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十四

 文化祭の本番。ステージのライトが眩しくて、俺のギターの弦が震える感触が指先に染み渡る。


 陽菜の声が、透き通るように会場を満たす。


 あの歌詞、「一等星の光」


 思春期の闇を優しく照らす言葉が、甘酸っぱい秋の空気に溶けていく。


「みんな、聞いてくれてありがとう!! この歌が、君たちの心に届くといいな!!」


 陽菜の明るい声が響くと、拍手が爆発的に鳴り響く。手のひらの熱気が汗ばむ肌に伝わり、陽菜の頰が淡いピンクに染まる。


 でも、彼女の下腹部をさりげなく押さえる仕草が、俺の胸をざわつかせる。息遣いが少し乱れている。


「陽菜、大丈夫か? 声、ちょっと震えてたぞ」


 俺が小声で尋ねると、陽菜は微笑んで「ううん、興奮してるだけだよ。みんなの拍手が、こんなに嬉しいなんて……」と返す。


 幕が下りる瞬間、陽菜の目が遠くを向く。


 あの影は、何を映しているのだろう。






 あの部屋の窓ガラス、冷たくて指先が震えた。


 中学の頃、引きこもりの日々。


 外の喧騒が遠い雷鳴みたいで、部屋の空気は埃と孤独の匂いで重かった。


 受験のプレッシャーが喉を締め、涙の塩辛さが唇に残る。


「このままじゃいけないけど……」


 と呟きながら、一人で歌を口ずさんだ。


「お母さん、心配かけちゃってごめんね。でも、外に出るのが怖いんだ……」


 家族の足音がドアの向こうで止まり、心臓の鼓動が耳に響く。あの暗闇から、今ここに立つ。


 ステージの拍手が、過去の静寂を砕くように体を震わせ、心に温かな風が吹き込む。


「見て、陽菜。外の世界で輝けてるよ」


 自分に語りかける声が、内側で響く。


「やっと、ここまで来られた…みんなのおかげだよ」






 ステージ直前、音響のトラブル。


 スピーカーからノイズが耳を刺し、金属の冷たい感触が明くんの手に伝わる。


 彼は冷静に「みんな、落ち着け! 予備のマイクとスピーカーを準備しろ」と声を張る。


 あのクールな声が、空気を切り裂く。


「明くん、ありがとう! こんな時でも冷静で、ほんとに頼りになるよ」


 陽菜の肩に触れた手の温もりが、緊張を溶かす。


「陽菜、緊張してるのか? 大丈夫、君の歌はみんなを繋げるよ」


 彼の言葉が、柔らかな風のように耳に届く。


 陽菜は微笑み、「ありがとう、明くん……会長として頼りになるね。君の声が聞こえるだけで、心強くなるよ」と返す。


 頬が熱くなり、脈拍を感じる。


 トラブルが解決し、「君の声、楽しみだよ」という褒め言葉が甘い余韻を残す。


「楽しみだなんて、プレッシャーかかるよ。でも、がんばるね! みんなを繋げられるように……」


 陽菜が軽く笑う。


 興奮の気配が鼻をくすぐる。


 純也が機材運びで助っ人にいる。彼の考えだろう。金属の冷たい感触が手に伝わる。


 彼の「意外と役立つな」というからかいが耳に届き、「うるせぇ、こんなとこに連れてきやがって!」という返しが空気を振るわせる。


 真奈の「ヤンキーだけど、いい所あるじゃん。純也くん、意外と頼りになるね! もっと手伝ってよ、次も!」と軽やか。


 トラブル解決の鍵となり、ステージが無事始まる。


「これでいいかよ、会長?」


 純也が吐き捨てるように言うと、


「まあ、今回のでこの前の処分としようか」


 と彼が返す。






 陽菜の声が少し震えている。


 疲れてるんだな。でも、このステージで彼女の想いが届けば、みんなが変わる。


 俺は裏方で支えるだけだ。


 生徒会会長として、トラブルを解決するのが仕事。でも、陽菜の笑顔を見ると、クールな仮面が少し崩れそうだ。それほどまでに眩しい。


「陽菜、俺の言葉で少しでも力になれたらいいな」


 陽菜のおかげで、俺も少し変われたのかもしれない。


「純也のやつ、意外と役に立つな……」


 ライトが熱く肌を焦がす中、心の中で呟く。






 幼少期の河川敷、草の青い匂いが鼻を満たし、星の光が目に射す。


「一等星みたいに輝きたい」


 無邪気な願いが風に運ばれる。


「お父さん、星きれいだね! 私もあんな風になりたいな」


 中学時代、学校を休みがちになって、ベッドのシーツの柔らかさが体を沈め、「将来がたったこの紙数枚で決まるなんて……怖い」と涙の熱さが頬を伝う。


 文化祭の準備中、皆の励ましが過去の孤独を癒すかのように感じる。「皆みたいな優しい人がいてくれてよかった」と心の声が胸の奥で温かく響く。


「あの頃の私、よく耐えたよね……今はみんながいる」






 純也が機材を運ぶ姿を見て、ふとあの時の記憶が蘇る。ステージ本番に向かう廊下、空気が冷え、肌に鳥肌が立つ。年上の大学生の息が荒く怖い、腕を掴む指の力が痛い。


