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「あの人が陽菜の好きなギターの人?」



 甲高い声が、突然割り込んできた。

 金髪を肩にかけた少女が、耳のピアスを小さく揺らしながら近づいてくる。

 派手なネイルが照明をチカチカ反射し、手には半分残ったサンドイッチが握られていた。

 パンの耳が少し乾いた匂いが、ふわりと漂ってきた。


 陽菜が満面の笑みを咲かせる。



「真奈ちゃん!」



「陽菜どうしたの?デート中に呼ぶなんて」



 彼女は躊躇なく空いた椅子を引き、どっかりと座った。

 サンドイッチをテーブルに置き、無邪気に手を振る。

 ネイルがまた光を弾いた。

 陽菜が俺を見て、紹介した。



「あ、紹介するね。鈴木 真奈ちゃん、私の同級生で、すっごく仲良しなの。真奈ちゃん、こっちが佐藤 幹也くん。一つ上の先輩」



 彼女がにやりと笑って、俺を上から下まで眺めた。

 高めの声で、からかうように。



「へー、幹也くんね。よろしくー。なんか冴えない感じだけど、かっこいいじゃん。ギター弾けるんだって? 陽菜から話聞いてたよ」



 タメ口だった。

 ギャルっぽい見た目そのままに、敬語なんて使わない。

 俺は少し面食らいながら、軽く頭を下げた。



「……はじめまして、真奈さん」



 陽菜がくすくす笑う。

 彼女は悪戯っぽく舌を出し、陽菜の頭を軽く撫でた。

 手のひらが髪を梳く感触が、頰を少し赤らめた。



「……陽菜、最近疲れやすいよね。大丈夫?」



 彼女の声が急に低くなった。

 目が潤んでいる。

 近くから、ミントガムの爽やかな香りが漂ってきた。

 陽菜は慌てて笑顔を作った。



「大丈夫だよ。ちょっと走ってきただけ」



 でも、陽菜の息がまだ少し上がっているのが、俺にもわかった。

 それはさておきと話題を変える彼女。



「ねえ、幹也くん。陽菜と私、いつから友達だと思う?」



 俺は首を傾げた。

 陽菜が、恥ずかしそうに口を開く。



「高校に入ったとき、真奈ちゃん、見た目が派手でみんな距離置いてたの。でも私はそんなの気にしなくて。ネイルが可愛くて、『一緒にランチしない?』って声をかけた」



 陽菜が笑った。

 少し照れくさそうに、彼女は大げさにため息をつく。



「そうそう。あのとき、陽菜がいなかったら、私、友達できなくて泣いてたよ。陽菜のおかげで、学校が楽しくなったんだよね」



 彼女はもう一度、陽菜の頭を撫でた。

 陽菜が



「恥ずかしいよ!もう真奈ちゃんったら!」



 と小さく抗議する声が、テラスに軽く響いた。

 三人の会話は、軽やかに続いた。

 コーヒーが冷めていくのも忘れて。

 でも、その穏やかさは長くは続かなかった。



「よぉ、幹也。久しぶりだな」



 低い声が背後から響いた。

 俺の背筋が凍った。

 振り返ると、そこに純也が立っていた。

 昔と変わらない鋭い目つき。


 だが、その奥に、一瞬、何かが揺れたように見えた。



「……なんでここに居るんだ。また殴るというならここじゃなく表に出て話を聞いてやるよ」



 声が震えた。

 純也の顔が、わずかに歪む。



「何だよ、まだ根に持ってんのか」



 純也の瞳が、罪悪げに揺れたように見えた。

 でも、すぐに強がる表情に戻る。

 俺にはわからない。

 ただ、胸の奥がざわつく。


 彼女が立ち上がった。



「ちょっと、ケンカすんなよー!」



 指をポキポキ鳴らしながら、二人の間に割って入る。

 関節の音が小さく響き、悪戯っぽい笑顔だったが、目は本気だった。



「ここ、公衆の場だよ? やめなって」



 純也は一瞬、陽菜を見た。

 彼女の青白い顔を。

 そして、何かを感じ取ったのか踵を返した。

 去り際に、誰も聞こえない小さな声で、何か呟いたように見えた。


 俺は椅子に座り直した。

 心臓がまだ激しく鳴っている。

 どうせ失うのなら、上辺だけでいい。

 そんな思いが頭をよぎる。



「大丈夫?」



 陽菜の手が、テーブルの下でそっと俺の手を握った。

 温かかった。

 柔らかかった。

 指先の感触が、俺の冷えた手に染み込んでくる。


 カフェの窓から差し込む光が、陽菜の顔を照らしていた。

 頰の青白さが、少し和らいでいるように見えた。

 俺たちは店を出た。

 空はすでに夜に移り変わりかけていて、街灯が点き始めている。


 並んで歩く足音が、静かに響く。

 過去は重い。

 でも、陽菜は俺の“一等星”だ。

 暗い夜でも、ちゃんと輝いて、俺を前に進ませてくれる。


 その手の温もりが、確かに伝わっていた。

 まるで、この光が、俺の闇を永久に照らし続けるみたいだ。








 練習の合間に、純也が突然現れたことがあった。

 生徒会室でばったり出会い、気まずい空気が流れる。



「幹也、久しぶり。この前は悪かったよ。」



 俺は驚いたが、陽菜の影響で少し心を開いた。

 短い会話で、少し和解の兆しが見えそうにもなる。

 純也それだけを言い、去っていった。

 その後、陽菜とのデュエット練習を再開。


 彼女の歌声が、俺の心を照らす。

 まるで、過去の影が少しずつ溶けていくみたいだ。

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