、料理人ってこだわりがありそうだよね」
自分の話したいように話すさつきに、健一は苦笑したくなったが付き合うことにした。
「たしかに卵料理とか特にこだわりがありそうな感じがする。オムライスとかオムレツとか」
「オムライスかー。なんだか食べたくなってきたなー。どっか食べれる場所ないかな」
「オムライスはなんか洋食より喫茶店だな」
「喫茶店ならメイド喫茶行く?」
「メイドはもういいよ」