芋って呼ぶなよマイハニー
俺が何したって言うんだよ
本当に。
呪われてるとしか思えない。
俺の周りは。
もうストレスで禿げてしまいそうなほど髪の毛は薄くなってしまったし…否、まだある…と個人的には思いたい。
せめて成人式まではまともで居させてくれよマイハニー。
〜転校初日〜
夜行バスの窓から見える景色は、なんていえばいいんだろう。とにかく何にも無くて。さすが田舎!なんて叫びたくなるほど真っ暗で。暗所恐怖症(電気を消して寝れないんだ)の俺としては学校のトイレ掃除並にきつくて。
それだけならまだ良かったかもしれないけど(よくないか)素晴らしい事に隣の美人さんはものすごいイビキをかいていて。
涙が出そうになったよ。出るのを我慢しようとして上を向いたら、…人類の敵がいるし。田舎名物特大ゴキ。涙と一緒に何もかも流れだしそうだったよ。
まぁ俺としては久々に会えるイトコの咲季さんに会えるんだから些細なことだけど。
咲季さんだけどこれがまた美人なんだぜ?まぁ俺が十歳で咲季さんが十四歳のころだからもう二十二歳か。結婚…してんのかな?関係ないことだけど。
俺が一人で思春期特有の妄想でニタニタ笑いをしていると目を覚ましたのか、隣の美人さん、略して美子が軽蔑の眼差しを向けている。
「まて、軽蔑したいのは俺の方だよ美子さん。車掌さんも引いてたんだよ気付いてる?」
なんて言いたかったがやめておこう。美人の(多分)咲季さんの友達だったら大変だ。
そんなことを思いながら窓の外を眺める。やっぱり恐い。原因はアレだな。あぁアレっていっても分からないか。俺の兄貴なんだけどものすごいドSでさ、小さい頃毎日押し入れに閉じ込められてたんだ。俺の暗所恐怖症はそこからだと思いたい。
ふと天井を見上げてたら小さなシミがあった。それを見ているとなんだか気が遠くなったんだ。
気が付けば朝。何かが俺の腹に乗っている。何かと思えば車掌さんの手だった。爆睡していたらしい俺を起こそうとしてくれたらしい。ズボンのチャックが開いているのは多分寝相だ。そして心なしか車掌さんの顔が赤いのはリンゴ病なんだろう。あんな夢を見たのは昨日拾ったエロ本のせいだ。そう思わなければ。
そうしなきゃ俺は親友の桶川みたいになってしまう。うん。まぁそいつは察しの通り正真正銘ゲイだ。桶川の弟の友達とデキてる。
「お客様!もう終点です!ゴミも持ち帰り下さい!」
車掌さんが焦ったようにぼそぼそと言う。
ゴミ?そう思って周りを見渡すともののみごとにゴミ屋敷ならぬ、ゴミバス。アレだ。美子の仕業だ。乗ったときから常に何かを口にしていたのは分かるがゴミくらいは片付けろ。
仕方なくゴミをもって車内から降りる。その時の俺の服装ったらありゃしない。沖縄土産のハブの皮で作った何ていう嘘っぽい三味線を肩にかけて。前の学校の思い出(置いて行こうとしたら目障りだから持っていけだって。皆素直じゃないなぁ)の机と椅子。あれ?いつのまにか背もたれがない。あぁまた美子か。
背もたれのなくなった椅子に表面が禿げかかった机、背中にはハブの三味線、両手にはゴミ袋。さながら浮浪者じゃねーか。みろ、小学生くらいの女の子俺見て号泣してるよ。こっちが泣きたいっつーの!!
でも泣くのはまだ早い。男が泣くのはとき○モで振られたときだけだ。…俺は泣きっぱなしだけど。
とにかく伯母さん家に行かなきゃ。俺のマイハニーが待っている!…あ。因みにハニーは咲季さんだから。ん?思い込み?思い込みで悪かったな。人生は所詮思い込みで成り立ってんだよ。わかったか。
半泣きになりながら離そうとしない車掌さんの手を振りほどいて早歩きで歩きだす。車掌さんの鼻息が荒かったのはアレだ。鼻炎だったんだ。そう思わなくちゃやっていけそうにない。
しばらく歩くと見覚えのある家が見えてくる。小さな民宿を経営していて、名前は…『咲季の城』。どうしてそんな名前が出てきたのか不思議でたまらない。さながらラブホテルのようだ。
いやらしい考えに頭を巡らせながら看板を見上げる。するとそこには天使、否、女神が。
「さっ咲季さん!?」
俺の問い掛けをものの見事にシカト。シカトかよ。んもぅ照れ屋さんなんだから!諦めないぜマイハニー!
「咲季さん!!!!」
さっきより力を込めて叫んでみる。反応なし。何やらニヤニヤと何かを見つめている。何だ?俺をシカトするほど夢中なのか!何となく嫉妬の感情が湧いてくる。
「咲季ィ!」
どさくさに紛れて呼び捨てしてみる。すると咲季さんらしき人影がゆっくりとこっちを向く。やっと気付いたか、このお茶目さんめ。
「聞こえてんだよ禿げ!テメェ誰を呼び捨てしてんだよ!この芋が!」
…芋!?そんなことより誰だアレは。咲季さん?んなわけないだろう!咲季さんはもっと美人で、優しくて、なんかこうおしとやかな人だ。あんなゴリラはきっとアイツだ。
幼き頃の麗しきプリンスだった俺を事あるごとにいじめたアイツ。あるときは一週間家から締め出され、犬小屋に移住させられた。またあるときは金魚の餌を無理矢理入れられて食中毒に。
あの時は本気で殺されると思ったよ。思い出すだけで…アレ?目の前が霞む…。
とにかくアイツだ。伊勢麻美。
俺より三つも年下のくせに俺の女王様きどりの女。
今までと同じく行き当たりばったりです。読者様にニヤニヤして頂ける作品を目指そうと思っていますのでよろしくお願いします