日常
自分を助けてくれると言った大和。その目に偽りはない。
しかし、唐突すぎてどう反応したらいいか和人には分からなかった。
和人が固まっていると、神社の入口から叫び声が響いた。
「やまとー!どこいったー!」
「!?やべっ!」
大和は思わず近くの石像に隠れようとするがその前に声の主に見つかってしまった。
「あーいた!」
大和はいたずらがばれた子供のような、ばつの悪い顔をしている。
少女は大和めがけて走り寄ってくる。その少女は怒っているようでムッとした表情である。
「やまと!おばさん、探してたよ。早く帰りなさい!」
少女が言うと大和は隠れるのをやめて堂々と少女の前に立ち止まる。
「何でお前に言われなきゃいけないんだよ」
「探してって言われたの!」
「まだ昼だし、俺の勝手だろ」
「そうじゃなくて、習い事あるんでしょ」
「別に今日くらい休んだっていいだろ」
「もうっあたしは知らないからね......あれ、君。」
大和といがみ合っていた少女はようやく和人の姿に気付いた。和人は驚いて目があちこちに揺れている。
「君、和人くんだよね?」
「う、うん」
「やっぱり!」
和人は他のクラスにも自分の親のことが噂されていると思うと、自分の名前がよく知られていることも納得できた。
しかし大和同様、この少女にも和人をばかにする素振りはない。
「あたしは滝川明希っていうの。あたしのママね、和人くんのママと仲良しなの!」
「あ、たきがわさん...!」
和人の母はよく明希の母と電話で話していたのを和人は見ていた。母が気兼ねなく話せる唯一の友人である。
「女手一つで子供を育ててすごいって言ってたよ!」
「あ 、ありがとう。」
ずっと言いたかった礼を言うと明希は喜んだ。「おれの親だって同じこと言ってたぞ」と対抗する大和にも礼をすると嬉しそうな表情をした。
「それで、どうして大和と一緒にいたの?友達だったの?」
「今さっきなったんだ。」
「えーいいなーあたしもなる!」
明希は和人の前に来てしゃがみ、大きな目を爛々と輝かせる。
「和人くん、今日から友達だよ!」
和人は流れに付いていけず困惑している。反射的に頭を縦に振った。
「明希がいるならもう怖がらなくても平気だな!」
「どういう意味よ」
「そりゃあ、おまえより怖いやつなんていな......いたたたたっ!」
明希が手を放すと大和は耳を押さえた。明希の恐ろしさを目の当たりにした和人だった。
「任せて!ひどいこという奴なんてみんな蹴っ飛ばしてあげるわ!」
明希はファイティングポーズをとりエアバトルを繰り広げている。
「おれだってやるぜ!これからは三人一緒だからな!」
大和も負けじと戦隊ヒーローのようなポーズを取っている。口を開いたまま座っている和人を見て大和は手を差し伸ばした。
「いつまで座ってんだよ、ほら」
それは今まで和人が心の中でずっと求め続けたもの。周りを見ても背中を向けるばかりで誰も自分を見てくれない。そんな世界がいつしか当たり前になって、和人は自分を抑えて今日まで生きてきた。
でも本当は助けを心から待ち望んでいた。よくがんばった、もう大丈夫だと労う救いの手を。
和人は今にも泣きそうな顔で手を向ける。大和は一瞬驚いたがすぐにその手を掴んだ。泣き崩れる和人の姿をやさしい表情で二人は見守った。
今、和人の目には明希の姿が映っている。かつての運動少女の面影はなく、伸ばした髪が彼女の大人らしさを際立たせている。
どうしたら三人の関係を取り戻せるか、和人は分かっている。全てを許してやればいい。簡単なことだが最後の一越えが出来ない。
このままでは話にならない。会話の糸口を模索していると、逆側のドアが勢いよく開かれたと同時に聞き慣れた声が教室中に響いた。
「明希っ!」
突然の大和の登場に二人は驚きを隠せないでいる。大和は明希が無事なのを確認して安堵するが直ぐに現在の状況を呑み込み表情が固くなる。
大和が現れたお陰で先程の沈むような空気が若干和らいだ。
大和が何をするために現れたかは目を見れば聞かなくても分かる。意地を捨てて謝りに来た。
大和は二人に近付くと頭を下げた。
「ごめん。俺が悪かった。」
明希が違うと言うのを制するように大和は語りだした。
「最初に俺が馬鹿なことしてなかったらこうにはならなかった。勝手に明希のせいにして、もっと早く謝っとけばこんなにぎくしゃくせずに済んだのに.....ごめん。」
大和が言い終わったが否や明希も口を開いた
「違う、大和が悪いんじゃない。例えその場の勢いだとしても言っちゃいけないことだった。和人は喧嘩を止めようとしただけなのに私は......」
「だから、和人が止めようとした喧嘩を作った原因が俺なんだから俺が悪いんだよ!」
「そうじゃないでしょ!どんな状況でも言ったらいけないことを私は言ったのよ!」
俺私が悪い論争を展開する二人を見て、和人は昔の姿を重ねた。
和人が人知れず誰かにいじめを受けると決まってこの二人は助けられなかった自分が悪いと言い出すのだ。
どう考えても違うのに自分を大切に思ってくれる二人に和人は嬉しくなった。
そしてやはり和人は今でもこの二人が大好きなのだ。
明希の言葉よりも三人がばらばらになる事の方が遥かに傷ついた。
ならやる事は一つ。いつだって二人は和人を守り、和人は二人を支えてきた。それが彼なりの恩返しだから。
「二人とも悪い。」
二人は口を閉じ同時に和人を見る。
「どっちにも非があると思うなら二人とも悪い。いつまで続ける気だよ。」
でも俺が私がと迫ってくる二人に場違いにも和人は心の中で嬉しくなる。
「いい加減にしてくれよ......いつまでもうじうじしてる自分が恥ずかしくなるだろ...!」
和人は拳を握り俯く。二人は顔を合わせると慌てて和人に近寄った。
「ごめん、ごめんな。」
俯いたまま泣いている和人を支え、二人は何度も謝った。
「ごめんね、和人。もう絶対和人を傷つけないよ。」
「...うぐっ......おれたちずっ、と...いっしょ...だよな......」
和人は涙で濡れる顔を手で拭いて震える口を必死で動かす。二人は力強く頭を縦に振る。
窓から差し込む夕陽は三人の影を作り、時計は永遠の時を刻む。普遍なき自然の中で日常は目まぐるしく変化する。
しかし彼らはそれに気づかない。教室を伝う泣き声すら日常の一コマに過ぎないのだろう。
そんな世界に彼らは身を投じ、一喜一憂しながら今日明日と日常を過ごすのだ。
明希が和人になんと言ったかは脳内補完でお願いします。
何故書かないのかというと明希の言葉よりも、和人を守ると言った明希が和人を傷つけたということに意m(ry
次回は事件のその後とかを含めた何かです
良ければ次回も、ありがとうございました!