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殺し屋の娘ミーナは、催眠アプリの力でイケメン王子の『婚約者』になりすまし、彼を搾取しつくします。  作者: フーラー


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プロローグ2 名もなき兵士は後に語る。「あんな酷い傷の王子を連れ戻すわけないですよ」と。

「どうしました? 兵士さんたち」


私はスマホを手に取りながら、何も知らない少女のふりをして馬車の外から顔を出した。


「あ! ……えっと……」

「……その……」


兵士たちはそういいながら、少しうろたえるような表情を見せた。


土砂降りの中でローブを羽織っていることもあり、彼らは私の顔が分からないようだ。

……まあ、アンドラス王子の王城の規模を考えると、たまにしか城に出入りしない私の顔を知らないのも当然ではあるのだが。


「実は、昨夜アンドラス王子が我が王城から脱走しまして……」

「それで、我々が彼の行方を捜索しているというわけです」

「そうなの? それは大変ですね……」


そう私はとぼけて見せると、隣から弟のオルニアス王子がビシ! と鞭の音を鳴らした。

どうやら、早く用を済ませろということだろう。



「おい、あのカス兄貴がいるかさっさと探せ! 見つけたら、百発は叩いてやんねえと気が済まねえからな!」


まるでチンピラのような発言だ。

……まあ、私と一緒にいるアンドラス第一王子は妾の子ではあるが、剣の腕も人望も全てにおいて彼より優れている。


実際に、王位継承者をアンドラス王子にするべきという声も上がっている。

その劣等感の裏返しでもあるのだろう。その様子を見ながら、兵士は申し訳なさそうに尋ねてきた。



「というわけで、馬車の中を改めさせてほしいのですが……」

「ええ、良いですよ」


私はすんなり承諾して、馬車の中に案内した。必然的に、彼らの視界にはその身を晒したアンドラス王子が映る。



「……な……これは……」

「……酷い……」


だが、これ以上兵士たちにしゃべらせるわけには行かない。

瞬間に、私は彼らの視界を塞ぐようにスマホを差し出し、命令した。



『ここにアンドラス王子はいません。あなたたちには荷物しか見えない。いいですね?』

「…………」


しばらくすると、兵士たちは顔を見合わせた後、黙ってうなづいた。


「……そ、そうですね、ミーナ様。ここにアンドラス王子はいませんでした……」

「お、おい! お前……」

「いいから! ……いないだろ、ここに王子は!」

「は、はい……。そうですね、私たちの目には、荷物しか見えません……」



良かった、やはりこの『催眠アプリ』の効果は絶大なようだ。

その様子を見て、アンドラス王子も少し驚いた様子を見せている。


……どうだ、凄いだろう、この催眠アプリの力は。

兵士たちは、心配そうに呟く。


「ですが……そう報告すると、オルニアス様がなんて言うか……」

「あの男……いえ、あの方は癇癪をすぐに起こすから……」


確かにそうだ。

オルニアス王子は気に入らないことがあると、何かにつけてすぐに怒りだし折檻する。今日彼らが鞭で叩かれたのも、日常の光景でしかない。


……そこで私は、荷物袋の中から一つの瓶を取り出した。

これも例の行商人から購入したものだ。


「これは何ですか?」

「服の汚れを簡単に落とす『合成洗剤』です。……あなた方もご存じですよね?」

「ええ……。ですが、これはかなり高い品では……」


あの行商人は『異世界』から来た道具を大量に扱っていた。

この合成洗剤という道具もこの一つで、これも大金をはたいて購入したものだ。我々が普段使っている灰とは比べ物にならないほど汚れを落とす力が強い。



「オルニアス王子は度を越した潔癖症です。これを心付けとして渡せば、きっとお許しくださるでしょう……」

「え? ……いいんですか」



あの暴君であるオルニアス王子は幼少期に許嫁を流行り病で無くしている。

そのこともあり、汚れることを極度に恐れる性格になった。剣を使わずに鞭を使うのも、返り血を不必要に浴びるのを避けるためだ。


チラリと馬車の隙間からオルニアス王子の様子を見ると、



「ああ、汚い汚い!」


と言いながら、必死になって服の泥を落としている。

この手の衛生用品にオルニアス王子は目がないことは兵士たちも分かっているのか、それを知って顔をほころばせた。


「あ、ありがとうございます!」

「どうか、ご武運を……お祈りします……」



そういうと、兵士たちは去っていった。





ーーーーーーーーーーーー



「……ふう……」



その後、オルニアス王子は一瞬腹を立てていたようだが、私が差し出した合成洗剤の瓶を見ると途端に顔をほころばせ、意気揚々と去っていった。


……まったく、現金な男だ。

だが、これでやっと私はアンドラス王子を好きに弄べる。


「さて、王子様……準備はいいですか? お楽しみの時間です……」


そういうが、どうやらアンドラス王子はすでにねむりについてしまったようだ。

……催眠アプリを使う手間が省けた。


「ずっと私は王子に、こうしたかったんですよね……」


そして私は、ようやく独り占めに成功した王子のきめ細かい肌をそっと撫で、愛おしむように抱き上げると、胸元からはじめ、全身に口づけを始めた。



ーーーーーー


……それから数十分ほど経過しただろうか。


「よし、あとちょっと……」



私はアンドラス王子に『ずっとやりたかった』ことを進めていた。

兄ではあるが、妾の子であるアンドラス王子はどうしてもオルニアス王子には逆らえない。また、優しいが少々気弱なこの王子はことあるごとに彼の鞭の餌食になっていた。


しかも彼に賄賂を渡されているであろう侍医は、アンドラス王子にろくな治療もしていなかったこともあり、その体には酷い膿があふれ出ていた。


私たちに心配をかけまいと気丈に振舞っていた王子が、その痛々しい表情は誰の目にも明らかだった。


「ん……」


私は王子の脇腹の傷跡に唇を付けた。


「……っぺ……」



そして膿を吸いだした後、アンドラス王子に包帯を少しずつ巻いていく。

傷だらけのそのアンドラス王子の治療は、一時間にも及んだ。


「ふう……これで一安心、か……」


私はミイラのようになりながらも寝息を立てている王子を見ながら、フフフと笑った。


「ん……」


おっと、私の声で目が覚めそうになったんだな。

しょうがない、もう一度催眠アプリで命令してやろう。


『王子……。まだ寝ていてください。……どうか、身体を大事にして……あなたが傷つけば、あなたを愛する私が悲しむこと……理解してくださいね?』

「……ああ……すまない……」



よし、どうやら催眠アプリが効いたようだ。

その言葉を聞いて王子はまた目を閉じて寝息を立て始めた。


……だが、王子の顔が少し赤い。それに、涙が出ているようだ。

やはり、化膿した傷の痛みが原因だろう。後で痛み止めを与えねば。



(フフ、これからたっぷりと、王子をこき使ってやるんだから……!)


王子は本当に宮殿では優しくしてくれた。

そんな彼を『城から誘拐する』という形によって、恩を仇で返したのは、全部私のエゴのためだ。



……これから、この気弱だが優しく聡明な王子を私のエゴのために利用してやるんだ。

それこそ骨の髄までしゃぶりつくしてやる。



(まったく、運が悪かったよね、アンドラス王子は……。これから『操り人形』として、悪夢のような日々がはじまるんだから……精々、今はゆっくり寝ていなさいね……)



殺し屋の娘で、あの女の残酷な血を引く私に優しくなんかするからこんなことになるんだ。私のことなど放っておけばよかったものを。


そう思いながらも、私は彼の美しい寝姿を見ながら、そうほくそ笑んだ。

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