料理を振舞ってあげる
「最近ね、料理覚えたんだ」
さつきが今思い出したかのようにそんな話題を出した。
いつも通り健一のベッドの上を占領して。
「へー初耳だ。覚えたってことは、もう作れるってことだろ?」
「うん。人に食べさせてもいいかなって思うまで内緒にしてた」
さつきはあまり秘密にするのが得意じゃないので、普段から一緒に居る健一に気づかれることなく上達していたのが健一を驚かせた。
「じゃあ、今度食べさせて」
「えー。どうしよっかなー?」
立場が上であると気づいたさつきは調子に乗る。
「嫌なら別にいいよ。俺以外に振舞うする相手がいるなら逆に聞きたい位だし」
が、健一は更に上をいった。
前にさつきは友達が居なくなったと言っていたので、まず間違いなく居ないだろう。
「くっ、ぬっ、言われてみれば……。いや、まだおばさんとかおじさんがいる」
「お前がそれで良いって言うならいいんだけど」
「……おかしい。あたしが振舞う側なのに完全に上を取られた」
有利な立場にいながら負けたことが、余計にさつきを悔しがらせた。
「そっちが余計に焦らそうとしなければ、こっちも子供のように素直に喜んでたよ」
健一の上から目線感がすごい。
普段からか?
「まあ、それはあたしの性分だから」
「知ってる」
「だよねー」
「ところで料理って何を覚えたんだ?」
あまり表には出さなかったが、健一はさつきの手料理が気になって仕方がなかった。
「レシピ見れば大体作れるようになったよ。難しいのは流石に無理だけど」
「マジか。ホントに覚えたんだな。ってか随分長いこと隠してたんだな」
店を持っているわけでもないので一日に作れる回数は限られるのため、一日二日で上達するものではなく、時間というよりも長い期間かけて上達したのが察せられる。
「あたし、やれば出来る子」
「すごいすごい。や、ほんとに。ちょっとびっくりしてる」
「でしょ? でしょ? もっと褒めて」
「それなら素直に食べさせて欲しいと懇願させてもらおうかな。どうかお願いします」
さつきは少しあまのじゃくな気質で、健一は対象的に割と素直な性格をしていた。
なので素直にお願いした。
「あい。任されー」
「じゃあ何作ってもらおうかなー? 幼なじみと呼んでもおかしくない女の子から手料理とは、俺も出世したもんだ」
喜ぶ健一にさつきは内心誇らしい気持ちになった。
それに喜んでくれる健一に気分が浮いた。
「煮込み系と魚以外ならなんでもいいよ」
「なんで?」
「魚はくさいから嫌で、煮込み系はなんか……これあたしが作った! って感じがしないから」
「そうなのか。煮込み系っていうとカレーとか肉じゃがとかか」
「あ、そうそう聞いて」
思いっきり話を変えるさつき。
「聞きます」
「得意料理に肉じゃがっていう女は信用できないぞ! ってあたしは思ったのよ」
料理を覚えて思ったことをさつきは言う。
「どうして?」
「煮物ってね、なんかどれもおんなじような作り方だなーって作ってて思ったのさ。材料切って、みりんとか砂糖とか醤油入れて、煮込んで待つだけ」
「つまり、煮物って言う奴は信用していいけど、肉じゃがって言う奴は、肉じゃがしか作れないか自分を演出してる女ってことか」
「それもそうだけど。得意料理って特にないと思うのよね、料理に。作れるか作れないかのどっちかで」
出来るか出来ないかの違いで、得意とかどうかは料理には関係ないのでは?
と、料理を続けてる内にさつきは思うようになった。
「言われてみるとそんな気もする」
「でしょ?」
「でも、和食の料理人が居てフレンチも作れるけどってなったら、やっぱり和食が得意料理になるんじゃね?」
「むぅ……たしかに」
初心者なさつきにはまだ得意とかそういうものがないだけであった。
「だろ?」
「じゃあやっぱ得意はあるのか。あたしの得意料理ってなんだろな」
「おう。それを振舞ってくれよ。期待してるから」
「うーん……TKGかな」
たまごかけご飯。
「おい」
台無しだった。