二十
雨が激しく斎場を叩きつける。棺の前に立つ幹也は、十九歳の大学生。遺影の陽菜は文化祭の笑顔で、制服の襟が少し曲がった自然な写真だ。雨音と参列者のすすり泣きが混じり、部屋に湿った花の匂いが満ちる。花の甘酸っぱい香りが、胸を締め付ける。
明が純也の肩に手を置く。声が少し震え、目を赤くする。
「……泣くなよ、純也。陽菜の分まで強く」
純也が涙を拭き、返す。
「うるせぇ……てめぇこそ目赤いじゃねぇか」
真奈がハンカチを握りしめ、つぶやく。
「陽菜……本当にいなくなっちゃった……バカ、約束したのに……」
俺は棺に触れ、冷たい木の感触が指に伝わる。
「陽菜……ごめん……守れなくて。もっと一緒にいたかった」
声にならない言葉が、喉を詰まらせる。
葬式の後、桜が散る河川敷へ、みんなは足を運んだ。風が花びらを舞わせ、水面がきらめく。空気は湿り気を帯び、土の匂いが鼻をくすぐる。俺がギターを弾き、追悼曲を歌う。歌詞に「君は一等星……遠くで輝いて」というフレーズが入り、声が震えて途切れる。花びらの柔らかい感触が頰に触れる。
みんなが静かに聞き、涙を堪える。封筒を開封し、手紙を読む。紙のざらつきが指に伝わる。
自分宛の手紙を、読み上げる。声が震える。
「雪のキスの温もり、一生の宝物。治療で辛かったけど、君がいてくれたから受容できた。私の分まで歌って。愛してる、ずっと」
続けて、真奈が自分の手紙を開き、声を詰まらせながら読み上げる。
「真奈ちゃん、いつも明るくしてくれてありがとう。私の強がりを真っ先に気づいてくれたよね。みんなを輝かせるのが上手な君だから、これからも笑顔を振りまいて。みんなを元気にね。私の分まで、輝いて」
真奈の目から涙が溢れ、声が震える。彼女はハンカチで目を拭い、陽菜の言葉が自分の人生を変えたことを実感し、美容師としてみんなを輝かせる決意を新たにする。
純也が次に手紙を広げ、荒っぽく読み始めるが、途中で声が途切れる。
「純也くん、見た目とは裏腹に、優しいよね。私の笑顔を守ってくれたこと、忘れないよ。弱い人を守るのが君の強さ。変わろうとしてくれてありがとう。みんなを守って、強く生きて」
純也の拳が震え、悔しさと感謝が混じり、整備士として安全を守る道を歩む誓いを心に刻む。過去のグレた自分を乗り越え、陽菜の光が変化のきっかけだったことを認める。
明が冷静を保ちきれずに手紙を読み上げる。声に微かな震えが混じる。
「明くん、クールなのにみんなを思う気持ちが強いよね。おかげで人を守れるようになったよ。私の光を胸に、クールに生きて。でも、時々笑ってね。ありがとう」
明の目が赤くなり、弁護士として人を守る決意を強め、陽菜の影響でクールな仮面の下に温かさを加える。グループの絆が、陽菜の言葉で永遠のものになることを実感する。
グループが輪になって抱き合い、泣く。肩の温もりと、涙の塩辛さが混じる。
桜の花びらが、陽菜の髪のように舞う。甘い花の香りが、鼻をくすぐる。
真奈が言う。
「陽菜の強がり、忘れないよ……いつも笑ってたよね」
純也が悔しがる。
「守れなくて……悔しいぜ」
明が静かに涙を流しながら呟く。
「……陽菜の光、俺たちの中で生き続ける」
闘病の回想が、鮮やかに蘇る。腹水穿刺の針が刺さる痛みで、陽菜が小さく叫ぶ。針の冷たい金属感と、穿刺後の血の臭いが部屋に広がる。鉄のような生臭さが、鼻を刺す。
痛み止めで意識が朦朧とし、陽菜が弱く手を求める。
「幹也くん……ここにいて、手を握って」
