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ボクシング

「昨日のボクシング面白かったな」


 普段ならさつきが見るような番組ではなかったが、昨日は見ると言っていたので安心して話題に出す健一。


「内容はよくわかんなかったけど、面白かったと思うよ。……多分」


「まあ分からないだろうな、って実は俺も思ってたけどさ。昨日の放送中から」


 突然。見て、と立ち上がりシャドーボクシングを始めるさつき。

 小学生かこいつはと思う健一。


「シュッシュッシュッ! どう? 見えた?」


 今日のさつきはパンツルックだったので、パンツが見えたとか、見えないという意味じゃないんだろうなー。

 とぼんやり思いながら健一は返事をする。


「見るに堪えなかった」


「見るに堪えないって……」


 さつきはちょっと凹んだ。


「気分を害しました。なぐさめないとこの部屋に台風が発生します」


「マジかよ勘弁してくれよ。わかった。じゃあ、ベッドでうつ伏せになって寝てくれ」


 マッサージかな? と言われるままにうつ伏せに寝るさつきは無防備だ。

 そして、背中に座る健一。

 期待は裏切られた。


「うぎっ!?」


「はっはっは。動けなければ台風も怖くない」


「ちょっと! 重い、重い! どいてどいて……ぐえーっ!」


「ぐえーって仮にも女なんだから、もうちょっとなんかあるだろ」


 そう言いつつも健一はちゃんと退いた。


「仮じゃなくて本りですー。ちゃんと女子ですー」


 ホンり? おかしな日本語を使うなこいつ。

 と、思う健一。

 ケロっとした様子で言うさつきを見る限り、やはり先ほどのは大げさな演技だったようだ。


「なるほど40代女子とかそういう類か」


「10代! 10代です! ピチピチの10代ですから」


「……」


「……」


 部屋の中に静寂が走る。


「ピチピチの10代女子……ねぇ……」


 ピチピチという単語に、10代とはとても思えない昭和臭を感じさせる。

 死語という腐敗臭もした。


「そうそうピチピチだから。オケラだってあたしだってみんなみんな生きてるんだから。グエるんだから」


「"ホンり"とか、"グエる"とか。今日は随分な日本語が冴え渡ってるな」


「え? そう? 一本取られちゃった?」


 健一は、別にそういう話でもないだろと思ったが、さつきにとってはそうだったようだ。


「ボクシングは一本って言わないけどな」


「むう、むうううー」


 今度こそ本当に一本取られた気がしてさつきは唸ることしかできなかった。

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