ツインテールとAランチ
お題「所与の場面からの展開」
登場人物:
主人公:童貞男。
女:髪型ツインテール。かわいい娘ぶりっ子な声質。
場面:
主人公、座って食事中。女が声をかけてくる。
女「隣、良いですか?」
主人公「え、ああ良いよ」
女「失礼します」
女、席に着く。主人公、女にかまわず食事を続ける。
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ある男が喫茶店の四人掛け席を一人で占領していた。
店内は昼時で混雑しているが、彼には知ったことでない様子だ。
黙々と注文のAランチを食べている。
スクランブルエッグになりかけたオムレツと小さなサラダボール、照りの美味そうなウィンナーが2本、小ぶりなクロワッサンが3つ。この店で人気のメニュー。
足りるわけがないからそこに追加注文でカレーライスをオーダー。
それを、堂々と四人掛けテーブルを占有して、悠々と召し上がっていた。
「お隣、いいですかぁー?」
男が目をあげると、長いツインテールにピンクのシュシュを付けた少女が前かがみにこちらを窺っていた。胸の谷間がチラ見えて、目のやりどころに困ってしまう。
「え、ああ、いいよ。」
動揺して声がひっくり返ったんじゃないか。なにより、他に席は空いてるのに、どうしてここを選ぶんだ、俺は独りがいいのに、と照れ隠しに思考が滑る。
にこにこと上機嫌のツインテール美少女は、少々迂闊で胸元が隙だらけだ。のっぽの男から見て、座った彼女の胸元は良い眺めだった。
「あたしもー、このヒトのランチくださーい。」
遠い店員に声をかけて、正面を向く。男が視線のニアミスを怖れて目を伏せ、ずっと食事を続けていたとアピールした。
……もしかして、俺に気があるのか? 顔がニヤけるのを必死に堪える。
考えてみれば、他に席は幾つも空いているのだ、一人で座るならカウンターが一人分ずつで交互に空いているじゃないか。そっちへ座るべきだろう。
わざわざ人が居て、その前に陣取るってのは、すなわち……。
妄想が広がる。
そこへ。
「おっ待たー。あげぽよー?」
どっかの芸人のフレーズをパクって、軟派な男が登場した。
「あげぽよー!」
残念な美少女が中腰でこの男に同調した。
「しっつれい、しまーっす。」
先人の男もたいがいだが、世の中、上には上が居る。了承も取り付けないまま、チャラ男は美少女の隣へ陣取った。イチャイチャタイム開始。
「ねー、奥様。あのテーブル、あの男、どうすると思います?」
ひそやかに声を落としてささやく声は、奥まったテーブル席の主婦グループ4人だ。常識知らずな男に気付かれぬように、常識知らずなこの男を観察していたが、なにやら面白い展開になった。
「カレーライスがネックですわね……。」
「あらいやだ、残して帰るんじゃありません?」
くすくす、ひそひそ。下種な愉しみにしばし浸っている。
「オバサンたちは怖いねぇ、マスター。」
「しっ、聞こえますよ。」
苦笑と共に、カウンターの老年紳士がつぶやくと、素知らぬ顔のマスターは口元に指を充てて、にこりと笑って受け流した。