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殺し屋の娘ミーナは、催眠アプリの力でイケメン王子の『婚約者』になりすまし、彼を搾取しつくします。  作者: フーラー


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1-2 理事は後に語る。「あんな弟に、王子の居場所を伝えるわけがないでしょう」と。

(フフ、今日からいよいよ作戦を決行ね……)


私は、王子を自分と同じの学校に通わせている。

周りには王子のことを『遠縁の親戚』として伝えていた。


(催眠アプリのおかげで、転入の手続きもスムーズにいってよかったな……)


私の通う学校は、元はアンドラス王子の乳母が理事をやっていることもあり、王子のことをよく知っている身だ。


無論先日の誘拐事件についても当然伝わっていたのだが、催眠アプリを使って『彼は私の親戚ランドであり、王子ではない』と、理事に暗示をかけてやった。


すると彼女はあっさりそれを受入れ、王子は滞りなく私の同級生として過ごすことができるようになったのだ。



「あ、ランドさんだ! おはようございます!」


街を歩いていると、子どもたちはニコニコと楽しそうに王子に声をかけてきた。

……因みにランドとは、私が王子に与えた偽名だ。

流石に『アンドラス』の名前を使うと彼が王子だとバレてしまうためだ。


(フフ、王子にこんな勝手なあだ名を付けるなんて、流石悪女の私ね……)


そう思いながらも、王子が美しい笑顔を見せながら子どもに挨拶を返すのを私は見つめていた。


「やあ、おはよう。みんな」

「ランド兄ちゃん、後で一緒にボールなげしよ?」

「ああ、今度は負けないぞ!」


放課後や休日、王子は街の子どもたちとよく遊んでいる。

元々顔だちがいいことに加えて、その気立ての良さもあいまって、街の子どもたちからはすっかり人気になった。



「おはよう、ランドお兄ちゃん! ついでに『親戚の』ミーナお姉ちゃんも!」

「ついでとは失礼だな、あんたは!」


……まあ、当然こういう少女が来ることも多い。

わざわざ『親戚』と強調するところが、憎たらしい。


「あはは、お姉ちゃん、怖~い! そんなんじゃ、ランドお兄ちゃんに嫌われちゃうよ?」

「うっさいな、あんたには関係ないでしょ!」

「関係なくないもん! ね、ランドお兄ちゃん? お兄ちゃんはさ、将来あたしと結婚するんだもんね?」

「え? ……いや、それは……」



彼女のように、王子に対して軽口のふりをしてアプローチをかける少女は後を絶たない。気弱な王子が断り切れないのをいいことにそうほざく小娘に対して、私は少しいらだつように答える。



「ほら、バカ言ってないで、家の手伝いでもしてなって!」

「はいはい……。それじゃあね、お兄ちゃん!」



まったく、油断も隙も無い。

……だが、生憎だ。


私には催眠アプリがある。もし王子が私なんかより綺麗な女に目移りするとしても、腕づくで私のもとに引き戻してやれるんだ。


(けど、あの子可愛かったな……万一ってこともあるか)


そう思いながらも、私は先ほどの少女に少し危機感を感じたので、念のために催眠アプリを取り出し、命令した。



『ランド。今日は私と一緒に帰りましょう。素敵なカフェがあるから、婚約者の私と一緒に寄りましょう』

「ああ、勿論だ。楽しみにしてるよ、ミーナ」



……よし、これで問題ない。

そう思いながらも、私達は学校に到着した。





ーーーーーーーー


(さて、早速始めないと……)



私の通う学園では、いじめが横行している。

下足箱の中にゴミが入っていることや、靴を隠したりすることはいつものことだ。



(……よし、まだ誰も学校には来ていないな……)



だが、それも今日までだ。

アンドラス王子を利用してやれば、こんな地獄のような世界を変えることが出来るはずだ。

私は早速王子に命令した。



『ランド。ここで掃除をしてください。そして、来る人全員に挨拶をしてください』

「ああ……」



私は今日、朝一で登校した。

……この時間なら、下駄箱にゴミを入れられるものなどいないからだ。

そして王子にほうきを持たせ、玄関前の掃除を始めさせてやった。



(フフ……。王子を召使のようにこき使うなんて、私は悪女だな、本当に……)



しばらくして、クラスメイトの一人『マリア』が登校してきた。



(あいつか……)


そう思いながらも、私は彼女が持っている布袋をじっと見つめた。

恐らくあの中には生ごみがはいっているのだろう。



「あれ、ランド……様?」


だが、彼女が下足箱に来るなり王子に爽やかな笑顔を向けられ、驚いたような表情を見せた。


「やあ、おはよう。マリアさん。早いんだな」

「あ、その……」

「今日は日直ではなかったはずだが。……何か用でもあったのかな?」

「い、いえ……その……」


マリア……いじめ加害者が持つにはあまりに似つかわしくない名前だ。

そう思いながらも、私はその様子を影から見つめた。


彼女が首謀者から命令されて、生ごみを家から持参してきたことは分かっている。

それを放り込み、そしてターゲットの床履きを盗み出すつもりだったことも、もうアンドラス王子は感づいているのが分かった。



(ぶっ飛ばしたいところだけど……王子なら、きっとあの子を改心させられる……)