「可愛い子だね。ステージで歌うんだよね?楽しみだなぁ。あと連絡先教えてよ」


 声が耳に粘つく。


 顔が青白くなり、「いえ、結構です……放してください」と震える声で拒否する。


 突然、純也さんが目の前に立っていた。眼光が鋭く、威圧感が空気を重くする。


「てめぇ、誰の通路塞いでんだ?あ!?」


 声が雷のように響き、男の足音が慌てて遠ざかる。


 心臓が激しく鼓動し、「……ありがとうございます。」と後ずさりしながら言った。


「純也さん、助けてくれて本当ありがとう。でも、心臓止まるかと思ったよ」


 純也さんの照れ隠しの言葉が、煙草の残り香と共に届いた。


「別に……助けたつもりはねぇ。俺の通路の邪魔すんなってだけだ。」


「そ、そう?……でも、ありがとう」。


 音楽室で幹也くんを殴った人だよね。


 助けてくれたのはありがたいけど、


 威圧的で……怖い。


 心の声が冷たい風のように体を震わせる。


 すぐにその場を離れ、背後の空気が重く残る。


 ステージに向かう足取りが少し重くなるが、心の中で「今は歌に集中しなきゃ」と自分を鼓舞する。


「純也くんみたいな人も、いるんだね……複雑だけど」


 後で真奈に報告すると、真奈の声が高く弾む。


「純也くん、助けてくれたんだ! なんか私のヤンチャ兄貴みたいでしょ? 口悪いし喧嘩っぱやいけど、妹を守る時は本気出すタイプ。きっと純也くんも、幹也くんのことまだ気にしてるんじゃない? 不器用で素直になれないだけだよ」


 目が潤み、温かな友情の気持ちが漂う。


「……でもこの前、幹也くんを殴った人だよ? 怖いし、許せないよ」


 という言葉に、真奈は共感し、


「わかるよ、最初は怖いよね。でも兄を見てきて思うの。ヤンチャな人って、傷つけた分だけ後悔してるんだよ。純也くんもきっと、仲直りしたいのにどうしていいかわからないだけかも。少しずつ見守ってみようよ? ね、陽菜!」


「真奈ちゃんの言う通りかも……」






 主人公との出会い前、自室で窓から近くの高校の文化祭の花火の音が遠く響き、煙の匂いがかすかに届く。


「私もあそこにいたい」


 切ない思いが胸を突く。


「外の世界、怖いけど……行きたいよ」


 純也の救助が、過去の無力感を払拭する瞬間となり、「純也くんみたいな強さが、私の支えになる」と感じるが、この前の出来事で気持ちが複雑。


 拳の痛みの記憶が指先によみがえる。


「あの時、忘れられない……でも、今日は違う」






 廊下の端から一部始終を見ていた。


 純也のヤツ、また派手に介入したな。


 威圧感は相変わらずだが、陽菜を守ったのは本気だ。


 生徒会会長として、乱暴なやり方は認められない。でも、結果として正しかった。


 あいつは俺とは正反対だが、幹也を思う気持ちは一緒だ。


「相田。お前、意外と良い奴だな。でも、次はもっとスマートに頼むよ」


 緊張が解け、純也に近づく。「だが、派手な真似はほどほどにしろ。次は停学だぞ」と釘を刺すが、口元に笑みが浮かぶ。


「うるせぇよ会長。ただ俺の通路の邪魔だったからだ」


 という言葉が煙のように消えた。


「まぁ、今回は見逃してやる。幹也のためだろ?」


 と肩を叩いた。


「お前も、幹也のこと大事に思ってるんだな。相変わらず不器用だな、お前」






 ステージを遠くから見ていた。


 幹也のヤツ、堂々と立っていやがる。


 昔の俺たちみたいに、音楽でみんなをつなげて。


 あいつは前に進んでいるのに、俺はこのままでいいのか?


 中学の誤解を引きずって、ただ強がってるだけじゃねぇか。


「ちくしょう、幹也……お前だけ前に進みやがって」


 あの子はただの幹也の彼女で、俺とは関係ねぇはずなのに……あの笑顔を見てると、胸がざわつく。


 熱気が肌にまとわり、汗の塩辛さが唇に残る。


 拳を握り、苛立ちと羨望が入り混じった表情でその場を去った。


「俺も……変わらなきゃダメかよ。なんだよこの気持ちは……」


 情けなさや、いつまでも子供な俺自身に怒りがあふれる。






 陽菜が疲労で休憩し、下腹部の痛みが針のように刺す。


 真奈の「陽菜、マジで休みなよ! 顔色悪いし、病院行こうよ? 無理しちゃダメだよ!」という声が優しく、頭を撫でる温もりが心地よい。


 主人公に耳打ちし、「陽菜のこと見ててあげて。なんか、最近おかしいんだよね……」陽菜の「興奮しすぎたかな」というごまかしに、手の震えが露わになる。


「みんな、心配かけちゃってごめんね。でも、大丈夫だよ! 少し休めば平気だから…」


 汗の匂いが病気の影を予感させる。






 拍手が鳴り響く。

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