喧嘩
ほら見てと言われ作業用机に置いてあるノートパソコンを覗くとそこには何やら怪しいサイトがあった。紫色の背景が不気味な雰囲気を演出し、真ん中には大きく奏栄高校裏サイトと書かれていた。
「これって......」
「文字どおり、奏栄高校の裏サイトだよ。生徒の三分の二、つまり先輩たちはみんな知ってる。これが結構盛んでね、多くの生徒が雑談やら独り言やらで健全に活用してるんだ。部活とかで教えられたりするから一年生にも広がって来てるかな。」
「全然知らなかった......」
「俺もここに来るまで知らなかったよ。」
学校にこんな裏サイトがあるとは知らず、祐介は驚くばかりである。チャット画面を除くと頻繁に利用されていることが分かった。今日は何があった、誰が面白かった、授業がつまらなかった。個々が自由に何でもない一言を連ねている。
「へー、面白そうだな。...あ、本題は?」
「えっと、まずはこれを見て」
「奏栄高校七不思議!?」
幸平が開いたページには奏栄高校七不思議と書いてあり、一際異色を放っている。いかにも呪いますと言わんばかりのフォントが逆にシュールに見える。
「定番っちゃ定番だけどさ、しかもトイレの花子さんとか......」
「トイレの花子さんは実在するわ。」
「え?」
「あれは私が放課後の教室に忘れ物を取りに行ったときだったわ、お腹が痛くなって夜遅かったけど、幽霊を信じない私はトイレに行った。すると謎の...」
「長いよ!」
強引に話を止められひよりは不服そうな顔をしている。
「何で聞いてもないのに急に花子さんの話ししてんのさ!」
「だって私も会話に入りたかった。」
「子供か!」
「あの、話し続けようぜ。」
祐介はあれ、これまともなやつ俺だけなんじゃと先行きが少々不安になってきていた。
「えっと...そう!これだよ!」
「七不思議その四、裁きの番人、陪審部......ってこれ。」
「そう、私たちのこ」
「俺たちの事だよ!」
「......」
「あ、うん......そ、そうだな。」
後ろから目を見開き鬼の様な形相のひよりに睨まれているが幸平は気づいていない。
『裁きの番人、陪審部。彼らは学校で起こる様々な事件を調査し、審議し、真実を見つけ、有罪者に裁きを下す。そしてその姿を見たものはかつていない。』と一番上に書かれておりその下には『ここに学校の事件を書き込むと陪審部が調査するが、ありもしない偽りを書き込めば裁きが下る』と書いてあった。
「実はこれ、元部長さんが作ったんだ。」
「え?」
「こうしてやれば自然と人目につきやすいし、匿名にすれば誰かも分からない。学校側にも許可を取ってるんだよ。治安がよくなるならそれでいいみたい。」
「でも、こんな煽り文じゃ面白半分で書き込むやつも出てくるだろ。」
陪審部の文章をもう一度読んだ祐介は軽くため息をついた。
「それがね、一件目の書き込みがそれだったんだよ。書き込んだ彼はそれを言いふらして回ったんだ。まぁいい宣伝だよね。そしたらその日の帰りにトラックに轢かれそうになったんだって。」
祐介は思ったよりおぞましい話しに息を飲んだ。
「まあ、ただの偶然だったんだけどね。おかげで皆本気にしてるんだって。」
「信憑性あるんだな。」
「いいえ、嘘は書かれなくなったけどそれ以降の書き込みは小学生の喧嘩みたいなものばかりよ。真剣な相談なんて年に一度あるかないか。」
「でも、活動出来てるだけマシだろ。」
それで、と幸平が全員の注目を集め、一拍子置くとコメント欄に画面を変えた。
「今回の事案はこれだよ。」
祐介はコメント欄の一番上を見た。まず、162件目と意外と多いことに驚いた。それから本文を見た
『6/15(水) 12:50 三山より
昨日放課後、一年三組の一国大和と滝川明希が喧嘩をしていました。どちらも一歩も退かず大変困ってます。
どうやら昼休みに一国がトランプタワーを作っていたところ、滝川がぶつかってきて倒されたそうです。
一日経っても険悪な状況ですのでどうか調査の方宜しくお願いします。』
............。
「............しょうもねえええええええええ!」
祐介は常識人でひよりは意外と乙女です。
あ、あと幸平は幽霊嫌いです。
それではまた次回も、ありがとうございました!