証言者
「なあ大和、陪審部って知ってるか?」
通学途中、偶然出くわした同級生の西口和人にいきなりそう聞かれた大和は少し驚いた。
「ん?あー七不思議のやつ?」
「そうそうそれ。それにさ、お前と滝川の喧嘩騒動のやつ書き込んであったぞ。」
「は!?」
まさかの一言に開いた口が塞がらず瞬きを繰り返した。
「誰だよ書いたの?」
「三山って書いてあったから先生じゃね?」
先生ぇぇぇぇなんてことしてくれてんだと叫んで大和は頭を抱える。
「陪審部の裁きってどんな感じ!?」
パッと和人を向き、今にも潰れそうな声で聞く。
「さあ、噂ではプールで溺れかけたとか理科の実験で死にかけたとか聞いたことがあるけど......」
「な、ななそんなバカな......」
「怯えるってことは自分が悪いって分かってんだろ?早めに謝っとけよ。ムキになってつい悪口言っちゃっただけなんだから。」
「......でもあいつ...」
「気にすんなよ。いつも仲良いのに喧嘩なんかして、こっちの身にもなれよバーカ。」
「な、」
「いつまでもぐちぐちしやがって、この根性なし!」
「お、おい和人!てめぇ!」
笑いながら坂をかけ上る和人を怒った大和が追いかける。
「早く仲直りして夫婦漫才見してくれよなー!」
「だからちげーっつーの!」
満開の笑顔で手を大きく振って和人は走り去っていった。和人に言いくるめられた感はあるがモヤモヤした心がすっきりと晴れ渡った気分だった。
「......後で礼言わなきゃな。つーか何であいつ走ってったん......あ!やべ!」
坂の向こうからチャイムが聞こえてきたのはそれからすぐであった。
*
「あ、和人。ちょっといいか?」
二限目の合同体育、三組と四組はグループに分かれ、あちこちでシャトルを飛び魚の如く飛ばしていた。ラケットが空を切る音に夢中でひたすら振っている者もいる。
教師が不在なのを見計らって、祐介は和人を体育館脇の水道まで連れていった。
「あー、大和のやつ?」
「そうそれ。」
和人が陪審部について知っていたのでこれは話しを進めやすいと安心した。
「それがどうしたんだ?」
「いや、陪審部の噂は俺も聞いたことがあるから大丈夫かなって。」
「あー、俺も心配だから朝謝れよっていったんだけどな。やっぱ書き込まれたらアウトなのかな。つーか祐介、あんま面識ないのに大和の心配してくれてんのか?いいやつだな。」
太陽の様にニカっと笑って礼を言う和人に非常に申し訳なく思った祐介であった。
「そんなに深刻なのか?トランプタワーがどうとか......」
言ってて恥ずかしくなった祐介は言葉を途中で切った。
「全然!バカとかアホとか言い合っただけだよ。本当に子供だよなーあいつら。」
「あ、やっぱり。」
もしかしたら重大な何かがあるのではないかと期待していたが正に子供の喧嘩であった。
どっと疲れが溜まった祐介ははあ、と息をつき、笑って和人を向いた。
「こんなしょうもない事件なら裁きも大したことないだろうな。」
「...だな!全くだ!」
和人と祐介は暫く笑うと体育館に教師を見つけ、そろりと帰った。
*
「あーあれね。本当に大和って子供よね。いや前から知ってたけど。」
「つまり喧嘩して拗ねてるだけだと。」
ひよりは滝川側の意見を聞くため滝川の友人である笹村美果に話しを聞いている。
「その通り。」
「なんてつまらない事件。」
「え?」
ボソッと溢した本音は届いていないようだ。
「他に気になった事はある?」
「さあ、特に。」
「そう。この程度じゃ裁きにもならないかもしれないわね。」
ありがとうと礼をいい、去ろうとしたらあーでもと美果が呟いた。
「今まであの二人が喧嘩してる姿は何度も見たけどこうも長引くのは初めてだったなぁ。大和も変に意地張ってるから先生も気にしたんじゃない?」
「......そう。」
まぁ別に関係ないかと美果が立ち上がり、授業の準備を始めた。昼休み終了のチャイムが流れている。ひよりも立ち上がると美果を向いた。
「喧嘩なんてやった両方が悪いのよ。拗らせたら簡単には直らない。早く仲直りするように協力してあげて。」
「え、あーうん。分かった。」
ひよりは軽く微笑んでありがとうといい、教室を後にした。
良ければ次回も、ありがとうございました!