……私の母は元殺し屋だったが、母のことを私は心底軽蔑していた。


特に嫌いだったのは、あの女は自分の殺人行為を「悪い奴に命令され」「仕方なく」仕事をしていたと、毎日めそめそ泣きながら正当化していたこと。そして父は彼女を『可哀そうな被害者』と慰めていたことだ。


(可哀そうなのは、あんたじゃない。殺された側とその遺族に決まってる……)


実際に、母は本当は『殺しの場』では嬉々として人殺しをしていたとも聞いた。そんな女に法的裁きを受けさせず、家に匿い私を産ませた『優しい父』は、ただ甘いだけの男だ。



(私は、あんな両親みたいにはならない……)


いじめ加害者も、母と同じ自己認識に決まってる。

どうせ自分のことを『命令されてやった、または周りの圧力でやった、可哀そうな人』と思っているはずだ。


……正直ふざけるなと言いたいが、少なくともそういう『可哀そうな被害者様』を力でねじ伏せても、改心するどころか被害者意識を強めるだけなのは、組織を追われた母を見て知っている。


「重そうな荷物だな、マリアさん。それはなんだい?」


幸いアンドラス王子はにこやかな笑みを崩さずにマリアの持つ布袋に手を伸ばした。


「え? あ、いえ別に何でもないです……」

「そうだ。私が良かったら教室まで運ぼう。貸してくれるか?」



王子は女性に優しく男性にも親しみを持たれる人だ。


彼の人徳ならきっと、転入して数週間もすればクラス1の人気者になる。……そんな私の読みは的中し、王子はすぐに周囲と打ち解け、友人に囲まれる中心人物まで成り上がっていた。


そんな彼に対して『私はこれからクラスのターゲットに嫌がらせをしようとしていた』なんてバレるわけには行かないのだろう、彼女は必死でその袋を隠した。



「やめてください! その……気にしないでください!」

「そうか……。ところで、マリアさん」

「な、なんですか?」



自分の魂胆が感づかれたと思ったのだろう、ビクリと体を震わせる。

だが王子は、彼女がやろうとしたことを責めようとせずに、にこやかな笑みで尋ねた。



「この間、実習の時にミーナが分からないことを教えてくれていただろう?」

「え? ……あ、まあ……」

「そのことをミーナが喜んでいたよ。あなたはとても優しい人なんだって」

「…………」


それ自体は事実だ。

マリアは、いじめの『ターゲット』以外には決して悪いことはしてこない。要するにいじめられるのが怖くて、加害者側に回っていたタイプなのだから。


王子はその美しい笑顔を崩さずに続ける。


「私も、マリアさんと授業を受けるのは楽しいからな。だから、転入して良かったと思ってるよ」

「そ、そうなんですか……?」

「勿論だ。もし、マリアさんが誰かに嫌なことをやらされそうなときは呼んでくれ。私が力になるから」

「……ランド君……」

「そうだ、週末友達とサーカスを見る予定だが、マリアさんもどうかな?」

「いいんですか?」

「ああ、みんなマリアさんが来ると喜ぶと思うからね」

「……はい……」



そういわれたマリアは少し恥ずかしそうな顔をしながらも、教室……に行くと見せかけて、学校の隅にあるゴミ捨て場に走り出していった。


その様子を見た後、私は物陰から顔を出した。




「流石ですね、ランド。あの子ももう、酷いことはしないでしょう」

「いや……。正直、彼女を問い詰める勇気がなかっただけだよ、私は……」



アンドラス王子は気弱なところがあるから、それは確かに半分事実だろう。

だが、もう半分はマリアの善性を信じようとしたからなのは、重々承知だ。


(……まったく、おめでたい王子ね……)


そんなだから、私のような悪い女に誘拐されるのだ。

庶民の通うような学校に行かされて、私の代わりにいじめ加害者にくぎを刺すという重労働を負わされるハメになる。


……だが、私は殺し屋の娘だ。そんな性悪女は、王子の扱いに心を痛めたりなどしない。

そう思いながらも私は、催眠アプリを取り出して命令をした。



『もっと自信を持ってください。あなたのその優しさは、婚約者である私の誇りです』

「あ、ああ……」



……私は自分の夢の第一歩として、まずはこの学校を変えてやる。そのために、この哀れなアンドラス王子をたっぷりと利用しつくしてやる。


そう思いながら、私はニヤニヤと笑いながら王子に引き続き下足箱に張りこむように頼んだ。

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