第八品目 情は人の為ならず〜◯々苑風サラダ
「え? 社長が倒れた!?」
俺は、スマホから聞こえる言葉に耳を疑った。
電話の相手はモデルのキリコの旦那遅咲幸男。だから、倒れた社長は、芸能事務所の方の社長だ。
社長、仕後出来陽介は◯崎しげるに似すぎな六十歳。顔色は確かに酒飲み過ぎ感が凄い、どす黒い感じだけど…。
「殺しても死なない」って、いつも言ってたのに…。
とりあえず俺は、社長に連絡して、お見舞いに行くことにした。
★★★
「…都内の一等地のタワマンかよ…」
俺は、社長の家を見上げていた。ジェニーの家ほどではないが、物凄く高そうな立派なマンション。そこの最上階だと言う。金持ちかなとは思っていたが、ここまでだったとは…。
「固定資産税もヤバそうだな」
社長は、倒れた後、即入院→一日で退院からの自宅療養中らしい。
ピンポーン
インターホンを鳴らすと、しばらくして扉が開いた。中もかなり広いのだろう。
「おお、麗二。まさかお前が見舞いに来てくれるとは」
いつもより、顔色がどす黒い社長が招き入れてくれた。
モデルルームのように広い部屋。こんなのチラシか、ジェニーの家でしか見たことない。
広々としたソファーには、サイドテーブルにノートパソコンが載っていた。
「…社長、何をなさっていたんですか?」
「え? 仕事」
「自宅療養中だと、伺いましたが?」
「自宅療養ったって、仕事以外にやることあるのかよ」
「…」
俺より全然仕事人間だ。やっぱり一端の社長として都心でトップを走り続けるには、これくらいでなくてはいけないのかもしれない。
「お加減はいかがですか? 何か作りましょうか?」
「いつも俺の電話無視するくせに、ツンデレかよ」
「情は人の為ならずって本当だな。お前がまさか俺を気遣って家まで押しかけてくるとは。元女房や子供は来ねえのに」
話を聞くと、社長はなんとバツ二。最初の結婚の時にできた子供が一人いるという。
「俺には、仕事が合ってらぁ」
社長に好きな食べ物を聞くと、
「野菜以外」
と仰る。なので俺は、一旦転移で帰った後、家で料理をした。
★★★
耐熱容器に醤油、米油(サラダ油でもいい)、ごま油、塩、ごま(すりごまとかの方がいいかも)、おろしにんにく(規定より多めがオススメ)、味の素を入れてレンチン。
ガラスのサラダボウルに、レタス、きゅうり、長ねぎをいれたら、さっきのレンチンしたドレッシングを掛けて、海苔もかける。
簡単だけど、ドレッシングがめちゃくちゃ美味しい。◯ュウジのオススメサラダ。野菜は、何でも美味しいよ。
★★★
「どうぞ」
俺は、社長の家に戻り、サイドテーブルにガラスのサラダボウルを置いた。
「お前! 野菜が嫌いな奴にサラダ作ってくる奴があるか!」
「まぁ、騙されたと思って一口食べてください。好き嫌いが許される歳ではありませんよ。今おいくつですか?」
「…六十ちゃい」
俺は、このサラダに「社長の好き嫌いが直ってもっと健康になるよう」に魔法を掛けた。フライパンで、卵焼きも用意してある。
「あーんしてあげますよ」
社長は、おもむろにスマホで何処かに電話をし始めた。
「何してるんですか」
「出前頼むんだよ。ステーキだよ。ステーキ」
俺は、ステーキが来る前に、社長の口にサラダをねじ込んだ。
★★★
「…最初の一口は死ぬかと思ったけど、野菜ってこんなに美味かったんだな」
俺が、一口サラダをねじ込むと、社長は目を見開いた。直ぐに俺からサラダボウルを奪い、サラダを貪る。
「まぁ、俺が作りましたし」
…本当は、◯ュウジのレシピがいいからだけど、そこは置いといて。
社長は、サラダを全部貪った後、出前のステーキもガツガツ食べた。A五ランクのステーキだと言う。一体いくらするんだ…。俺も一口もらったが、口に入れた途端、無くなった。上質な脂の旨味が口の中に広がって超うめぇ。
★★★
食事が一段落した後、顔色がかなり良くなった社長が立ち上がった。
「よし! 元気出たし、お礼に一曲歌ってやるよ!」
…社長の家にはカラオケセットもあった。
「♫♫♫〜」
…社長の歌は、◯崎しげる本人かなというくらい。上手いを超えていた。
「うちゅくしいまで、忠実にコピーするとは…」
「お前、この歌、◯のメモリー知ってるか! 嬉しいな」
すっかり元気になった社長とカラオケで遊んだ。結構楽しかった。
「お前も、なかなか上手いな。またカラオケで遊ぼうな」
「今日は、本当にありがとう」
★★★
一週間後。
ポンポンポン
◯インの連投が来た。社長かな。無視しようかなとしていると…。
「麗二! 俺、毎日野菜食べてるぞ!」
社長がレストランや弁当を買って食事しているところの写真が沢山送られてきた。どの写真にも、サラダや野菜炒めが山盛り写っている。
顔色もかなりいいようだ。俺はほっとして。
「本当に良かったですね」
と返事しておいた。
社長には、まだまだ頑張っていただかなければ。本当に良かった。誰かの役に立てることほど嬉しいことはない。