握り返す力が、次第に弱まる。彼女の手の冷たさが、俺の掌に染み込む。陽菜の指がわずかに動き、愛おしむように絡む瞬間、心臓が激しく鼓動し、彼女への愛が胸を熱くする。あの温もりが、永遠に失われる恐怖が、喉を締め付ける。
出血でシーツが赤く染まり、陽菜が恥ずかしそうに謝る。
「ごめん……汚れちゃった」
口に広がる鉄の味と、羞恥心が混じり、彼女の頰が赤らむ。俺は彼女を抱きしめ、耳元で「愛してるよ、陽菜。どんな姿でも、君は美しい」と囁く。言葉が震え、涙が彼女の肩に落ちる。
脱毛で鏡を避ける陽菜の孤独な姿。落ちた髪を拾う指の震えと、涙の塩辛さが頰を伝う。部屋の空気が重く、息苦しい。彼女の頭に優しく触れ、「君の声が、君の笑顔が、俺のすべてだ。愛してるから、どんな変化も受け止める」と言い、彼女の目を見つめる。彼女の瞳に映る自分の姿が、愛の深さを教えてくれる。
末期に息切れで歌えなくなり、陽菜が頼む。
「幹也くん、代わりに私の分も歌って……」
声が掠れて途切れる。息の荒さが、部屋に響く。
「もう少し頑張れるよ」と繰り返した陽菜の言葉が、半年の苦しみを象徴する。診断の冬から春の死まで、感情のジェットコースター。ショック、否定、怒り、絶望、そして受容。彼女の目から溢れる涙の温かさが、記憶に焼きつく。毎晩、彼女の傍で過ごした時間、彼女の痛みを分かち合えなかった無力感が、愛をより強くする。
回想のフラッシュバックが、鮮やかに続く。初めての抱擁の温もり、陽菜の肌の柔らかさと心臓の鼓動が胸に伝わる。あの瞬間、陽菜の体温が全身に広がり、愛が溢れ出す。カフェのコーヒーの苦い香りと、陽菜の笑い声。ミルクの泡が唇に付き、可愛い姿が目に焼きつく。彼女の笑顔を見るだけで、心が満ちる。
デュエットのハーモニー、二人の声の重なりが体に振動し、ステージの熱気と汗の匂い。文化祭の拍手、観客の興奮と陽菜の満足げな目。汗の塩辛さが、唇に残る。ステージで彼女を見つめ、愛が歌に乗る瞬間、永遠を誓う。
雪のキスの冷たさと甘さ、唇の柔らかい感触と雪の粒子が頰に溶ける。最後の病室の弱い「愛してる」すべてが陽菜の輝きとして、胸を刺す。言葉の振動が、耳に残る。あのキスの後、陽菜の目が輝き、心を溶かす。彼女への愛が、痛みさえも美しく変える。
「君の痛みに、もっと早く気づけなかった。君の笑顔がみんなを変えたのに、俺は最後まで完全に守れなかった。この世界、君がいないと色褪せて見える。君は俺の一等星。夜空を見上げるたび、君の声が聞こえる。でも、もうその手を握れない。それが、こんなに恋しくて、苦しい……陽菜、愛してる。君の存在が俺の人生を変えた。君がいなければ、俺は今も壁の中に閉じこもっていた。君の強がり、君の歌声、君のすべてが、俺の心を満たす。失って初めてわかる、この愛の深さ。ごめん、もっと言えなかった。愛してるよ、陽菜。ずっと、ずっと」
声が喉を震わせ、涙の熱さが頰を伝う。愛の言葉が、胸をえぐるように疼く。
一人残り、風に陽菜の歌声が幻聴のように聞こえる。透き通る声が耳を震わせる。
一等星が輝く夜空を見上げ、涙を流す。
「陽菜……恋しいよ。ずっと、恋しい……」
独白が、心に響く。
「あの雪のデートで、陽菜が『もう一度キスして』と懇願した目……満足げに微笑んで、雪に溶けるように去った姿。あの瞬間、陽菜はもう旅立っていたのかもしれない……でも、あのキスに込めた愛が、俺の魂を繋ぎ止める」
一等星が輝き、星の光が部屋を優しく包む。風が桜の花びらを運び、涙に混じって頰を伝う。陽菜の光が、遠くから微笑むように感じられ、心に温かな余韻を残す。ゆっくりと、夜の静けさが訪れる。




