思春期の二人
「思春期に必要なのは羞恥心だと思う」
唐突に語りだす健一に、さつきは「どうでも良さそうな話だな」と、思いつつも相手をしてあげることにした。
「なに?急に」
「スカートめくれてる」
どうやら健一はスカートのめくれを直して欲しかったらしい。
これは遠まわしなのだろうか直接なのだろうかとさつきには判断に迷う。
「見ないでよ変態」
「じゃあ直せよ……の前に俺のベッド占領しないでください」
そもそもはスカートでベッドに横になるからいけないんだ。
と健一は思ったがぐっと堪えた。
「てか、あたしのでもいいんだ?」
子供の頃から一緒なのだから今更そういう間柄でもないだろう。とさつきは思う。
「思春期だからな」
今日の健一は思春期だからで進めるつもりのようだ。
「大変だね思春期」
それにさつきは付き合うことにした。
「中学で思春期終わればいいのに」
「終わったのは友達関係だったね」
二人は中学の時に白プレートランクと診断をされ、それが原因で友人をほぼ全て失っていた。
「感染しないって言っても病原菌扱いされたしな。しかも元友達にも」
「こう言っちゃ悪いけど、あたし一人じゃなくて良かったわ。結局残った友達はあんた一人だし」
病気は感染する類のものでは無かったが不幸は重なるもので、幼なじみである二人が同じ病気にほぼ同時期に発覚したことから、二人の周りの人間は感染しないという言葉を信じることはとてもできなかった。
「高校入った時も白プレートだーって言った瞬間、空気が凍ったぞ。新しく友達作るぞとかそういう空気じゃなかった」
「あたしの方も阿鼻叫喚だったわ。隠そうと思ってもプレート外す訳にもいかないしね」
そして、中学を卒業し高校に入った二人はやはりそこでも敬遠された。
「お前さ、今さっき友達一人って言ったじゃん? 俺はネトゲのフレンドとかネット上に友達いるから。セーフだから」
「なにそれ情けない。認めなよ。あんたも私も友達無くしちゃった同盟なんだって」
「嫌な同盟だな。俺を入れないでくれ」
健一はオンライン上のフレンドでも友人だと認め、さつきはそれを否定する。
「あんたが同盟から外れるとあたしが寂しくて夜泣きするよ?」
「いくら家がとなりだからって夜泣きされてもわからないからいいぞ」
「近所に迷惑かける声量でギャン泣きするから」
「最悪だなこいつ」
実際にはしないのがわかっているので、これは二人の掛け合いだということは二人共がわかっている。
「そういや思春期と受験生って大抵のことが許される気しない?」
「情緒が不安定だから多少の迷惑はしょうがないってこと?」
「そうそう」
「そういう所はあるかもだけど、俺ら受験は終わったじゃん」
「それよりも、余命宣告された人の方が多少周りに迷惑かけても許されるよね」
「最悪だなこいつ」
たしかに多少の迷惑は許されるかも知れないが、迷惑をかけられる周りにはたまったもんじゃない。
「余命宣告された人って自暴自棄になって犯罪とか犯しそうだけど野放しにして平気なのかな」
「余命宣告された上に何もしてないのに犯罪者予備軍かよ」
「つまり、野放しな思春期で、受験生で、余命宣告されたあたし達は何しても許されるみたいなとこない? ちょっと前なら三冠だったのにな」
「恥知らずすぎるだろ。やっぱ思春期に必要なのは羞恥心で正解だったみたいだな」